カミル・ガリーフ氏の発言を傾聴する。

 Kamil Galeev 氏はロシア生まれの軍事研究家。

 ソ連崩壊後のロシアの民族問題に関心の中心がある。

 北京大学で経済修士号を得ている。

 英国のセントアンドリュース大学で、マスターズ・イン・マネジメントを1年受講。これはビジネスと関係ない修士に、経営学について仕込んでやる課程である。

 プーチン体制には反対しており、そのため2020年に短期間、投獄されたことあり。

 『ノバヤ・ガゼッタ』紙には21の記事を寄稿してきた。

 1941年から44年までドイツに占領されていたオデッサ市についての歴史書あり。
 また1941~42のユダヤ人迫害について調べた論文もあり、それは2013年の公刊本に載っている。

 ガリーフ氏による、2022-2-28のツイッター連投がすごい内容だ。簡単にまとめれば以下の如し。

 プーチンが「特殊軍事作戦」と号したのは言い得て妙で、プーチンには「戦争」はできない。できるのは「特殊作戦」だけ。それは弱小な相手にしか通用しない。今のウクライナには通用しない。

 2014時点のウクライナは弱小な相手だった。露軍がウクライナの倉庫で鹵獲した対戦車ミサイルの99%は、使い物にならなかったという。つまり軍隊が事実上、存在していなかったも同然だったゆえ、楽勝でクリミアを奪えた。

 ところがそれから8年間、ウクライナ軍はドンバスにローテーションで徴兵をはりつけるようになり、彼らが除隊するや、郷土防衛隊のメンバーに組み入れた。これはポーランド由来の国防制度で、有事には、自分の住んでいる町村だけを防衛する「後備兵」である。
 8年間で、ウクライナは、弱小な相手ではなくなっていた。

 ところがプーチンは2014と同じつもりで今回もまた、「特殊作戦」を決意した。「戦争」ではなく。

 ショイグは超無能者なのである。1991からパージされずに生き残ってきているのだ。それは、軍の改革をぜったいにしないから、誰の敵にもならず(既得権を損なわせると思わせず)、ゆえに、ひきずりおろされなかったということなのだ。ショイグは少数民族出身で、今の地位より上を狙えるタマではないと自他ともに看做す。ショイグの前任者は、有能で、ロシア軍を改革しようとしたため、ひきずりおろされている。

 ロシア軍の改革には、海軍のリストラが必要なのだ。最強海軍と、最強陸軍は、どの国も、両立させられない。ロシアは陸軍を最強化し、そのためには海軍を捨てるのが合理的であった。ショイグの前任者はそれをやろうとし、ひきずりおろされた。海軍利権の関係者から恨まれたのだ。

 ショイグは海軍にも陸軍にも資源を配分している。これで最強陸軍ができるわけがないのである。

 さて、動員についてだ。
 陸上で電撃的な「戦争」をするには、第一梯団(エシェロン)のあとに、第二梯団、第三梯団を、寄せ波のように連続無停止で送り込まねばならない。第一梯団は強力な抵抗陣地を迂回して前進を続ける。その抵抗拠点は、後続の第二梯団が処理するわけだ。

 ところが「特殊作戦」には、第二梯団はない。さいしょから無いのだ。そのかわりに、護衛のない補給トラックのコンボイが続行する。これが、今回、ウクライナの郷土防衛軍の鉄砲の的にされた。

 後続梯団が続いて来ないのでは、第一梯団の突進衝力もじきに鈍ってしまう。そして敵正規軍の重囲の中にとりこまれて、殲滅されてしまう。

 ウクライナは、2014には弱小な相手だったが、2022には、もはや弱小ではなかった。2022のウクライナを圧倒するには「戦争」が必要なのだが、プーチンはそういう「戦争」をしたことがなく、そのやり方も知らない。

 第二梯団が存在しないと判明した時点で、プーチンはこの「特殊作戦」を成就できないことはハッキリしたのである。

 以下、ガリーフ氏による3-28のツイッター投稿。

 昔のソ連は集団指導のマシーンだった。つまりは「官僚貴族制」といえた。そこにはポリトビューロ内の真の「討論」があった。
 くらべて、今のロシアはプーチンの単身独裁。帝王の一存で開戦も停戦もできる。高官は唯々諾々、ただ平伏して拝承するだけだ。

