日本外務省内には「謎の宗教集団」が存在する。とりあえず《トマホーク教》と呼ぶべし。

 合理的な説明を幾度してやっても一切耳をかさず、一心に、景仰する対象に向かい奉らんとする、狂信者の姿……。その対象がよりによってなぜ「米国製のトマホーク」なのかは、もとよりわれら俗界人の想像を絶しているも、入信のタイミングが「湾岸戦争」だったことは想像がつきやすい。米海軍の艦艇が「核トマホーク」を抱えて日本の港に黙って入ってきていたレーガン政権時代末期~父ブッシュ政権時代に、米当局との調整に当たった世代がまず「先達」というところなのだろう。

 およそ狂信徒集団は、見たいものしか見ず、聞きたいことしか聞かない。
 たとえば次のような事実は、彼らの脳内には決してインプットされない。脳関門の入り口でブロックされてしまう。

 湾岸戦争中、巡航ミサイルによって破壊できたTEL/MELは、ただのひとつもない。

 湾岸戦争以降の無数の戦争・紛争においても、トマホーク巡航ミサイルおよびその同格性能巡航ミサイルによって破壊されたTEL/MELは、皆無である。

 アフリカのアルカイダキャンプにビンラディンがいるというので米政府はトマホークで爆殺しようと狙ったことがあった。複数のトマホークが放たれ、おそらく奇襲となったが、ビンラディン爆殺には失敗した。

 サダム・フセインは、トマホークによっては、負傷すらもすることはなかった。

 プーチンは「カリブル」巡航ミサイルを何十発も放ち続けている。しかし、開戦から7か月経っても、まったくゼレンスキーを爆殺できそうな気配は無い。

 巡航ミサイルは、陸上のビル建造物の地上階部分にはよく当たる。しかしターゲットが地下2階になると、もう手が届かない。

 トマホーク巡航ミサイルは、民航ジェット旅客機とほぼ近似した飛翔速度であるので、それを発射してから標的の頭上に到達するまでのあいだ、敵に1時間以上もの「自由時間」を与えざるをえないケースが多い。

 トマホーク巡航ミサイルは、飛翔途中の海上や地上の対空監視者から目視で発見されることがあり、その通報があれば、ターゲットはいちはやく退避や早期発射などの有効な対策を講じてしまいやすい。

 トマホーク巡航ミサイルは、敵戦闘機から追いかけられると、自律的にその攻撃をかわす方法はなく、簡単に撃墜されてしまう。

 弾道ミサイルを機関砲で撃墜することはできないが、トマホーク巡航ミサイルは、地上または海上に所在する敵の機関砲によって迎撃されてしまう可能性がある。

 トマホーク・ミサイルはステルス外形ではないので、敵国がAWACSを所有し運用できる、技術先進国であった場合、遠くからはやばやと、その接近が探知されてしまう。

 敵国が、早期警戒衛星を保有し運用できる国であった場合も、同様である。

 敵国の戦闘機が、前方赤外線探知センサーの高性能なものを搭載している場合も、同様である。

 トマホーク巡航ミサイルは、大気圏内を飛翔するので、もし第三国の領空を無断で通過すれば、国際法に抵触する。

 それに比して、もしも艦載の「弾道ミサイル」ならば、飛翔経路は宇宙空間となるので、たとえば北鮮や中共の陸地を攻撃するにさいして韓国の領土上を通過させる必要があるとしても、国際法上、無問題。

 この「韓国領空=邪魔」問題は、小さくない。たとえばこれがもし「艦載弾道ミサイル」だったならば、わが軍艦は呉軍港内に居ながらにして、いきなり北鮮基地や中共都市を直撃できるゆえ、365/24の睨みを利かせることは随意となるわけなのだが、それが「巡航ミサイル」だと、韓国領空や北鮮領空がどうにも邪魔になる。それら第三者領空を侵すことなく狙って発射ができそうな海面となると、いちじるしく限定されざるを得ない。そうした海面にすぐに占位可能なわが軍艦と占位不可能なわが軍艦とは、敵の諜報網には簡単に察しがついてしまう。したがって、やすやすと、こちらの能力や企図は読まれてしまい、まるで抑止になどならぬ。

 狂信徒集団は、毎日の熱烈な祈りによって天国の門は開くと疑わぬが、「神様」としてはそういう手合がいちばんあしらい辛く、迷惑だ。この連中はかつて、米政府が軍艦から核トマホークをおろして陸地保管すると決めたときに、そうしないでくれというあつかましい外交運動を展開した。核トマホークの弾頭部分からは常に微量の放射線が出ている。殊に狭隘な攻撃型潜水艦の発射室内では、起居する水兵の健康を確実に損ねるものなのだ。そういう現場に無配慮なところからみて、狂信徒の正体は長袖の外交官であり、海軍軍人ではないと、私は判断している。

 戦略射程のトマホークミサイルはげんざい、英国にしか供与はされていない(スペインには話だけ)。英国はそのトマホークに、自国産の核弾頭を装置することができる(ただし完全国産の戦略射程の核巡航ミサイルが既にあるので、わざわざそうする必要がない)。米国は、NATOの戦闘爆撃機に関してはB61水爆の「ニュークリアシェアリング」をさせてやれるも、潜水艦発射ミサイルに関しては、相手が誰だろうと「ニュークリアシェアリング」などできない。あたりまえだろう。ある日、東シナ海の海中から謎の巡航ミサイルが発射され、天津方向に向って飛翔中だと中共軍が知ったとする。それが米軍が発射した核弾頭付きの巡航ミサイルなのか、米国ではない国の発射した核弾頭付き巡航ミサイルなのか、はたまた非核の巡航ミサイルなのか、北京としては即断のしようがない。それは「偶発核戦争」の端緒になり得る。だから米政府は日本にはそもそもぜったいに戦略射程のトマホークミサイルは供給しない。それどころか米軍に関しても、核弾頭付きの巡航ミサイルを潜水艦から発射しないのだという自主慣行を明朗に定着させたい。米国指導者層は、海上からの核抑止は、低イールドから高イールドまで選択幅の広いSLBMに絞って担任させるのが、安全で確実だと計算しているのである。

 日本が自主的に長射程の巡航ミサイルや弾道ミサイルを開発するのならば、米国としては邪魔する理由はまったくない。すでに韓国は大量に持っているが、邪魔されていない。それらが発射されても、ISR上、米国製とは区別がつけられるから、偶発核戦争にはならないのだ。

 トマホークがダメなら何があるか?
 https://inaina0402.booth.pm/items/3555955 の『くだらぬ議論は止めよ! 敵地攻撃力はこうすればいい!』(¥200-)を 参考にするとよい。

 こっちの方がずっとマシなのである。なにより、敵国指導部の心胆を寒からしめることができる。


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くだらぬ議論は止めよ! 敵地攻撃力はこうすればいい!


ウクライナの戦訓 台湾有事なら全滅するしかない中国人民解放軍