狂風注意報

 ストラテジーペイジの2022-8-29記事。
   ロシアは、いったん占領したウクライナ領土のうち20%を、すでに奪回された。

 ロシア兵は最初、おどろいた。ウクライナ人の生活水準が本国ロシアより遥かに良好なので。1990年時点では、何の違いもなかったのに、ソ連分解後の経済路線の違いが、明暗を分けたのだ。
 2014いらい、認識は深まりつつあった。
 クリミアやドンバスのように、ふたたび露軍が占拠すれば、そこの経済はまた露式に戻って、昔の底辺生活に向うだけなのである。

 クリミア半島からはすでに露軍の作戦機と軍艦がほとんど撤収してしまった。それに続いて、造船所の労働者たちも続々とロシア本土へ脱出を始めている。

 「コラボレーター」(対敵協力住民)に対するテロ作戦も続いている。だからコラボになった家族は、真っ先に逃げなければならない。

 クリミア半島の北隣、ヘルソン州が最前線だ。露軍は防禦のための人手がどうしようもなく不足している。しかしウクライナ軍は焦って前進したりしない。時間はウクライナ側の味方なので。

 ザポロッジア原発を迂回するようにウクライナ軍は攻めている。ロシア軍は、原発の近くで長期包囲されて放射能まみれになる事態は厭なので、総脱出の準備を進めている。

 コラボがウクライナ政府に「再忠誠」を誓うには、それを今から証明しなければならない。それが、弾薬集積所の位置情報の提供である。

 ウクライナ戦線では、露兵は、負傷2名に対して戦死者が1名という、前時代的な救護能力にも苛まれている。
 これに対してウクライナ兵は、戦死1名に対して負傷で助かる者4.5名である。それだけ救急医療が迅速なのだ。

 ウクライナ政府の調べでは露軍の戦死傷者総計は13万6000人だ。さいしょ、20万人動員したのであることを考えると、これは全滅的な損失である。

 これに対してウクライナ兵の戦死傷者総数は5万人。

 戦死者の比率に注目すれば、ウクライナ兵が1人死ぬあいだに露兵は6人死んでいることになる。

 ただしウクライナ側には民間人の犠牲がある。民間人の死者だけでも1万人は超えているはず。その集計は追いついていない。戦後にとんでもない数字が判明するだろう。

 ※ザポロッジアの「燃料取扱棟」は、リアクターとリアクターの中間の、背の低いビルの1階にあるのか? 2号炉と3号炉の中間の、背の低いビルの屋上に、122ミリ榴弾砲くらいの破壊力の着弾爆発孔が開いている写真がSNS上に出ている。アングルからして職員の撮影だ。職員はロシア人に完全に監視されているから、これは同時にロシアの宣伝だ。沸騰水型(フクイチの構造)の燃料建屋だと、プールから水が洩れたら、すぐにプールは空になってしまう上に、そこにまた水を補給するのが大仕事である。なにしろ高いビルの天井裏にあるのだから。しかし加圧水型の燃料取扱棟のプールは位置がグラウンドレベルにあるから、そこからそもそも水が洩れ難いうえに、水の追加作業もたいへん楽である。天井が爆破されたぐらいではビクともせん。

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 2022-8 記事「Inspired Flight to Integrate Remote ID for Commercial UAS」。
    8月11日にFAAは、「リモートID」の搭載を多くの市販無人機(UAS)に義務付けることを布告した。
 この法令は22年の9月15日から施行される。

 この法令には例外がある。米政府が飛ばすドローンには適用されない。
 また個人がガレージで自作したようなドローンも、リモートIDは不要。
 非常に小さなUAVにも、リモートIDは不要である。

 しかし、超小型でなく、米政府のものでもなく、合衆国内で商用または工業用途に飛ばされる、量産市販の無人機とその操縦リモコン端末には、かならず、リモートIDを備えなくてはならぬ。

 これは既存UAV製造メーカーにとっては「新負担」だが、ある会社にとっては「新需要」だ。
 「インスパイアード・フライト」社は早速、簡単にドローンにとりつけられる、リモートID装置を10月から売り出す予定だ。

 FAAは要求する。このリモートIDなしに、そのような無人機を離陸させてはならない。もしリモートIDの送信が故障で途絶えてしまったような場合、それが操縦者に警報され、ただちに飛行を止めるように操縦者にアドバイスする、そんなソフトウェアになっていくてはいけない――と。

 なお22年9月16日より前に製造された無人機については、リモートIDの搭載までに1年の猶予期間が与えられる。つまり23年の9月16日までにリモートIDを後付けすればよい。

