ニヤリハッと案件

 Vazha Tavberidze 記者による2023-4-11記事。
    リチャード・バロンズ大将は元英軍統合司令長官。今は民間安全保障会社の幹部重役である。
 自由欧州ラジオは、彼にインタビューした。

 この1年間の教訓は何でしょうか?

 戦争は人間のいとなみの重要部分を占めているので、1990年に冷戦が終ったんだとわたしたちがいくら思い込もうとしても、戦争の方ではそうはさせてくれなかった――ってことだね。いみじくもクラウゼヴィッツが言った通り。「君は“非戦”を選ぶことができる、と思っている。しかし現実には、戦争の方で君を選んでしまう」から。

 いったん戦争が始まってしまえば、その経過は野蛮でおそろしく、結果は人々をがっかりさせる。そういうパターンも、百年前からちっとも変わらない。

 ロシアもウクライナも国民総動員の長期戦態勢に入った。どっちも、降伏を強制されないし、努力を諦める理由がない。対立は根深く、国家の存続自体もかかっている。だからこの戦争は長引く。どちらかが消耗し尽くすか、絶対的な戦線膠着に陥るまで、終わらぬ。したがってこれから数十年続いたって、不思議ではないのだ。

 あなたのシンクタンクは、この戦争が2025年まで続く、と早々と予想していましたね。

 ウクライナには戦費の心配がまるでないのです。ウクライナ人に戦意が続く限り、西側はウクライナの継戦に必要な物資を、楽々と何年でも補給してやれる。パーセンテージで見たら、西側の経済力のほんの一部を割くだけで済んでしまうのです。だから、終わりゃしませんよ。

 ロシア政府も、軍需産業に労働力を200万人も貼り付けていて、その上で追加動員はいくらでも可能だと考えている。じぶんたちには軍資金はあるし、継戦意思もあるし、社会統制もできると信じています。だったら、大勝利なしに戦争を終わらせる理由がない。

 この戦争は長期化すればするほどに、「西側のリベラル民主主義」対「中共が率いる国家専制資本主義」の、代理闘争になって行きますよ。

 どちらのやり方が、世界をより安全に、より善く、もっと豊かにできるのかが、問われ続けるでしょう。

 資金や軍需品供給の分担をめぐる懸念材料は、あります。今は、米国の負担の割合が大きすぎる。欧州がもっと分担しろと求められるはずです。この問題で内輪揉めをすると、西側の団結がほろこびます。

 しかしもし戦争が終結した場合、ウクライナの再建資金の多くは欧州が負担すべきことについて、異存のある人はいないでしょう。

 再度、強調しておきますが、欧州経済の規模にとって、対ウクライナの軍事支援ごときは、ホンの「はした金」で済んでいるんですよ。もし欧州人が今の負担にすら文句を言うとするなら、それは、反民主主義勢力の宣伝工作にしてやられた、危険な思い込みです。

 しかし、もし、エネルギー高から諸物価高となり、西側世界の庶民に生活苦が意識されるようになれば、対宇援助を削れという声が必ず出てきます。ここに、懸念される未来がありましょう。

 興味深い現象があります。従来、ドイツ、フランス、英国の政治首班たちは、次の選挙のことばかり考えて、軽薄な世論に調子を合わせる政策ばかり打ち出していました。ところが、今次ウクライナ戦争が勃発して以降は、違う。彼らは一段と高い視点から、国民にとって楽ではない努力を、決然と要請するように変わりました。

 ロシア国民は、ほぼ全面的に、この戦争を支持しています。プーチンの言うことを皆承認して支持しています。

 ロシア国内には、プーチンに反対しようという有力勢力は、ゼロです。
 プーチンもロシア国民も、信じています。じぶんたちは西側人民よりも耐乏できるから、いまよりも一層きびしい耐乏競争にもちこんで、最後の勝利を得られるはずだ、と。

 インドは、どちらの陣営にも味方する気配は見せていません。

 中共は、もしロシアを表立って支援すると、大きなとばっちりが西側から自国に押し寄せることを理解しています。
 レッドラインは砲弾の対露供与です。これをやったら米欧は中共を許さない。
 市販級のマイクロチップなどをこっそり売り渡してやった行為は、西側の眼からは匿せると思っていたのでしょうが、じきにバレました。これが砲弾になったら、ぜったいバレる。その支援に踏み切るほど、北京は愚かではないでしょう。

 2023年現在、露軍のパフォーマンスでいちばん驚かされることは、サプライズ機動というものが皆無であること。宇軍が予期して守っているところに、真正面から攻めかかる。ひたすら、それだけ。そんな作戦しかできないのなら、これはプロフェッショナルな軍隊とは呼べない。

 ロシアが追求する政策は、自国の周辺地域をすべて支配もしくは中立化すること。

 守りやすい地形になっているクリミア半島の奪還は、2023年中には難しい。
 さりとてこの半島を諦める、などとウクライナ政府が口に出せるわけがない。戦争中に政府がそんな発言をしたら将兵の士気が湮滅してしまう。

