「戦車 vs.戦車」の近距離交戦が初めて発生した。ビデオがSNSに出ている。

 射っているのは一方的にウクライナ側の戦車だ。
 戦車砲弾が、人の乗っている敵戦車に命中するいちぶしじゅうが、ドローン俯瞰のクォータービューの動画で撮影されたのは、今回が初めてだろう。

 ※まめ知識。ヘルソンは「西瓜」の名産地であるそうだ。

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 Jon Guttman 記者による2022-9-26記事「T-80: Why Is Russia Using One of the Worst Tanks Ever in Ukraine?」。
   T-64は、重量38トンで3人乗りの戦車を開発しようとしたものだった。しかしオートローダーが砲手の左腕を巻き込んでしまうというので不評だった。製造は、1964年から87年までの13108両である。

 それに対してT-72は1973~1990年に22096両が製造されている。コストはT-64より4割安かった。各部を単純化して信頼性を高めたモデルだ。エンジンはどちらも同じディーゼル。

 この2車種とは別に1976年に、「SG1000」というガスタービンエンジンを搭載して造ることになったのがT-80であった。

 じつは1975-11に、時の国防大臣アンドレイ・グレチコは、T-80の採用を拒否している。ところがその5ヵ月後、後任のドミトリー・ウスチノフが、採用を決めてしまった。1976年に最初の30両がオムスク工場で量産された。(T-72はニジニタギル工場。)

 1978年、ソ連軍内部では「T-80B」を「英仏海峡行き戦車」と称した。ソ連参謀本部は、西ドイツ国境から電撃戦を開始して5日目にして大西洋岸まで到達する計画を練っていた。この全縦深無停止進軍作戦のために主力戦車には特に高速性が求められたのだ。それには軽量で高出力のエンジンと、軽い車体が不可欠だった。

 ソ連戦車として初めて最高時速70kmを超えたのがT-80であった。真冬のエンジン始動も容易だった。しかしエンジンは高額だった。故障率は高く、燃費は最悪だった。吸気系統は泥や埃にも弱かった。けっきょくT-80の単価は、T-64Aの3.5倍にもなった。300万ドルである。

 T-80は、次第に量産体制が縮小され、小改善しつつ細々と製造されるようになる。
 1991年、800両の「T-80UD」が、ハリコフ工場で生産されている。

 レニングラードのキーロフ工場では、「T-80U」の製造は1990年に終了した。直後、ソ連は崩壊した。

 最後の「T-80B」は、オムスクのトランスマシュ工場で2001年まで製造が続いた。トータル7066両。

 「T-80BV」は、「コンタクト1」ERAを貼り付けたものである。
 「T-80U」は、火器管制システムに「1A45」を採用し、「9K119 レフレクス」対戦車ミサイルも発射できる。

 「T-80UD」は、それまでの「GTD1250」ガスタービンエンジンをやめて、ディーゼルエンジンを搭載した型である。

 T-80の初陣は第一次チェチェン戦争だったが、市街戦となり、さんざんなことに……。敵歩兵の「RPG-7V」や「RPG-18」のため、次々に破壊されてしまったのだ。

 チェチェンの市街戦闘では、垂直方向に対する交戦の不自由さが、ソ連戦車の共通の問題だと認識された。

 悪評判が定着したT-80は、それ以後の第二次チェチェン戦争(1999)、ジョージア侵略(2008)、そして2014のウクライナ戦争には、投入されていない。

 ところが2022のウクライナ戦争では、主力のT-72が消耗してしまったので、ひさびさに、T-80に出番が与えられている。

 4月10日までに、19両の「T-80BVM」と、57両の「T-80U」を露軍は喪失した。後者の「T-80U」だが、ウクライナ軍によって破壊されたのは15両で、残る42両は、破壊されないうちに乗員が戦車を放棄したものが鹵獲されたという。

 オリックス統計では、8-14までに露軍は「T-80」を178両、うしなったと。

 ※なぜスウェーデンは、おびただしいモスボールが存在するはずの「S戦車」をウクライナにくれてやらないのだろう? おそらく予備部品が製造されていないので、もはやなるだけ動かさぬように、ひたすら温存しているのだろう。そして対露の「本土決戦」となったときに、「移動対戦車砲台」として使うつもりなのであろう。
 ※74式戦車も、すべて、沖縄本島まで運んで、そこで現役除籍してモスボールしておくべきだろう。飛行場を防衛する固定砲台としてはまだ十分に役立つのだから。

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 Defense Express の2022-9-29記事「Russia Plans to Relocate 20,000 Mobilized to Belarus: They Will Be Placed in Barns and Pigsties, Transport Will Be Requisitioned ? Ukraine’s Intelligence」。
   ロシアは徴兵した兵隊を2万人ばかり、ベラルーシの農場へ送り込んでいる。家畜の納屋を臨時の兵舎とし、車両はベラルーシの民間車両を没収して徴用する手筈らしい。

 ※『論語・子路第十三』――なにも教えていない民にいきなり戦わせる。それは、民をただ棄ててしまうようなものである(子曰、以不教民戦、是謂棄之。)

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 WIB編集部による2022-9-28記事「Americans urged to flee Russia to avoid being conscripted into the war in Ukraine」。
    在モスクワの米大使館が警報。いまロシア領内にいるアメリカ人は、すぐにそこから出国せよ。ロシア政府は二重国籍者を徴兵する可能性がある。そのさいには米国外交官国との接触は遮断され、大使館としてエバキュエーションをしてやれない。だから今のうちに去るがよい。

 二重国籍者ではない、ただの旅行者や滞在者であっても、早く出ないと、国境検問はますます渋滞し、出国交通手段も次々になくなっていくぞ。

 ※英国政府の推計によれば、プーチンが部分動員令を発令してから慌ててロシア領外へ逃亡したロシア人男子の数は、2-24の侵攻作戦に動員された将兵の人数を、とっくに超えてしまったという。

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 Defense Express の2022-9-29記事「ICEYE Satellite Bought by Ukrainian Volunteers Helps Detect Russia’s Equipment on Battlefield」。
   ウクライナ国民の有志は、民間衛星会社の「ICEYE」からSAR撮像写真を購入して、露軍の部隊配備の解析に使っている。これがとてつもなく役に立っている。購入開始してわずか2日にして、60箇所以上の露軍部隊の所在地を正確に特定できた。光学衛星だとごまかされる偽装も、SARの合成開口レーダーは、見破ってしまう。

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 Defense Brief の2022-9-28記事「Israel’s Elbit to deliver Hermes 900 UAS to Thailand under $120M deal」。
  イスラエルのエルビット社が「ヘルメス900」をタイ海軍に売る。
 1億2000万ドルの契約。3年間分の訓練代も含まれる。

 この機体、中型哨戒機のサイズで、筏を投下する能力もあり。

 タイ海軍は米国製の「RQ-21A ブラックジャック」を5機、5月に購入していた。