ウクライナはスイスに追いつけ。

 Karl Smallwood 記者による2019-9-12記事「These insane defenses allow Switzerland to remain neutral」。
  ナポレオンが没落したタイミングで開かれたウィーン会議にて、欧州列強は、スイスは永世中立国であると宣言した。1815年のこと。スイスが宣言したのではなく、周辺強国がスイスについて一致して宣言したのである。

 フランス革命政府は1798年にスイスを軍事占領し、傀儡共和国政府をそこに樹立していた。
 そこにはオーストリー軍やロシア軍も進攻してきた。フランス軍との戦争の一環として。

 このときスイス国民は、フランスの支配者に協力しなかった。
 そこで1803年、ナポレオンは「調定法」を制定し、ふたたびスイスを独立国に戻してやった。ただしフランス寄りの政策を採らせた。

 欧州にはながらく、フランスとオーストリーの角逐構造があった。ブルボンとハプスブルグの2大勢力は相容れないのである。
 スイスは16世紀からその角逐の局外に立ちたかったが仏墺の双方が合意しなければそれは無理だ。
 ようやく1815に希望が叶った。仏墺を含む列強が、スイスを仏墺のあいだのバッファーゾーンとして安定させておくことに、一致した国益を見出したためであった。

 中立義務はしかし、武力で維持しなければならない。
 WWII中、スイス空軍は1940年だけで10機以上のドイツ軍機を、国境線内で撃墜しなければならなかった。また米軍の爆撃機も何機か撃墜している。強制着陸させた外国機は数知れない。

 昔は航法が精密でないので、米軍の重爆がドイツの町と間違えて近くのスイスの町を猛爆撃したこともしばしばだった。当然多数の戦災犠牲者もスイス国内に発生している。

 中立を武力で徹底的に守るという姿勢をみせつけないと、中立は尊重されない。だからスイス空軍は勇猛果敢であった。

 スイスの人口は800万人だが、男子の三分の二は軍事訓練を受けている。
 身体健全なのに、主義によって入営したくないという男子は、30歳になるまで、余分な高額の税金を支払い続けねばならない。

 現状、現役兵は14万人いる。今年〔2019年〕、その現役兵力を10万人に削減しようという法律が可決されたが。
 ほんの20年前までスイス軍は、現役だけで75万人も維持していたものだった。これは今日の米軍の半分の人数に等しい。ちなみに合衆国の人口は3億人だ。

 中立には、どれほどの努力が要るかが、わかるだろう。

 スイスでは10歳以上のこども50万人もが、射撃クラブに所属し、ライフル銃や拳銃を練習している。
 ※軍用小銃と同じ5.56ミリ実包を発射するセミオートライフルを習う場合、国がその弾薬代を肩代わりしてやる制度もあり。

 かつては、徴兵の任期が満了して除隊した予備役は、現役時代に支給されていたじぶんの軍用自動小銃(フルオート射撃可能)をそのまま自宅に持ち帰って保管しつづけるという制度だった。

 しかしポスト冷戦期になり、EUがテロ防遏の一環として高威力火器の取り締まり法の強化に乗り出すと、陸封国であるスイスとしては、それに合わせなければ貿易の不利益を蒙ってしまう。

 そこでしぶしぶ、次のような制度にあらためた。軍隊を除隊した男は、同じ実包を発射できるセミオートライフルを、あらためて、自費で購入して(そのさいに許可申請必須)、それを自宅に保管すると。

 さらに、軍用銃の弾薬は自宅に保管させぬことにもなった。以前は、一定量の弾薬も自宅保管させていたのだが。

 スイスは国策として町と町の間にトンネルを穿ち、世界核戦争が始まっても軍隊の進退と住民の避難に遺憾がないようにしている。そうしたトンネル内には、パン焼き施設から病院施設までが付帯している。
 陸軍の砲兵隊は、倉庫がトンネル内にあって、トンネルの出口から、国境の道路を照準できるようになっている。
 空軍機も、トンネルを格納庫にしている。

