最新の《続・読書余論》 https://note.com/187326mg/  は、『ヒュースケン 日本日記』1989年 岩波文庫刊・他 です。

 Jim Crotty 記者による2022-1-30記事「Synthetic Drugs are Different, Our Response Must be Too」。

   過去20年で麻薬ビジネスは何が変わったのか。工業的に合成できる薬物の登場である。たとえばフェンタニルや、メタンフェタミン。

 もし、コカインやヘロインなど、芥子栽培が前提となる麻薬ビジネスを始めようとすると、広大な土地をじぶんの思い通りにできる必要があり、しかもその土地は、芥子栽培に適した気候帯でなければ、失敗する。

 ところが合成ドラッグにはそんな参入制約がないのだ。

 製造コストは低い。製造から貯蔵まで、隠しておくことも容易。
 運び屋の視点からすれば、パーフェクトなドラッグだと言える。

 消費者側から言うと、合成ドラッグは、オーソドックスなドラッグより、致死的である。

 合衆国では今日、合成ドラッグの過剰摂取による死者が、他のドラッグが原因の死者数を、上回っている。
 この犯罪がらみの暴力やテロ行為も、アメリカ社会をいちじるしく脅かしている。
 もはや米国人の安全保障にとって、最大の害悪源泉だと見てよい。

 2001年以来このかた、違法薬物に関連して殺されている米国人の数は、なんと100万人を超えているのである。
 特に、フェンタニルは、筆頭だ。その過剰摂取は、18歳から45歳までの成人死因の第1位。自動車事故死よりも多いし、犯罪暴力による死亡よりも多いし、新コロによる病死よりも多いのだ。

 フェンタニルの原料は、中国からメキシコに輸入され、製品は、メキシコの工場から北米の南西海岸へ持ち込まれる。

 メキシコの麻薬カルテルの筆頭は、シナロア一家と、GNJG。この2グループによる寡占支配である。

 そして米政府の調べでは、昨年、違法薬物を使った米国人は、8000万人以上。

 トム・クランシーには申し訳ないが、今そこにある危機とは、メキシコから来るフェンタニルである。このサプライを撲滅しなければいけない。

 2019に米政府は、フェンタニルをメキシコへ輸出するな、と中共政府にかけあい、その結果、中共製の違法薬物は減ったのだが、こんどはそのかわりに中共から前駆物質がメキシコへ輸出されるようになった。メキシコの工場でフェンタニルが製造されるようになったのである。

 提案がある。もっか、米国の沿岸警備隊は、南米から北米へのコカインの密輸出を集中して取り締まっている。その努力を、中共からメキシコに運び込まれるフェンタニルの前駆物質の阻止に、振り向けるべきである。

 これは、コーストガード船が太平洋域で中共の商船を監視するということだから、米海軍の対支態勢の助けにもなる。意義が二重に大きくなるだろう。

 ながらく米政府は、大量破壊兵器がコンテナ船に仕込まれて米国港湾に送り込まれるという悪夢と戦ってきた。だが数値を見よ。過去12ヵ月で、違法薬物は10万人の米国人の命を奪っているのである。これこそ大量社会破壊兵器ではないか。現実を見るがいい。

 イラクとアフガニスタンで米軍は、ある技法をマスターした。それは、自家製爆薬を手作りできる技能を有するごく少数の爆薬プロ職人を探し出すテクニックである。
 このすぐれた捜査戦法を、こんどは、メキシコでフェンタニル合成工場を操業している、少数のケミカル専門家たちに適用することだ。そやつらこそが、合成麻薬撲滅に直結する、キーパーソンなのだ。

 ※前の大統領のトランプが建設させたメキシコ国境の壁は、不法労働力の密入国は防いだが、ヤクの流入を減らせていない。ならば、彼はどうすればよかったのか? メキシコとの陸上交通を全面遮断し、メキシコからの米国入国は、必ず空港を経由しなければならない――ということにするのが、最善であっただろう。それで、自動車・トラックに麻薬を隠して持ち込むことは不可能になった。それで米側は、薬物取締りのマンパワーを空港に集中することで、違法ドラッグの流入を激減し得たと思う。もちろんそうすると、メキシコに工場を持っている米国資本は、海送か航空便で製品を米国内に搬送するしかなくなるので、商売が成り立たなくなる。けれども、トランプは「雇用も守る」「中国に出て行ったメーカーは反アメリカ」と言っていたので、ポリシーの首尾は一貫する。国境の陸路往来封鎖によって米国経済が蒙る物質的損失と、数万人単位の自国民の人命の救済を天秤にかけたなら、答えは明らかだと思うのだが、何ゆえ、米国の司法哲学は、この結論を避けようとするのであろうか?


★《続・読書余論》『ヒュースケン 日本日記』1989年 岩波文庫刊・他