 ※SNS動画によると、最前線のウクライナ軍は、露軍の歩兵分隊が偵察に飛ばしている「Mavic」クォッドコプターの操縦電波をジャックして強制着陸させてしまうことができるようだ。無人機の本体が敵の手に落ち、チップに記憶された位置情報を解析されてしまえば、それを離陸させた地点の座標に大砲の弾が降ってくるのは時間の問題だから、露兵たちは大急ぎで背嚢を纏めて所在の廃墟村を立ち去る。その様子が、映されている。

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 リモートIDについてのFAAによるオンライン布告「UAS Remote Identification」より。

    リモートIDは、飛んでいるドローンが何なのか、そして現在位置はどこなのかを無線信号で送信し続け、他の操縦者等に対して知らせる機能である。速度、高度、離陸座標とそこからの上昇角も送信する。
 さらには、操縦者の位置とIDも、自動で知らせる。

 FAAや米軍としては、それらドローンが飛行禁止空域に入っていないかどうかをリアルタイムで承知できる。そこが重要。

 FAAが認定した空域「FRIA」では、リモートIDは不要である。これは地域のドローン教習学校のようなものが想定されている。

  ※欧州のほとんどの国では、狩猟倶楽部や射的倶楽部に数年所属している市民へは、実銃の所持免許を簡単に発給するようにしている。18歳未満でも持てたりする。同じことが日本のドローン管理に関しても、できるんじゃないか? 個人と国家のあいだの、「ローカル中間団体」が有益なのだ。

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 Abraham Mahshie 記者による2022-8-28記事「Romania Is a Model for Training Ukraine’s Pilots to Fly F-16s」。
    ウクライナが優勢裡に終戦にもっていくためには、その空軍をF-16で再武装させないとダメだ。なぜなら残余の空軍バランスでロシアが依然有利だから、モスクワは陸戦で負け続けても妥協する気がない。

 そこで参考にできるのが、ルーマニアのケース。もともとミグ21が主力だったのを、米本土内で再訓練してやった結果、いまでは完全にF-16に置き換わっているのである。

 稽古をつけてやる場所は、アリゾナ州のモリス基地。空軍州兵の所在地だ。ここにはポーランド、ルーマニア、ブルガリア、スロヴァキアのパイロットが集められている。そして6ヵ月でF-16を飛ばせるまでになる。
 かれこれ20年以上、この教練コースがオープンしているのだ。

 ルーマニア空軍はF-16に慣れたところで、将来はF-35に行くであろう。

 もと空軍将校で、いまはペンシルベニア州選出の下院議員クリッシー・ハウラハン(民主党、♀)は、国防総省に対し、はやくウクライナ人パイロットにF-16の飛ばし方を教えろ、とせっついている。インナーサークルのあいだでは、はやくも、米国がウクライナにF-16を提供することはもう既定路線であるかのように語られている。

 ただし訓練プログラムにもカネがかかる。その予算支出案1億ドルに関し、連邦議会での審議は停滞している。

 ロシア空軍のパイロットは、地上からああしろこうしろと言われた通りを実行するだけだ。NATO空軍のパイロットはそれではいけない。じぶんがよく友軍の企図を理解してその目的達成のための工夫を考えて率先躬行する癖をつけてもらわないと困る。

 米空軍の場合、学生にまずプロペラのT-6を数週間飛ばさせ、ついでジェットのT-38で数ヵ月鍛えてやると、次はF-16Cを操縦できるまでになる。だから半年だ。

 F-16Cは単座だから、部隊配属されても、さいしょは編隊のウイングマンに徹し、見習い飛行を500時間続ける。それでようやく一人前に仕上がる。

 6月に、ウクライナパイロットのための訓練プログラムを始動せよ、と予算案を提出したのは、ハウラハンともうひとり、やはり元空軍の、イリノイ州選出下院議員アダム・キンジンガー(共和党)。

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 Stetson Payne, Tyler Rogoway 記者による2022-8-27記事「Ukraine Situation Report: Kyiv Claims Russia Is Running Low On Missiles」。
    露軍のカリブル巡航ミサイルはほとんど尽きた。短距離弾道弾のイスカンデルは、開戦前の2割の在庫しかない。

 シリア政府にプレゼントしたはずの「S-300」が、シリアから引き揚げられて、黒海のノヴォロッシスク軍港へ再配置されている。

 対地攻撃用のミサイルを増産しようにもチップがない。だからあとは頼りにできるのは、イラン製の無人特攻機だけだ。

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 Defense Express の2022-8-29記事「russia Pulls Out Its ‘Ceremonial’ Tanks To Fight in Ukraine」。
   ウクライナ軍が最近鹵獲したT-80は、パレード・コンディションの新品であることがわかった。エンジンの運転時間総計がたったの900時間なのだ。ふつう、戦場にやってくるのは、3万時間から4万時間のエンジンの戦車なのに。

 そしてよく調べると転輪に白色塗装の痕がある。これはまぎれもなく、パレードに使われていた車体であろう。