 スイスには「海軍」もある。国境の湖で捜索救助などするのに必要なのだ。

 第一次大戦の勃発にさいしては、スイス軍は20万人を動員して国境警備に付けた。休戦時点では12万人に削減していたが、これは、スイスの国境を誰も犯せないと周辺国が認知したので、警備水準を落としたのである。

 第二次大戦の初盤、スイス政府は3日間で43万人の兵力動員できる体制を構築した。各家庭には、常時最低2ヵ月分の必需品を貯蔵するようにも奨励した。

 もしドイツ軍が攻め込んできたら、中立政策をかなぐりすてて、フランスと同盟して共闘するつもりで、仏政府と秘密交渉もしていた。

 フランスが降伏してしまうと、スイスはドイツのために物資密輸の便宜を図ってやることで、ドイツの直接侵略を免れようとした。連合軍もこれを察知し、スイス国内の倉庫を爆破したりしている。

 WWII後のスイスは、アルプスに後退してゲリラ戦をするのではなく、できるだけ国境で敵を食い止めるという戦略転換を目指した。もちろん対ソ戦を念頭した。

 国境の橋梁や鉄道に、爆破のための事前準備を整えたのは、この冷戦期である。

 国境の橋梁は、工兵隊が設計した。そして、まったく同じ鉄橋を実際に爆破してみて、どのような爆破方法がいちばん効果的かを、スイス工兵隊は確かめている。

 国境近くの山岳縦貫道路の場合、路面の爆破ではなく、「人工土砂崩れ」によって道路を埋めてしまう方法が選好され、高い稜線上に発破の事前準備が整えられた。

 公表されただけでも、こうした「自発爆破ポイント」は3000箇所以上もあった。

 ここまでしないと、侵略者を事前に諦めさせることはできないのである。わかったかウクライナ人。

 スイスの戦後の建築基準法では、新築住宅の天井には、40cm以上の厚さのコンクリートを打たなければならない。こうすることが、各家庭をそのまま、空襲時のシェルターとするからである。
 もし戸主がこの基準を満たせないときには、余計な税金を納めねばならぬ。その税金で、地域の公共の地下壕が整備されるのだ。

 今日、スイス国内の純金や食糧の多くが、アルプス山中の地下壕に分散保管されている。

 のみならずスイスには「秘密発電所」がたくさんあるという。これは小規模な水力発電所で、上空からはまったく見えない場所に、非常時の給電用として建設されている。核戦争時には、そこから、地下壕へ給電できるのだ。
 水力発電用のダムそのものを、うまく隠しているところもあるという。

 ソ連が崩壊すると、スイスの防衛体制もかなり緩められた。多くの「爆破準備」が廃止されたようだ。

 地下室のような施設は、廃止後に放置すると危険なので、スイス政府としては、誰かにタダでくれてやってもいいと思っている。

 大規模な地下施設の一部は、IT企業のデータセンターになったという噂である。

 豆知識。
 「スイス・アーミー・ナイフ」はWWII後に米国人が名づけた。
 原語では、「スイスの将校のナイフ」とよばれていた。
 メーカーはヴィクトリノックス。創業者はカール・エルゼナー。
 彼の母親の名前と、フランス語でステンレススチールを意味した単語を組み合わせてある。
 エルゼナーはもともとドイツで手術器具をつくっていたが、1890から多徳ナイフも製造。その後、スイスに引っ越した。
 柄の中にあるひとつのバネによって、柄の両端にある刃具のどちらもカチリと止められるようにしたのが、彼の大発明であった。

 ※スイスのSIG拳銃がどうして優れているのかは、スイスの「銃文化」を知ると、納得ができる。国民全員が、火器評論家だといってもいいくらいなのだ。

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 ストラテジーペイジの2022-6-7記事。
   イスラエルにとっての最大脅威はイラン。そのイランはシリアまで出てきている。だからシリアではロシアと衝突したくない。だからウクライナ向けにイスラエル製の武器は供与させない。