 だからもしNATOがプーチンに妥協して今の戦争をなあなあで手仕舞いしてしまえば、プーチンは戦後に絶対君主化し、「大きな北朝鮮」が形成されることになる。ミュンヘン宥和後のヒトラーと同じだ。

 そうさせてはならないぞ。

 ヒトラーの政治生命は1938には危うかった。もし英仏がチェコスロバキア問題でエスカレーションを決意していれば、ドイツ国防軍はクーデターを考えた。それほど国家の危機だった。しかしチェンバレンが引っ込んだがために、ヒトラーはそのときをもって逆に不可侵の神になったのである。ドイツ国民も、神のいうことをもはや疑わなくなった。

 じつは独裁者になるための合理的な道筋というものはない。独裁者は、「非合理的」な決断を下して、それに見事に成功することによって、国内権力バランスをガラリと変更してしまい、それによって自分がカリズマになりあがるのである。

 今プーチンも、ロシアのすべてを「賭け金」に差し出して、非合理的な博奕を打っているところだ。ロシア庶民はぜんぜんそれがわかってないが、ロシアの権力エリート層は、さすがにわかっていて、ビクビクしている。
 ロシアはウクライナと、もはや「和平」はできない。なぜならそれは「ウクライナの勝利」しか意味しないから。

 今後、プーチンが狙うのは、西側との「合意」&「制裁解除」。それしかないのだ。それだけが「プーチンの勝利」を演出してくれるから。すなわち、第二のミュンヘン宥和。

 ロシア指導層は、誰も、ウクライナと戦っているとは思っていない。彼らは、西側と戦っているという意識なのだ。最初から。

 ロシアの弱みは、石油とガスしか輸出するものがないのに、その石油の採掘コストがどんどん上がっていて、儲けを出せなくなりつつあることなのだ。

 内陸部の油層は枯渇してしまい、これからは、北極海の氷の下を次から次と掘って行かなければならない。ハンパな採掘コストでは、それは済まない。
 しかも、そうした難しい場所の探査と採掘の技術は、ことごとく、西側依存なのだ。

 また若年人口がどんどん減っているため、戦争で人海戦術を採用したら、もう産業振興は不可能になってしまう。かつてのソ連時代には、それは理論的に可能だったのだが、いまは、戦争と生産の二兎は追えない立場なのだ。

 だからジリノフスキーがいみじくも吠えたように、「戦争に勝って隣国から富を略奪してしまう」というのが、一縷の望みともなるわけだ。
 プーチンとそのとりまきも、ロシアは経済的に沈みつつあると正確に把握したから、軍事冒険を急いでいる。

 ロシア人も馬鹿ではない。自国経済が「沈みつつある船」だとは知っていた。しかしロシア軍も既にダメなのだとは誰も知らずにいた。

 経済の調子がいいかわるいかは、統計データを使えば、国家の経済指導部局には掴める。ロシアでも、経済担当の高官は全員、能力本意で抜擢されているのだ。彼らは西側の大学で経済学を修めている俊秀だ。

 しかし露軍の実力をプーチンは把握できなかった。
 ロシア軍が強いか弱いかの統計データはなかった。1945いらい、他国の正規軍相手の本格戦争をしていないから。
 今次ウクライナ侵略が、初のテストなのだ。

 プーチンはシリア派遣の兵隊たちから、生の声を集めさせるべきだった。しかしそれをしないで、将軍たちの自慢話だけに耳を傾けた。

 企業の経営者だって、成功している者は、現場の声を聞いている。君主が、軍隊について、それをしないでいいわけがない。

 ロシア軍をかいかぶっていたのはプーチン一人じゃない。それはロシア人民の牢固とした集団幻想だった。

 ロシアの軍人に理想主義はない。下級将校たちの夢は、広いアパートと外車をもつこと。将軍たちの夢は、別荘と高級外車(アウディ)をもつこと。それ以外、何もなし。
 1990年代にロシア人は、カネのためには平気で人を殺した。「富裕になる」以外の理想がないのだ。

