リトアニアが自国領内のガスパイプラインを爆破すると、カリニングラードに全く天然ガスが行かなくなる。ゆえにロシアがバルト三国を侵略するなら、電撃戦にするしかない。

 Kamil Galeev 記者による2022-5-21記事。
   マリウポリは戦争の初日から陸上を包囲された。
 守備隊は最後まで、ストリートに出て戦闘し、地下で寝るというパターンだった。

 ヒトラーがソ連に侵攻したとき、ヒトラーは狂っていなかった。もし米国が対ソのレンドリースを発動していなければ、ドイツ軍はソ連の補給と生産を次々に不可能にして勝てていた。その計算の下に、ヒトラーは決断している。

 ヒトラーが読み間違ったのは、米国の対ソ物資援助のスケールであった。ヨーロッパ人の感覚では、それは桁違いだった。

 いま、1941年とは逆のことが起きている。ロシアは2014から受けている経済制裁の締め付けをさらに強められている一方で、ウクライナには怒涛の軍需品支援が流れ込んでいるところ。あとは、必要なのは、時間だけである。

 マリウポリの守備隊は、その時間を稼いでくれた。後方のマリウポリが陥落していないから、露軍の先端部隊はオデッサまで行けなかったのである。

 ※雑報によると、露軍の一「少将」の戦死体は、路上に転がったままの状態でウクライナ軍によって発見されたという。将軍の死体を回収する気もないらしい。今のロシア軍には。

 次。
 Kamil Galeev 記者による2022-5-20記事。
   ロシア本国では、戦争支持の意見表明の程度と、そのロシア人の所得とが、比例している。
 ロシアの大金持ちは、ウクライナ戦争を熱烈に支持しているのだ。

 この調査データはロシアの社会学系の機関RBKが出してくれている。

 その日の食費にも事欠くようなロシアの困窮階層者は、今次戦争に対する支持率も最低である。

 それと反対に、ロシアの大金持ち階級はおしなべて、完全勝利するまでウクライナで戦争は続けるべきだと言っている。

 ところで、ロシアでは「あんた、月にいくら稼いでいる?」と訊いても、誰も正直に答える者はいない。

 だから、次のように質問せねばならない。「あなたは○×が買えますか」と。すると相手はフランクに教えてくれる。

 小さい町の貧民たちは、日歩(最高)1%の、小口金融で食いつないでいる。借金漬け生活である。
 ※トイチ か!

 ロシアで自殺率が高い理由のひとつがこの借金苦である。田舎の貧民がふつうに、街金ローン地獄に堕ちているのだ。

 ただし思い違いをしないように。この自殺は、必ず、職場の工場においてしなくてはならないのだ。
 職場で自殺を遂げることにより、その遺族には、月に30万ルーブルから40万ルーブルが入る。工場は労災を見込んでその積み立てをしているから、ちゃんと支払われる。最高50万ルーブルということもある。

 ※5-22レートで、1ルーブルは2.06円である。

 この殉職補償金のために、一家の大黒柱が、自殺するのである。たとえば溶鉱炉に飛び込むというやり方なら間違いなく労災認定されるのだ。

 その工場を経営している超金持ち階級は、どのようなハウジングプランを持っているか。
 一歩一歩、西側世界の中枢に、近づこうと努力する。
 さいしょは、しょうがなく、女房と子供をモスクワにでも住まわせおく。だがこれは「小金持ち」のレベル。

 超金持ちは、かならず、子供が少し大きくなったらすぐに、英、仏、またはスイスのパブリックスクールに入れる。そこで、寄宿生活させる。そっちの方が、西側世界の中心だから。これが、全家族移住計画の初一歩だ。

 ロシアのすべての会社経営者階級が、例外なく、この西欧移住プランをじぶんなりに立て、それにしたがって行動する。

 会社の経営が順調なら、次は、女房と、もっと小さい子供たちも、西欧へ出す。これが「ステップ2」だ。
 この段階では、西欧にちゃんと不動産を所有していなくてはならない。

 この段階になれば、ウラルで工場を経営していても、いつでも女房・子どもに会いに、西欧へ旅行ができる。ただし、必ずウラルには戻ってくる。

 ウラルは彼の住居ではない。住居はモスクワと西欧にあるのだ。工場があるウラルは、彼にとって「狩猟採集の場」なのである。
 ※『今昔物語』に出てくる「受領[ずりょう]」だね。任地で極限まで収奪するぞという精神。

 ロシアには、完全に個人所有の巨大企業というものはない。大きな企業には、必ず政府が一枚噛んでいる。だからその経営者は「受領」感覚でいいのだ。任地で収奪して、任果てたのちは「所領」がある西欧で家族と豪奢に暮らす。

 経営者は単身赴任である。地方の政庁の局長・部課長も、似たようなもので、女房と子供はモスクワに置きっぱなし。自身は週末にそこへ帰るだけ。そして大きくなった子供は、上流階級向けの英国の大学に留学させている。これが典型的なケース。

 超金持ちの経営者は、プーチンをよろこばせるために、たとえば巨大スケート場のようなものを、わざわざ自費でモスクワの近くに建設して、赤字覚悟で運営もする。
 というのは、経営者や地方政庁幹部職の地位・任地を決めるのはまったくのところ、モスクワのプーチンの側近たちなのだ。「受領」にしてもらえるかどうか、「受領」を続けさせてもらえるかどうか、すべてプーチンの取り巻きの一存で決まる。不興を買えば、退任させられてしまう。だから、モスクワのとりまき連中を、しっかりと、よろこばせてやらねばならない。

 このような立場にある「受領」階級が、どうしてプーチン様に盾つくような発言ができようか?
 もう分かっただろう。ロシアでは金持ち階級は全員、プーチンの戦争を支持する。それしか、夢のライフプラン(=家族全員西欧移住)を実現する道はないからである。

 ひとたび、家族全員西欧移住をなしとげてしまった、「元ロシアの大金持ち」は、こんどは一転して、反プーチンの発言をするようになったりする。もはや彼はプーチンのとりまきをヨイショしなくても豪華な生活ができる基盤を西欧内に築きおえている。「受領」ではなく、開発地主。一国の「小名」だ。立場がガラリと変わったから、発言も変わるよ。 ※そして暗殺部隊に狙われるわけか。一家心中を擬装されてニュース種に……。

 戦後のロシアをまともにしようとしたら、「落下傘収奪者」のシステムを覆す必要がある。
 それには徹底した地方分権も必要である。トクヴィルはそう見ていた。

 ※無理だ。ロシアや支那のようなユーラシア大国が地方分権化すると、そのさらに外側にある勢力から国境線を押し込まれるから。地理が政治を決定する。したがってロシアにも支那にも自由な未来はありえないのだ。