What was the Tulip-Bomb ?

 第一次大戦中、T.E. ローレンスがヒジャーズ鉄道の運行を長期間妨害し続ける破壊工作に最適の方式として最終的に(1918年4月に)たどりついた結論は「チューリップ・ボム」だった。これについて英文サイトを検索しても、ほとんどヒットしない(ひとつだけ、まったく間違った解説文にヒットする)。まさか英軍が《現代の秘伝》としているわけでもないだろうが……。

 さいわい、クリスティアン・ウォルマー氏が『鉄道と戦争の世界史』の中で、James Nicholson の『The Hejaz Railway』(2005) が引用している軍事報告書の亦引用をしてくれているおかげで、われわれもその正体を知ることができる。

 2ポンド(907グラム)の爆薬を、レールの継ぎ目にあたる部分の真下の枕木の下に装填し、点火。その爆圧によって、レールを破砕するのではなく、2本のレールの端部を上向きにへし曲げてしまうのである。

 その、枉げられたレールの外見が、工芸美術品のチューリップ細工に見えるわけだ。

 最小の爆薬量で、2本のレールをいちどにダメにしてやることができる。端部の湾曲は、簡単には矯められない。だから、直すなら、まるごと2本、取り替えるしかない。

 ただし、鉄道の予備レールは、かならず沿線のどこかに山積みされているものである。鉄道管理者は、それを現場まで貨車で運ぶだけでいい。楽ちん作業だ。よって、破壊箇所さえ判明したら、修理はじきにできてしまう。1本のレールは、男手が20人分もあれば、数十m運ぶのに苦労はない。

 「チューリップ・ボム」が狡猾なのは、レールが破壊されているのかどうか、その現場のすぐ近くまでじっさいに汽車が通りかかるまでは、分からなかった――というところにあったのだろう。遠目に見ても、レールには問題など無いように、機関士からは見えがちだったのに違いない。

 気付いたときには、先頭車の脱線はもう避けられない。
 このようにして、ローレンスたちは、妨害時間を、いちばん長く、稼ぐことができた。それも、最少量の爆薬によってだ。

 ローレンス(および副官格で発破オタクのピーク少佐)は、この結論に到達する以前は、40ポンド以上のダイナマイトで大爆破をしたり、多人数でレールを外して投げ捨てたりという、試行錯誤を繰り返していた。しかしどの方法でも、労多くして、じっさいの阻絶時間は短かかった。

 鉄道サボタージュは、「小破壊」を執拗にあちこちで連日連夜、繰り返すしかないのである。

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  Mary Ilyushina and Annabelle Timsit 記者による2022-9-21記事「What Putin’s partial military mobilization means」。
   プーチン演説の直後、ショイグ国防相が声明し、部分動員は30万人くらいだと語った。
 召集令状はすでに送達され始めている。

 ショイグいわく。総動員となれば召集可能な予備役人口は2500万人いる。今回は、その1%強を動員するのである。

 もし本当に30万人に軍服を着せられるものなら、大したものだ。なにしろ2-24の本格侵略を、プーチンはたったの15万人で発起させるしかなかった。その初盤の2倍の兵員を、これから新たに仕立てようというのだ。

 米国のシンクタンク、戦争研究所によれば、ロシアは最大で200万人強の予備役を動員できるだろうと。ただしそのうち、即戦力となるほどに教育訓練ができている者の割合は、非常に小さいはずだと。いちど徴兵されたり契約兵に志願したりして、軍隊を任期満了除隊した者のうち、帰郷後にも定期的に訓練召集に応じている者は、10%くらいだ。

 ※つまり20万人の、いつでも赤紙に応じてもいいですぜ、という中年男子の層が、いちおう、存在したわけだ。

 外交問題研究所のボブ・リーの指摘。露軍は「契約兵」に契約期限が来ても任満除隊をさせないようにする必要があったのだ。さもないとこの冬にも戦線は崩壊するに違いなかった。それで、徴兵と志願兵の双方を含む、下級兵たちが、契約の内容とは無関係にもう軍隊を除隊できなくしてしまう強制措置として「動員令」の下令が必要だったのだろう、と見る。

 米軍ですら、長期戦になったら頼りは予備役だ。たとえばアフガンとイラクに派遣された米軍の半数近くが、州兵か予備軍であった。そして戦死傷者のうち18%が、州兵か予備軍の登録兵であった。

 ショイグは水曜日に驚きの発言をした。ウクライナではロシア兵は5937人しか戦死してない、と公言したのだ。これは3月末に露国防省が公表した「1351人」という数値に続く、久々の公認戦死者数であった。

 ※ノモンハン事件についての公報値とリアル統計値の差異から推定すれば、ざっと十倍して6万人の戦死はもう固いだろうね。

 米国防長官の部下、コリン・カールは、7万人から8万人はもう死んでいるだろうと見ている。これは8月時点での彼の結論。

 プーチン演説の数分後、モスクワの飛行場発の外国行き便の切符は、すべて売り切れた。もちろん、ヴィザ不要の隣国へ飛ぶ航空機だ。
 ロシア内のSNSには、どうやったら国外逃亡できるかの、徴兵避け相談が錯綜している。

 ラトヴィア政府は素早く声明した。ロシアからの逃亡者集団に対してわが国が「人道ビザ」を発給することはない。来るんじゃねぇ、と。

 バルト三国は従来、「シェンゲン・ビザ」を持っているロシア人を入国させてきたが、ポーランドとともに、とっくにロシア国籍人の入国は全面禁止としている。
 ※シェンゲン・ビザをもっていれば、そこから西欧のどこへでも移動できる。このシェンゲン条約を承けて、スイスでは予備役兵が自宅にアサルトライフルと実包を保管することが不可能になった。なぜならそこから銃器がEU中に拡散してしまうから。それを放置すればスイスがEUから逆鎖国を受けてしまい、観光産業など成り立たなくなる。

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 Hana Kusumoto 記者による2022-9-21記事「Man arrested on suspicion of carrying gunpowder near US Embassy in Tokyo」。
   吹田市の大学生(26)が、赤坂の米国大使館前で火薬入りのカップを手にしてうろついていたので、爆発物取締法違反容疑で逮捕された。午後9時。

 火薬の量は6オンス。

 男は、大使館敷地に投げ込むつもりだったと話しているとか。

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 Boyko Nikolov 記者による2022-9-21記事「M777 barrels in Ukraine ‘bloom’ ? they will be repaired abroad」。
   M777の修理センターがポーランド領内に設けられる見込み。

 ※開発時の試験ではなんの問題もなかった日本陸軍の新鋭十五榴や十加が、ノモンハンでは自壊続出した。強装薬で撃ちまくるうちに脚が曲がったり閉鎖機が焼きついたり……。だからイラクで何の問題もなかったM777が、ウクライナではさすがにぶっ壊れ始めたとしても、驚くことなどあろうか? これは15榴で長射程を狙い過ぎるという欲張りの、とうぜんの帰結なのだ。それがウクライナ兵による酷使のおかげで判明したことは良いことだ。やはり口径130ミリ以上の長距離砲兵は、カネがかかるようでも、ロケット弾にしておくのが正解なのである。砲熕兵器は、砲身が裂けたらそこでおしまい。残弾が山のように補給されていようと、もはやそれは活用ができなくなってしまう。システムとしての靭強性が不足なのだ。

 ※別報によると、ウクライナ空軍機の8割は無傷で残っているそうだ。