 カネが得られるよ、といわれれば、ロシアのプロ軍人たちは、よろこんで侵略戦争に出征するし、現地で、誰だろうと殺す。金品を奪うために。

 ※やはり「タイヤ爆弾」は有効だ。それを廃車のアウディA4にとりつけておく。

 ロシアのエリートは、労働者が富むことを望まない。それでは競争力がなくなってしまうと考えている。
 労働者が富むと、高級輸入品を買いたくなり、さらには、国外へ移住したくなる。それでは、困るのだ。貧乏なままでいてくれれば、ロシアの外貨は減らず、労働力も減らない。

 ウクライナ人のハッカーがロシア軍死傷者の広報をやっているようだが、もっと効率的なサボタージュがあるよ。それは線路脇の配電盤を燃やすことだ。

 ※その前に陸上部分のパイプラインを爆破しろよ!

 露軍はトラック輸送に弱点があり、今後、経済制裁と、戦場磨耗とで、リペアもメンテもできなくなるはず。つまりますます鉄道輸送に依存するしかない。だから鉄道を破壊せよ。

 しかし昨日、誰かがやってくれたようだ。「Kaluga」の近くで、鉄道の配電盤を手製爆弾で破壊しようとしたと報じられている。

 ※カーブ部分のレールに夜中に潤滑油脂を塗っておけば列車は脱線する。ただし2回目は警備が強化されるのでできなくなる。そこで、「脱線器」というシンプルでハンディな工兵機材があるので、その図面をダウンロードしてガレージで製造し、直線部分に仕掛ける方法がある。

 以下、3-26のガリーフ氏のツイッター投稿。

 2014のときの制裁はそれなりに有効だった。おかげで露軍は、ハイテク兵器の開発と生産にブレーキをかけられてしまったのだ。
 今次の制裁では、ロシア国家が分裂するだろう。通信インフラが維持できなくなるので。

 以下、3-28の投稿。

 全露軍の武器生産のボトルネックになっている箇所を探すこと。たとえば多連装ロケット砲の「Grad」は、ぺルム市の「Motovilihinskiye Zavody」工場だけで造られている。ここをサボタージュせよ。

 多連装ロケットの枢要パーツのひとつが、キーロフ市の「KZTS」工場から供給されている。これも狙い目だ。

 ベラルーシ発の貨物列車を妨害したのはポーランド人の活動家だ。

 シベリア鉄道もボトルネックだ。2021-7下旬の洪水で、列車500本が遅延し、復旧したのは8月中旬。その間、輸送力は半減したのである。

 そこで再びアドバイス。鉄道を破壊してその写真をSNSに上げることの方が、ウクライナでの露兵の死者数について報知することよりも、ロシア銃後に対する心理戦の効果はまさるだろう。ロシアの片田舎から徴兵されてきた兵隊の親にとって、息子の戦死は痛手ではないのだ。というのもプーチンから出される軍人恩給(戦死手当)は、田舎水準では相当の高額であって、親としては、それでペイした気分になるほどなのだ。※だからヤクートみたいな僻地のアジア人部隊をわざわざ連れてくるのか。

 欧州のメーカーがシベリア鉄道で商品を中国まで輸送させている。これは非難して止めさせろ。ロシアの鉄道会社を儲けさせているだけじゃない。この「商品」にまぎれこませて、ロシアの兵器製造に必要な西側パーツを、悪いやつらが、密貿易しているからだ。

 ロシアの地方の徴兵係には「ノルマ」がある。それに満たないときは、僻地の少数民族から余計に強制徴募する。これは帝政時代いらいの伝統だ。捕虜の中の少数民族の声を伝えろ。それが僻地には響くはずだ。

 特にタタール、バシュコルトスタンの少数民族(バシキール人)を注視せよ。

 思い出せ。もし「チェコスロバキア連隊」というものがなければ、革命直後のロシア内戦(白軍vs.赤軍)も無かったのである。

 以下、3-31の投稿。

 地上戦だけでウクライナは今次戦争には勝てない。航空優勢が、ぜったいに、必要である。

 以下、ガリーフ氏の3-24のツイッター投稿。

 中共にとって、ロシアは同盟者ではない。中共のために道を啓く、先導砕氷船である。
 これが、中共人の見方。