運河は交通をエコ化する。下北半島横断運河は、陸奥湾と北関東の間の物流を劇的に合理化してくれる。早く掘るべし!

 Harry Valentine 記者による2021-12-8記事「Storm Clouds Over Ukraine Threaten the Prospects of the Eurasian Canal」。
   カスピ海と黒海(に接続した隣のアゾフ海)を太い運河で直結する「ユーラシア運河」計画というのがあるのだが、ロシアがウクライナと戦争を始めれば、この計画はチョンだ。カスピ沿岸諸国にとっては、バッドニューズだろう。

 カザフスタン、ウズベキスタン、トルクメニスタンにとって、黒海から大型船が直接にカスピ海まで乗り入れてくれるようになることは、物流を合理化するので、とても助かる。

 それだけではない。中国から鉄道でコンテナ荷物をカスピ海まで運び、そこからドナウ河河口までは大型船で送り届け、そこでコンテナ用バージに小分けして、さらにドナウ水系を経由して全欧に商品を送り届けるという、物流の合理化まで考えられるようになるのだ。

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 Agshin Mukhtarov 記者による2020-7-20記事「The Attempts to Make the Caspian a “Sea” and the Reality」。
  カスピ海から流出して他の海に注ぐ河川は、無い。

 現在、ごく小さな「ヴォルガ~ドン運河」はあり、小型船ならば黒海とカスピ海の間を移動できる。また、吃水の浅いバージでヴォルガ河水系をさかのぼれば、バルト海まで到達できる。しかしそのどちらも、多国間の国際物流ルートとしては、細すぎる。

 ヴォルガ河とドン河を結んでいる運河は、もともと「レーニン運河」といった。略号はVDSCである。1936年からこれを建設させたのはスターリンで、完成したのは1952年であった。

 ドン河の水位はカスピ海流入口のアストラハンにおいて標高44m。ヴォルガ河がアゾフ海に注ぐところは標高ゼロm。この落差44mに加えて、中間高地(ボルゴグラード=旧スターリングラード付近)を13個の仕切り閘門を駆動させて乗り越えさせねばならない。中間高地水路の水面標高は88mである。カスピからアゾフ海までの経路総延長は101km。

 注水に不可欠な人造貯水湖も3個、この運河のために設けられたのである。

 ドン=ヴォルガ運河を通航できる船舶の最大喫水は3.2mである。とても浅い。
 しかも、10月末から3月下旬くらいまで、結氷のため、運河は閉鎖されてしまう。

 スターリンは、VDSCを伝って外国船がソ連の内陸に入ることを嫌い、早くも1936年の「ロシア内水法」によって、それを法的に禁じた。

 1994年に法律が変わり、外国船も許可を得ればVDSCを通航できるようになったが、通航料は差別的に高い。

 すなわちロシア船であれば5000ドルか6000ドルで通れるのに、アゼルバイジャン船は2万ドルから2万5000ドルも払わないといけないのだ。

 VDSCを通る船が積載できる荷物は、せいぜい3000トン未満。それが限度である。スエズ運河であれば1隻16万トン、パナマ運河であれば12万トンでも通れるのだから、比較にならない。

 プーチンは2007に提案した。第二のヴォルガ~ドン運河を開鑿して、輸送力を劇的に増やそうじゃないかと。

 その同じ年、ナザルバイェフが提案した。ドン河にもボルガ河にもルートを重ねない、アストラハンと白海を最短距離で結ぶ「ユーラシア運河」を建設しようじゃないかと。※ロシアは金欠なのでこうした巨大土木事業を具体化させられないが、アゼルにはバクー油田のオイルマネーが唸っているので工費を負担できる。

 これをプーチンも支持した。

 ナザルバイェフは2017に、中共もこの話に乗るように勧誘した。そして中共の水力発電建設企業の「シノハイドロ」社が調査して、2018に、その計画はフィージブルだと結論したという。

 じつは今から数千年前、アゾフ海とカスピ海の間には天然の水路がつながっていた。そこは今も低湿地だから、工事そのものは比較的に単純なのである。「ユーラシア運河」のルートは、まさにそこを通そうという計画なのだ。

 ただし、「ユーラシア運河」ルートであっても、閘門ゼロでの直結はできない。
 9箇所の閘門が必要になる。

 完成すると、全長226m、幅24m、吃水7.15mの貨物船が通航できるようになる。貨物にして8000トンから1万トンは積載できるだろう。

 2018年の試算では、「ユーラシア運河」の総工費は、45億ドルから170億ドルの間ではないかと。それは仕様によって安くもなり、高くもなるのだ。

 かたやイランもでかい企画をブチ上げている。2012にアーマディネジャドが「イランの川」計画を提議した。カスピ海からペルシャ湾まで、もしくは、カスピ海からオマーン湾まで、イラン領内を縦断する運河をきりひらこうというのだ。
 こちらは完全な夢物語である。

 ※大山岳地帯に数千キロの運河を掘ろうというその心意気が偉いじゃないか。それとくらべたら、わが下北半島分断運河は、全長タッタ15kmでしかも標高ゼロm地帯だぞ。水位差も無いのだ。その1本を開通させるだけで、陸奥湾内に汚染物質が滞留する公害も、自然に解消してしまうのだ。

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 2021-11-29記事「Two Turkish ATAK Helicopter on the Way to the Philippines」。
   フィリピンはトルコ製の「T129」戦術偵察戦闘ヘリを6機発注している。そのうちの2機が2021-12に比島に届けられる。

 このヘリコプターの最初の海外ユーザーになる。

 比島からはパイロットが5月にアンカラに渡り、9月まで訓練を受けていた。
 エンジンは米国製なので輸出には米国政府の許可が必要だが、それは5月にOKされている。


(管理人Uより)

 兵頭本新刊『亡びゆく中国の最期の悪あがきから日本をどう守るか 国防秘策としてのプロスペクト理論(徳間書店 )』が今月、クリスマスに発刊されますよ。
 喜ばしい。喜ばしい。


亡びゆく中国の最期の悪あがきから日本をどう守るか 国防秘策としてのプロスペクト理論