 宇軍は、防禦をするなら、いまよりも贅沢な装備は要らない。だが、攻勢をかけようとするなら、最良の長距離野砲と最大量の砲弾準備が欠かせない。

 ロシア兵に陣地防禦をあきらめさせるためには、機甲戦力も必要だ。
 しかし、もっかの宇軍は機甲戦闘の初歩的な訓練をしなければならないレベルだし、西側が供給したAFVは、数的にまったく少ない。

 今次戦争では、両軍ともに、砲弾の必要量の見積もりを誤った。
 いま、西側諸国は月に3万発の砲弾を製造できる。宇軍は毎日、6000発を消費しつつある。

 このペースは誰が見たって持続不能だから、西側諸国は、砲弾工場の製造能力を数倍に増強ししようとしている。ところがそれには2年かかる。

 露軍が開戦前に砲弾をどのくらい準備したかは謎。私が推定をするに、500万発から2000万発のあいだだったろう。

 露軍は開戦から8ヵ月の間、毎日2万発を発射していた。
 しかし今は、日に5000発から1万発だ。これは、ストックを射耗してしまったあとのロシア工業の砲弾生産力がいかほどなのかを教えてくれる。

 ここからも、今年は両軍ともに、大攻勢はかけづらいと予言できる。
 ロシアも弾薬工場を拡張中だろう。しかしそれにも2年かかるのである。

 あなたは、宇軍が露軍を追い出すには空軍力が不可欠なのだとおっしゃっているが……?

 その理由はこうだ。
 ひとつには、露領内深くまで侵攻爆撃をしかけないかぎり、宇軍は露軍の長距離ミサイルの発射を止められない。一方的にミサイルでインフラを破壊され続ける。

 米欧は弾道弾を迎撃できる高性能SAMを供与するだろうが、それがカバーできるのは首都キーウだけだろう。

 では、西側が宇軍にF-16のような新鋭戦闘機を供与したらどうなるか。ウクライナ空軍がそれを使えるようになるまでに2年かかる。

 それには膨大な人数の整備兵たちや地上管制組織の教育も包含されることを忘れてはならない。もちろん滑走路の修理部隊や消防隊も必要だ。

 2年のあいだ、露軍は、宇軍のF-16が進出しそうな飛行場を対地ミサイルで攻撃し続けるだろう。滑走路の修理部隊が機能しなければ、使える滑走路はなくなってしまうだろう。

 1940年の世界を思い出して欲しい。ドイツのよく準備された軍事力に連合国が対抗できるようになるまでに3年かかった。米国が工場を新設して稼動させるまでにも2年が必要だった。そのあとでやっと、1944のノルマンディ上陸ができたのだ。

 今はもう少しペースを巻き上げられるだろう。
 ゆえに、もし西側が本気でウクライナへ武器弾薬を大量供給するぞと決意したなら、2024年にはそれは実現し、露軍は2024年にウクライナ領土から叩き出される可能性がある。

 銘記すべきこと。ロシアもいま全力で軍需工業を増設しているところなのだ。だから西側が緩慢な支援にとどめていれば、この戦争は無限に長引いてしまうだろう。この戦争を早く終らせたければ、いますぐ西側の弾薬製造力を限度いっぱいまで拡充することである。

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 Aric Toler, Michael Schwirtz, Haley Willis, Riley Mellen, Christiaan Triebert, Malachy Browne, Thomas Gibbons-Neff and Julian E. Barnes 記者による2023-4-13記事「Here’s what we know about the leader of the online group where secret documents were leaked」。
    マサチューセッツ州兵空軍の、「情報ウイング」に所属する21歳の男。20~30人ほどのオンラインゲーム・チャット・グループ「Thug Shaker Central」のリーダーであった。銃器とビデオゲームについて語り合っていた。

 このグループは皆10代で、犯人の男だけ20代だった。

 ※少年のチャット・グループの中でイキリたくて、機密文書を持ち出したのか。それにしてもご丁寧に印刷したペーパーを州兵空軍にまで隈なく配っていたペンタゴンは阿呆すぎないか? どこかで漏洩するにきまっているじゃないか。

 犯人の階級は2022-6昇進時点で「Airman First Class」(空軍一等兵)である。

 犯人の勤務地は、ケープ・コッドにある。母親によると、最近この息子はスマホの番号を変えたという。

 犯人は、ウィッスルブローアー(内部告発志向者)ではない。しかし反戦傾向はあった。宗派はキリスト教。基本的にこのフォーラムには、戦争好きしか集まらない。ゲームも、戦闘ゲーム。

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 Anton Troianovski, Aric Toler, Julian E. Barnes, Christiaan Triebert and Malachy Browne 記者による2023-4-13記事「New Leaked Documents Show Broad Infighting Among Russian Officials」。
   リーク文書で、ロシア政府内の反目もあきらかに。FSBは、ロシア国防省が、自軍の戦死傷者数をぼやかそうとする態度を非難していた。
 露軍の内部では、悪いニュースは上には報告しないという悪習慣が蔓延していることも、リーク文書から浮かび上がっている。