 イスラエル政府は5-30に、トルコ国内にいるイスラエル人に警告を発した。イランが先週、IRGC(イラン革命防衛隊)の大佐 ハッサン・ホダエイをテヘランで暗殺されたので、その報復としてイスラエル人を殺したがっているから気をつけろと。

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 Emma Helfrich 記者による2022-6-6記事「Taiwan Uses Naval Mines Designed Over A Century Ago」。
   台湾海軍が現用している繋維式機雷は、米国が1917年に制式化した「マーク6」の最終改良版「モデル14」機雷の、そのままである。その訓練機雷は「マーク6 モデル15」である。

 このたび、就役したばかりの新造の「布雷艇」による、その機雷の連続敷設演習がなされた。

 台湾は、新造のステルス・コルヴェットにも機雷敷設能力を備えさせているが、こんどの訓練に出たのは、専用の敷設艇だ。上甲板はフラットデッキ・スタイルなので、超ミニ空母のようにも見える。

 従来、台湾海軍は、揚陸艇を改造した機雷敷設艦しかもっていなかった。それではいかんと蔡政権が、機雷戦能力を刷新させようとした。その成果がようやく形になってきつつある。

 この「マーク6」はアンテナ機雷である。「Kピストル」と称される銅のアンテナを、水面直下に広げる。これによって触雷面積が広がるのだ。

 ※アンテナ機雷については、拙著『封鎖戦』を読んでほしい。戦前の日本海軍はこれをコピーしようとして遂にできなかった。そして戦後の海自は、この機雷を貰っていたと思しい。

 米海軍は1985年まで「マーク6」をストックしていた。米海軍史上、最も長く使われた機雷だった。

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 AFPの2022-6-7記事「Ukraine opposes IAEA visit to Russian-occupied nuclear plant」。
   IAEAのラファエル・グロッシが、露軍が占拠中のザポリッジア原発を、ウクライナ政府のリクエストにより視察すると月曜に語ったが、ウクライナ政府はそんなものを招待していない。嘘をつくなロシアの手先め、断る。

 ロシアは、ウクライナが電気代を払わないならこの原発からの給電を止めると、5-19に脅している。

 同原発は、2021においてウクライナの電力需要の2割を満たしていた。ウクライナの全原発の半分の発電能力があった。

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 indomilitary の2022-6-7記事「Northrop Grumman Releases “Jackal” ? Kamikaze Drone with Turbojet Engine」。
    スイッチブレードのメーカーであるアエロヴァイロンメントと共同してノースロップグラマンは、新しい特攻自爆ドローン「ジャッカル」を開発しつつあり。エンジンがターボジェットである。

 空中もしくは陸上から発進。巡航速度は483km/時になる。
 今つくっているのは航続距離100kmを目指している。滞空時間にすると15分である。

 弾頭重量は4.5kgになるというが、全重は非公表。

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 Oliver Parken, Tyler Rogoway 記者による2022-6-6記事「I Bet You’ve Never Seen A Private Jet Fly An Approach To An Aircraft Carrier Before」。
   『トップガン2』の空母まわりのシーンの空撮に使われた飛行機は、エムブラエル社製「フェノム300E」である。

 ホンモノのF-18のコクピットに手持ちカメラを持ち込んで、空母に着艦するときのパイロット視点の映像を撮ることは非現実的だったので、そのかわりに、10人乗りのビジネスジェットを使ったというわけだ。

 この撮影者は、父も祖父もパイロットで、スタント撮影の第一人者。

 ドッグファイトの空撮には「L-39 Cinejet」を使った。

 ジンバルは、F1のカメラに使われているものと同じ。一度に、二種類のレンズで同時に撮影してしまうことができる。

 「フェノム」はどこが最適かというと、滞空時間が長いので撮影日を無駄にしないで済む。双発なので海上で故障が起きたときにも安心だ。