スターリンク衛星群は高度が低くないので地上からレーザーで攻撃できない。またウクライナ向けだけでも2000機も周回していて、ロシアがASATで撃墜しようとしても無駄。

 ストラテジーペイジの2022-3-28記事。
   1980年代に西側軍隊は、戦術無線機に周波数ホッピング技術を導入した。米陸軍ではこの通信機シリーズを「SINCGARS」と称した。

 ロシア軍はこの導入〔つまりはデジタル化〕が西側より数十年、遅れていた。2008年のジョージア侵略でこの問題は露呈した。
 それでやっと2017年から「Azart」という無線機シリーズが露軍に導入されたが、2022になっても、質・量ともに不十分であることが、このたび判明したのである。

 戦術無線機のFM通信は〔VHF帯以上の高い周波数を使うために〕、送受両局のアンテナが、見通し位置関係にないと、信号が達しない。平坦な砂漠でも35km。山岳地では8km以下ということも。そして、ジャミングされ難い周波数ホッピング方式にすると、Azart は、その通信成立距離が半減してしまう。そのような場合、周波数ホッピングしない方式に、スイッチで切り替えることができるのだが、するとたちまち敵に傍受されたり、ジャミングを受けることになる。

 性能の悪いロシア製のデジタル無線機では、このスイッチが多用される。暗号モードでは通信が途切れがちになるので、ホッピングを停止する。それで、敵軍や第三国機関によって容易に傍受され、位置を標定され、通話内容が解析されてしまう。

 米軍は、山岳重畳するアフガニスタンにおいては、衛星通信と、有人航空機(双発プロペラ機。ビジネス旅客機の改造)を中継局として飛ばすFM戦術無線を多用したので、敵に傍受されることもなく、敵から妨害されることもなく、通信到達距離は無限大であった。

 今次戦争で露軍は戦術通信に衛星を使っておらず、有人中継機も飛ばしていないようである。

 それに対してウクライナ軍は、イーロン・マスクのスターリンクをフル活用できることが公表されている〔他に非公表のNATOからの通信便宜提供があるはずだが、この記事ではオミット〕。

 ウクライナのデジタル担当閣僚から依頼を受けたマスク氏は、それから1週間しないで、必要なユーザーキット(ポータブルな衛星通信用アンテナとモデムがセットになった地上局セット。これをユーザーのPCに接続すればすぐ衛星経由でインターネットができる)をトラックでウクライナに搬入させた。
 そしてすでに1万1000機が周回しているスターリンク衛星群のうち2000機の軌道を調節させて、ウクライナ領内でスターリンク通信がしやすいように計らった。

 ユーザーキットの搬入は継続されており、すでに数千セットがウクライナ人の手に入っていると見られる。さらにスペースX社の技術支援要員もウクライナ入りしていると見られる。

 さらにイーロン・マスクは、この3月のうちに、ユーザーキットを車載して移動中に通信できるように、システムを進化させるという。その電源は、自動車のバッテリーでもよくなるという。そうなれば、露軍がウクライナ人の衛星通信を探知してその地上局を襲撃することは、至難になる。

 ウクライナ軍は、最前線で戦闘中に、このスターリンクを戦術無線機代わりに使えるわけである。

 ※やばい。一私人であるイーロン・マスクが、この調子では、ロシアを滅ぼしてしまうという歴史がつくられる。次の課題は、「プーチンをヨイショする地上波テレビしか視てないロシア領内の大衆」に直接、世界情報を届ける方法の工夫だろう。すでにそこまでも考えているはずだ。

 露軍は、通信部隊の車載中継局が、戦場のあちこちに中継アンテナを立てることによって、Azart のネットワークを保持しているようである。

 しかしこの中継アンテナは目立つ。ウクライナ人ゲリラは、それを発見次第に破壊してしまう。

 そこで、まだウクライナ国内で生きている携帯電話網を利用するということになる。露軍の指揮官が、ウクライナのSIMカードを挿入してある携帯電話を、戦術無線機の代わりに使うのだ。
 この方法の弱点は、通話がウクライナ側に筒抜けになること。しかしそれを承知で、使うしかないのだ。

 シリア帰りの露軍将校は、中共製のトランシーバーを愛用している。それはシリアでは、敵も味方も普通に使っていたので。

 シリアでは、露軍の兵隊は、4Gスマホを禁止されていた。4Gは、簡単に写真や動画をSNS投稿できる。そこから、露軍が隠したいことがすべてバレてしまうためである。

 ドンバスでは2017年に、現地にロシア正規軍が所在していることの証拠となってしまう画像をSNSに投稿した者は10年の懲役刑にするという「お触れ」が出されている。そこにはロシア軍は存在しないことにされていたのだが……。

 露軍の砲兵部隊は、最前線部隊との通信がよくないので、味方撃ちを避けるためにも、都市への無差別砲撃で、さっさと仕事を済まそうとしている。

 ウクライナ軍は、ウクライナの携帯電話サービス会社から、専用の暗号ソフトを貰っているようだ。それで、ウクライナ軍だけは、携帯電話を「秘話」モードにして、軍用通信機代わりに使えるようである。

 ウクライナ側では、Azartの弱点は全部、知っている。というのも2017いらい、その無線機が「闇市場」で売られているからだ。なんとドンバスの露軍内から、最先端の戦術無線端末が、横流しされているのである。

 ウクライナの鉄道には、鉄道管理のための有線通信網が併設されており、それ専用の暗号ソフトもある。このおかげで、鉄道輸送をロシアからハッキング妨害されることはないという。

 ウクライナ領内では鉄道を使えない立場の、ロシア軍の補給トラック部隊は、道路上で渋滞にハマった場合、それからどうしたらよいか、じぶんの一存(イニシアチブ)では動けない。必ず上級司令部の指示を受けなくてはならない。ところがその無線が通じない。だから、延々といつまでもその場所から動けない。トラックが爆破されたわけでもないのに積荷から離れれば、あとでドライバーが軍法会議にかけられて罰せられてしまう。

 開戦前、ウクライナは2万2300kgの鉄道を維持し、40万人が鉄道で働いていた。機関車は2000台、貨車は8万5000台、客車は4000台あった。

 ベラルーシとウクライナの間には6本の鉄道が通じていた。
 この鉄道を使って露軍を送り込もうとしたのを、ベラルーシの鉄道会社員がサボタージュしようとした。ベラルーシ軍は、鉄道沿線に兵隊を展開させて、鉄道会社のサボタージュを監視させたが、国境越えの輸送効率は低下したままだという。

 次。
 Neha Arora 記者による2022-3-27記事「India leans toward continued import of Russian coking coal」。
  インドはますます多くのコークスをロシアから輸入するつもりだ。これはインドの鉄鋼大臣が表明した。
 いままでの2倍も、輸入するであろうという。

 ただしロシアはインドへの石炭供給を独占しているわけではない。海外からインドに入ってくるコークスと、火発用の石炭の産地として、ロシアは、第六番目にすぎない。

 ※サーマル・コールといった場合、それは主に火力発電用を指す。対概念が、コーキング・コールである。

 インドとロシアは、貿易決済を、ルーブルとルピーでする方針だ。

 次。
 2022-3-28記事「Miner Petropavlovsk hit by UK’s sanctions on its main lender」。
    ペトロパウロフスクには金鉱山があって、英国企業が投資しているのだが、対露制裁が発動されたおかげで、このビジネスは先行きが真っ暗である。