ゼレンスキーは「均衡比例の原則」(The Principle of Proportionality in Armed Conflict)について一回、言及しておかないとダメだ。

 指導部がここを理解してますよというアピールをしておけば、露領を攻撃したところで誰も文句なんか言わない。「露領を攻撃しません」と公人が公言してしまうことが、いちばん拙い。

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 Alius Noreika 記者による2023-5-14記事「What are decoy missiles? These weapons could already be in Ukraine, experts say」。
   囮ミサイルは、敵の防空システムを欺いて混乱させるための道具である。破壊威力は無い。

 デコイ・ミサイルは、本物のミサイルそっくりのレーダー反射を敵に返してやるのが理想的である。
 高機能なものだと、飛翔しながら信号電波を輻射し、それによってますます本物らしく思わせる。

 米軍だと「ADM-160 MALD」というデコイミサイルを2009年から使っている。それが既にウクライナ軍にも渡されているのではないかと考えられる。ルハンスクで残骸がみつかっており、その写真は5月13日にSNSに投稿された。
 『The Drive』によるとその残骸は最も初期の型である「B型」だという。米空軍の在庫品くさい。

 いくつかのデコイ・ミサイルは、最後は空中で爆発する。敵の注目をいやでも集めるために。

 ADM-160は、胴長2.38m、ウイングスパン65センチ。かなり小型なので、戦闘機の主翼下にたくさんとりつけても邪魔にならない。

 これを軍用機から放つと、初期型だと460km飛翔する。最新の型は575km飛ぶ。推力はターボジェットで、巡航速度はマッハ0.8だ。

 1発の単価は、2015年だと32万2000ドルした。

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 Andrew Salerno-Garthwaite 記者による2023-4-13記事「DARPA’s uncrewed combat RACER completes first off-road test」。
    DARPAがモハヴェ砂漠で実験し成功。12両の無人オフロード車両を、自律走行させた。リモコンではない。車載のAIが前方地形を判断して操向する。そのスピードは、有人操縦した場合の実用速度と同等に設定した。

 実験では、1台の監視&サポート車がチェイス並走した。そちらには人が乗っており、実験の安全管理に任じた。

 実験は3月12日から27日まで実施された。
 1回の走行距離は、短いときで4マイル。長いときで11マイル。無人車はオフロードで時速25マイルを出した。

 実験で走らせた無人四駆バギー(ベース車体はポラリス社製RZR S4 1000ターボ)の頭脳は、過酷な環境・外力からまもられた「電算箱」。
 それが、毎時4テラバイトのセンサー入力情報を処理する。センサーは、複数のLIDER、1波長のレーダー、マルチスペクトラムの光学ビデオカメラ、などなど。

 コースは平坦ではない。岩あり、藪あり、地隙あり、樹木あり。漫然と走行すれば、事故は必至だ。

 ※LIDAR豆知識。このパルスレーザー・センサーをドローンから下向きに使うと、専用ソフトウェアで反射を解析することによって、植生が覆い隠していた地面の凹凸を広い範囲で把握することができ、たとえば古代の建築や土工の痕跡が浮かび上がって見えることがしばしばある。ではレーザー光線は木の葉を透過できるのか? 然らず。この装置は、太さ1cmくらいの光束を、移動しながらパルス照射するので、必ずどこかでは光は地面まで届き、瞬時に機体まで反射して戻ってくるという仕組みなのである。それをすべて機械が記録しておいて、あとでソフトウェアが整理をする。もし昼でも地表が真っ暗なほどの濃密なジャングルだったら、エアボーンLIDARによる地表凹凸図づくりは困難かもしれないが、たいがいは、うまく行くそうだ。どんな密林でも、樹冠に数センチの隙間が皆無ということはないそうだ。

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 Defense Express の2023-5-14記事「Why Poland’s Air Defense Didn’t Take Down russian Kh-55 in December, Polish Media Explains」。
   2022-12-16に、ベラルーシ国境から露軍が「Kh-55」巡航ミサイルを発射し、それはポーランド領空を北西方向へまっすぐ飛翔し、そのまま行くとバルト海沿岸のドイツ国境に隣接したLNG基地に着弾しそうであったのだが、半途にして墜落したという事件があった。これをポーランドの防空システムはまったく傍観したことから、一大スキャンダルとなっていた。

 この事件の反省が、ポーランドメディアの「Defence24」に公表された。
 露軍機は、ウクライナ領内の目標を攻撃するつもりで「Kh-55」を放ったが、それが逸走したようである。

 ウクライナ軍は探知していた。しかしウクライナ軍とポーランド軍の防空システムはデータがリンクしていないので、警報はウクライナ軍から電話によって伝えられた。

 ところが何故かポーランド軍の防空部隊は平時感覚でくつろいでいたため、この連絡を受けても、なすすべなく、ミサイルの飛翔を見送るだけだったのだ。

 ポーランド軍の防空警戒レーダーには「ドット」が映る。しかしそれが有人航空機なのかミサイルなのか無人機なのかは、ドットの動きの特徴を人が視て判断する必要がある。それは経験を積んだ兵隊にしかできない。

