この報道写真で感心したのは、コンクリート製の巨大U字溝を天地逆さに一定の長さに地べたに直接に置きつらねて、その側面〔とおそらく天井〕には土嚢を積み上げて補強してやるという、《あまりにもかんたんな超スピード工事》の手際についてではない。
その工事を、たった1台で淡々とこなしている、4×4タイヤ式のユンボ「Komatsu PW180」に目が釘付けになった。
車軸は前後2軸なのだが、タイヤは4端すべてダブルタイヤ。そのうち前輪はステアリングもするようである。
ネットで検索したら、ベルギーにある「コマツ・ハノマーグ」社が欧州ユーザー向けに製造している167馬力、自重18トンの中型機材らしい。それ以上のスペックはわからないのだが、道路を低燃費で自走できることもウリなのだろうと想像ができる。
ホイール式の「大特」の前輪もダブルタイヤにしてしまえばいいという発想は、私にはなかった。これこそ、地雷だらけのウクライナの復興事業には最適の重機じゃないか。
啓開されていない生地を移動するときには、用心として、ユンボの鶴首先に簡易ローラーでも噛ませて前輪のすぐ前を押し転がすようにすればいい。
もしそれには反応しなかった地雷が前輪の下ではぜてしまっても、残りの3端とユンボの「手先」が生きているかぎり、立ち往生はしなくて済むだろう。自力で後退して来られるわけだ。
いや、ダブルタイヤだから、4端ぜんぶが、なおも機能してくれるかもしれない。対人地雷ならそう期待していいだろう。
もちろんキャビンには追加防護が必要だろうが、それは2トン以内の重量増でなんとかできるだろう。
それよりも、重機の無人化でも先端技術を有しているコマツのこと、これを有人で作業させる必要が、そもそもないのか。
すばらしい。コマツが「官」相手のAFV商売を辞退してしまったのは、こういう自由な発想をぐいぐいと推進することができない不自由さに、ほとほと嫌気がさしたのであるかもしれない。
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David Hambling 記者による20239-14記事「Super-Sized, Super-Smart Kamikaze Quadcopter ‘Bringing Anti-Tank Dominance’」。
IAI社が「Rotem-L」というクオッドコプター型のFPVリモコン操縦式の爆撃機を売り出したのは2016年のことで、まぎれもなく「カミカゼコプター」のさきがけである。
しかも、都市部での運用を想定して、超音波エコーによって障害物を検知してそれとの衝突を自律的に回避する仕組みまで実装していた。
機体コンポーネンツは市販のオフザシェルフ部品を寄せ集めていた。
滞空30分可能。
MTOWが12ポンド、弾頭重量2ポンドといったところ。
完全な対人用で、テロリストを深夜でも区別して攻撃するものだった。標的を見失ったときは、発進点まで呼び戻すことができた。
それから7年。IAIは今週のロンドンのDSEIに、最新版「ロテム・アルファ」を出展した。こちらはハッキリと「対戦車用」を謳っている。
ウクライナではこれよりもずっと小型の現地製の自爆コプターがT-90Mを仕留められることを幾度も証明している。
歩兵が背嚢に入れて運搬。負担重量は55ポンドだ。その格納状態から2分にして、発進可能になる。
爆薬はHEATになっていて、60センチの装甲鈑を穿貫できる。
滞空1時間可能。
リモコン距離は、数十kmという。
「ロテム・アルファ」の最新機能は「高見見物」モード。いったん、戦場の見晴らしのよいビルの屋上などに着陸させてローターを停止。静かにビデオカメラによる監視だけを続ける。敵部隊が全容をあらわすまで気長に待ち続け、高価値車両をよく見極めてから、とつぜんに奇襲してやれるのだ。再離陸から突入自爆まであっという間なので、敵のレーダー付きのAA車両も、対応時間は得られない。
これと類似の「冬眠&めざめ」モードはロシア人が発案してすでに実行している。ただし露軍のやり方は、あらかじめ、ビルの屋上に、歩兵が自爆コプターを置いて来るのである。
IAIの新製品は、そのビルの屋上に、歩兵が行く必要はない。機体がじぶんで飛んでいって、そこで着陸して待機するのだ。
もうひとつ、「ロテム・アルファ」には新機軸が付加されている。敵部隊の接近を、集音マイクで探知することもできるようにしてある。車両のエンジン音に反応して「覚醒」できるのだ。もちろん、何かの発砲音でも活性化する。単に聴音するだけでなく、その音がやって来る方向も、飛行しながら、絞り込めるという。姿が見えないうちから、そっちへ向かうこともできるわけだ。
宣伝パンフレットにはすごいことが書いてある。砲熕砲兵であれ、ロケット砲兵であれ、ロテム・アルファは、飛行しながらその音源に向かい、ついでサーマルビデオカメラで(暗夜であっても)その正体を見極めて、即座に特攻自爆することができる。
これまで味方の砲兵部隊に頼んでいた対砲兵戦を、味方の歩兵部隊が自前でやれてしまうのだ。
※これは革命だ。歩兵と砲兵の垣根がなくなる。そしてますます省人化。
イスラエル企業がこの機能を開発したのは必要があってのことである。国境のすぐ外側に出現する臨時の隠顕陣地から敵ゲリラが短距離ロケット弾を連射してくるのを、すみやかに覆滅してやるためには、標定から反撃効力射までの時間を限りなくゼロに近付けなくてはいけない。自爆機が飛行しながら音源標定をしてくれるなら、まさに理想的だろう。
もちろん運用はスウォームだ。敵ゲリラの砲撃がどこかで始まったら、全国境で一斉に飛ばす。これによって、別の方面でも敵ゲリラが「呼応」することが難しくなる。もし、敵のロケット砲陣地が出現しなかったなら、その方面の自爆機はすべて呼び戻されて、こっちのアセットは無駄にはならない。
※このドローン(すなわち歩兵)だけに任せきる必要もない。こっちの特科の対砲レーダーで得た情報で見当のつく、敵砲兵の座標へ、このドローンをリモコン指令によって向かわせてもいいわけだ。その先は、ドローンが自分で音源を辿り、砲口発光をAIでスペクトラム分析し、「仲間」をその場へ呼び寄せ、オペレーターの許可を得て突入自爆する。そのように進化して行くだろう。
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2023-9-14記事「Invaders spend precision ammunition on Ukrainian weapon mock-ups」。
ウクライナ軍のために、いろいろな「ダミー」装備を構築してやっているサービス会社「Metinvest」社が発表したところによると、ドネツク戦線の、露軍からの距離55kmのあたりで、「P-18」という野戦用の大型の防空警戒レーダーを模造した囮に偽装網をかけて畑の真ん中に置いておいたら露軍がひっかかり、長距離精密誘導兵器〔ランセット?〕を射ち込んで来たという。
会社は、このような、砲兵や大型レーダーに似せたモックアップを250個ほど、すでに納入済みであるという。
「P-18」はレーダーが回転しないと露軍を騙せないので、ベニヤ板だけでは無理で、金属フレームを使用。それでも敵の精密兵器(それには「ランセット」も含む)の1発の値段よりは、遥かに安価である。