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 Defense Expressの2023-4-13記事「Ukraine’s General Staff Warns of a New Missile Threat: russians to Establish Kh-50 Production With First Strikes Coming Very Soon」。

 宇軍参謀本部の准将いわく。ロシアは「Kh-50」という巡航ミサイルの設計を特急で進めており、調子が良ければ6月から量産に入るので、早ければ秋にはそれがウクライナに向けて発射されて来る。
 「Kh-50」は、とにかく量産性を重視して、「Kh-101」を単純化したものらしい。

 開発そのものは2017年から始まっていた(大元は1990年代の中距離型Kh-SDという計画)。2017-12の公表外見はステルス形状であったが、量産型はそれとは異なる可能性がある。

 Kh-101もステルスだと露人は宣伝していたが、撃墜した機体を調査したところでは、その技術はお粗末なものである。

 全重1.6トンくらいで、1500kmは飛ばしたいところだろう。

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 Defense Expressの2023-1-13記事。
   米海軍はボーイングに対して400発のハープーン(ブロック2、アップデート、グレードB)を発注した。この単価が225万ドルに達し、新記録となった。とにかくミサイル需給が逼迫しているのだ。

 最新のNSMですら1発200万ドルなのである。それを楽々と越えた。

 この新型ハープーンを外国のバイヤーが取得できるようになるのは2028年以降である。

 ※台湾は既発注分の古いハープーンも受領していないはずだ。それもいつ、届けられるかわからない。FMSで代金だけはとっくに振込み済みなのに……。危機が近づいたらミサイルを輸入すればよいと考えることの危険性が端的に分かるだろう。

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 Defense Express の2023-4-13記事「Ukraine Twice Submitted a Request For the Purchase of Weapons From This Country, But to No Avail: Airplanes Were On the List As Well」。
   NYT報道によるとウクライナ政府は過去に2回、ブラジルに対して武器を売ってくれともちかけたが、2回とも断られたと。そのアイテムには「航空機」も含まれていたといい、どうもスーパーツカノを買おうとしたらしい。

 ブラジルはロシア産の肥料に依存している関係で断った。

 紛争国には武器を売らないとか綺麗事を言っているが、スーパーツカノは過去にあらゆる紛争国に売り込まれた。
 またイエメンに対する戦争を遂行中であるサウジとUAEに対してブラジルは6億8000万ドルの兵器弾薬を輸出している。

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 ストラテジーペイジの2023-4-13記事。
   ロシアの新型の偵察ドローンは「オルラン-30」という。砲兵観測に使っている。レーザー測遠機搭載。固定翼。
 滞空5時間可能。
 最大速力170km/時。
 高度は5000mまで。

 宇軍は、こいつの音が聞こえたら、すぐにジャマーを作動させている。無線電波だけでなく、レーザーも妨害する。

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 Volodymyr Verbyany 記者による2023-4-13記事「Naftogaz Claims $5 Billion Arbitration Victory Over Russia」。
   ウクライナ国営のエネルギー企業「ナフトガス」は、クリミア半島内にもっていた諸施設をロシアが接収したことによる弁償金50億ドルを受け取れることになった。国際調停裁判所の決定。

 しかしこのカネが振り込まれるかどうかは、疑わしいものである。
 ロシアがこのカネを支払わない場合は、ナフトガスが逆に、ウクライナ領内にあるロシアのガス施設を接収できる。

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 David Hambling 記者による2023-4-13記事「Drone Wrecking Crews Are Decimating Russia’s Tanks」。
  露軍の遺棄戦車はハッチから普通の手榴弾を1個放り込んでやれば確実に内部が炎上して全損するということが、無数のビデオ映像から分かってきた。

 ドローンが、この仕事をリモートでしてくれる。

 第二次大戦中、ドイツ軍の戦車長は、標的としたロシア軍の戦車から煙が立ち昇るまで、その戦車に発砲し続けるようにしていたという。
 あるWWII研究によると、戦場でノックアウトされた戦車のおよそ半数は、回収して修理可能であったと見積もられるという。

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 AFPの2023-4-13記事「Ukraine farmer risks life clearing shells from fields」。
   ミコライウの農夫。農地で不発弾をみつけたときは、ロープを結んで、遠くから、引っ張ってみる。それで爆発するときもあるし、しないときは、場所を移せる。

 ロケット弾の不発弾は、細長い形状で地中に深くめりこんでいるため、トラクターでも引き抜けない場合がある。

 不発弾のある場所には、赤白の警告旗を突き立てておく。

 いまやウクライナの全農家には金属探知機は必需品である。皆、私費で買っている。

 最も危険なのはプラスチック製の対人地雷だ。これは金属探知機が見逃してしまう。目視で気をつけるしかない。

 ※雑報によれば、ロシア製の対人蝶々地雷PFM-1の中には37グラムのスラリー爆薬が入っているという。敵兵を殺すのではなく、足だけ粉砕する。これを処分するのには、柄の長さ3m以上のシャベルで、叩くといいという。