 理論値だが、もし「Kh-55」が地上100mから1000mの高さを、速度700km/時で飛翔した場合、ポーランド軍のレーダーは、それを距離47kmから148kmにおいて探知できる。

 この事件ではウクライナ軍の地上レーダーも飛翔体を探知できていたというので、射点はベラルーシのブレスト市よりも南だったであろう。

 ポーランド国防省の発表によると、ポーランド国軍は、この巡航ミサイルを、すぐに見失ったそうである。どうやらポーランド軍の防空レーダー網は、自国の全土をカバーしていないようなのだ。

 また何故かポーランド軍は、これまで、高度3000m以上の飛翔体を探知するためのレーダーは要求していたが、それ以下の低空目標を探知できるレーダーは要求していなかったという。

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 The Maritime Executive の2023-5-12記事「Russia Starts Building Ships for North-South Trade Route to Iran」。
   イランとの「交易輸送」ルートを太くする必要を感じているロシアは、河用の多目的貨物船を量産させることになった。
 ばら積み物資もコンテナもどちらも積載でき、運河からカスピ海を出入りできるようにする。

 まず国営「ロータス造船所」が4隻の新造に着手する。

 全長463フィート、ビーム幅55フィート。吃水は20フィート。これより大きいと「ヴォルガ~ドン運河」は通航できない。これより小さければ、サンクトペテルスブルグからイランのカスピ沿岸までも往復できるのである。

 ばら荷用の船倉は2箇所、設けられる。そこには、穀物、木材、丸太などのドライカーゴを積める。

 この船は河川を航行するときは貨物を5000トンまでしか積めない。というのは吃水が12フィートよりも深くなるとアウトだからだ。しかしカスピ海では9200トンまで積んでいい。

 機関は中速ディーゼル×2基で、10ノットを出す。それと別に2基の発電用ディーゼル補機があり、これは冷凍貨物を運ぶときに役立てる。

 ロシア工業交易エネルギー省によれば、このクラスの多用途貨物船を21隻、新造する計画である。その前の話では45隻つくるという構想であった。
 1隻の建造コストは2200万米ドルらしい。

 新造船の最初の2隻は2024に就役予定で、さらに2隻が2025に就航する。

 ※ロシアはどうしてカスピ海を好き勝手に利用できるのかについて、補足説明したい。カスピ海は、ソ連時代には、ソ連とイランの2ヵ国だけで、好き勝手に利用してきた。この歴史が重いのである。ソ連の解体によって沿岸国は5ヵ国に増えたのだが、新参の3ヵ国にはロシアと同等の権利は、事実上、与えられていない。ロシアもイランも、たとえばカザフスタンとアゼルバイジャンを直結する海底パイプラインの敷設企画に拒否権を行使できる。それでしかたなくカザフはUAEの造船所に、8000トン級の小型タンカー×2隻を建造させた。8000トンを超えると、もはやカスピに搬入することすら不可能。カスピ海もぜんたいとして浅海なので、船が沿岸で座礁しないためには、効率の悪い小型船で我慢するしかないのだ。2018-8-12に、5ヵ国は、「カスピ海の法的地位に関する条約(Convention on the Legal Status of the Caspian Sea)」に署名した。ロシア批准は2019-10-1。イランは批准でゴネている。この条約中、「アーティクル3のパラグラフ2」にて、カスピは軍事利用しない旨、定めてある。しかるに、2022-4-23に、露軍機がカスピ上空よりミサイルを発射してオデーサを空襲。アパートの三世代を殺した。2022-5-3にもツポレフ95が、カスピ上空から巡航ミサイルを放ち、リビウなどを攻撃している。これが不問に付されているのは、5ヵ国同士の紛争でないかぎり、内政不干渉問題となるためである。ついでながら、カスピ沖合い油田は、とても深いところにある。3000mも掘削しなければならない。高温高圧に耐える器材と特殊技術が必要である。それをカザフなどは持ちあわせていない。またカスピ海の一部は冬に結氷する。

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 ストラテジーペイジの2023-5-13記事。
   米海兵隊は3個の「沿岸連隊」を置く計画である。
 その最初の部隊は「第3海兵沿岸連隊」で2022にハワイに創隊された。ハワイにはもともと、海兵隊の「第3連隊」が所在するので、この番号になった。

 二番目の部隊は2025年に日本にできる。名称は「海兵第12沿岸連隊」になる。

 各沿岸連隊は、麾下のロケット砲兵大隊に、陸上発射型のトマホークを装備させるはずである。
 1個大隊は、トラクター&トレーラー式の4連装ラーンチャーから、最新の「ブロック5」を発射する。

 「ブロック5」は、2020年に導入された最新式で、1600kmも離れた海面を移動している敵の大型軍艦を撃破することができる。

 ちなみに「ブロック4」は2005年からある。当時の米軍はイラクやアフガンにかかりきりだったので、対艦能力は重視されていなかった。その後、イラクやアフガンからは足抜けしたので、トマホークの性格も見直された。

 高性能化しているのに、「ブロック5」の1発の単価は150万ドルに据え置かれる。とてもめずらしいことだ。