並木書房さんから強烈な力の入ったハードカバーの新刊が出た。ロビン・リエリー氏著『日米資料による 特攻作戦全史』。
このジャンルの集大成的決定版資料ではないかと思われるゆえ、いずれふさわしい方々が本格的な書評・註解をなさるに違いない(昨年の『米軍から見た沖縄特攻作戦』との違いも含めて)。
小生は、速読の結果、来たる対支防衛戦――おそらくは同時に台湾有事でもある――に対処すべき《日本版レプリケーター》の戦果を左右するかもしれぬ重要ポイントを、本書のおかげで改めて整理し得ました。
卒爾ながら、それを列挙しておきます。
◇九三中練のような、木骨羽布張りの旧型練習機は、レーダー被探知距離が6km台と短かっただけでなく、AA砲弾のVT信管が作動しないで通過してくれるので、165km/時の低速しか出せなかったのにも拘わらず、しばしば被撃墜を免れて、小型艦の回避機動にも能く追躡し、著功を挙げている。たとえばDDの『カラハン』をみごと撃沈。
◇いやしくも可動するエンジンならば何でも取り付けて送り出せるように考えた中島キ115「剣」のコンセプトは、今日のレプリケーター特攻機にも使えるはず。離陸後投棄される降着装置や、突入寸前に翼面積を最小にして着速を増大させる工夫なども。
◇濃密な米海軍の防空網を突破して艦艇への突入を成功させるための最善の分散法は、とにかく「多方向」からアプローチするようにすること。
◇艦艇からのAAが弱くなるアプローチ方位は、艦尾方向だということは、日米両軍でよく理解していた。
◇当時のAAの機械的限界のため、艦艇の真上をウロウロし続け、まっすぐ降下してくる日本機は、CAPが追い払わないかぎり、対処できなかった。たとえば40ミリ機関砲は給弾が人力だが、砲身が90度上を向いていると、給弾が無理。
◇艦艇側では、雨で視程が不良の夜が、最もくつろいでいられた。ぎゃくに月明の夜は、最悪だった。カミカゼ側としては、雲隠れを利用しやすい雨天の昼間がいちばんありがたかった。
◇AAのタマに曳光弾を混ぜすぎると、カミカゼはその曳跟軌跡を辿ることによって敵艦の位置をすばやく見定めてしまう。僚艦のAA射手も、派手な曳光弾の行き先にばかり注意が向いてしまう。
◇航空エンジンは製造工場において15時間もの回転試験が必要だが、1944以降、そのために必要な燃料が日本国内で涸渇した。
◇陸軍の「マルレ」(韜晦呼称「連絡艇」の略号)は、フィリピン戦が初陣だが、海軍の「震洋」以上に大活躍している。ただし、爆雷投下後、敵艦から離れていく段階で、多くが火器の良いマトになった。
◇「震洋」は、メインの起爆システムが電気式であったため、迷走電流などで、海辺のトンネル倉庫内でよく自爆事故を起こした。後知恵はこうだ。メインの衝突起爆はメカニカル雷管とし、サブの自爆手段として電気もしくはケミカルバルブを備えておくべきであった。
◇「回天」の起爆機構は、メインが慣性衝突信管で、サブが、搭乗員が手動で作動させる電気信管。
◇「回天」は、針路を定めるときに深さ1mから潜望鏡を上げたが、そのあとは5mまで潜り、潜望鏡無しで衝突する。
◇サイパンの日本軍守備隊は、アルミの航空機用増槽を「ミジェットサブ」に改造した。実物写真あり。
◇カミカゼは、遅くとも10月26日には、敵艦へ一直線ダイブする途中ずっと、機銃掃射をし続けている。以後、それは常套行動となり、珍しくない。
◇リバティ船よりさらに大型の「ヴィクトリー船」という戦時標準型輸送艦を米軍は44年以降、534隻建造した。全長139m、15ノット。(ちなみにこの前ご紹介した最新の「HIGH BULK 40E」型貨物船は183mで13.6ノット。)
◇カミカゼ攻撃の矢面に立ったのは、LCTやLSMのような、艦名が数字でしか表されない、無名の輸送艇だった。こうした船艇が、ガソリンや弾薬を手分けして補給していた。
◇遅くとも12月30日には、カミカゼ特攻機は、艦艇に命中する寸前のタイミングで、吊下している爆弾をリリースする小技を採用していた。これにより爆弾にはブレーキがかからずに、鋼鈑デッキを何層も貫徹できる。この分離衝突方式はとても効果的であった。今日の対艦攻撃用の自爆型UAVも、衝突コースの最終段階で兵装を分離するのがよいかもしれない。それで敵艦のAA用レーダーに負荷をかける効果もあるはずだろう。
◇遅くとも45年1月8日のパラオ諸島以降、「遊泳特攻」戦法が、機会のあるかぎり採用されていた。伏龍のような本格的なスーツを着用せぬ泳者によるもの。
◇LSTの舷側の真下までやってきた「マルレ」をLSTの自動火器は射撃できない。俯角に制約があるので。「マルレ」が逃げて離れて行く段階で、ようやく、射撃できるようになる。後知恵。マルレは「煙幕」を張りながらUターン避退できるようにしておいたら、合理的だっただろう。
◇救命胴衣は、紐を結ぶ方式ではいけない。被弾船の乗員は手に大火傷をしていることがあるので。
◇遅くも45年1月21日には、日本機は、帰投する米機の後ろからゆっくりと追躡することによって、敵艦のレーダーエコーの上で、あたかも米機であるかのようにみせかけるという、巧みな欺騙アプローチ術を会得している。
◇護衛空母『ビスマーク・シー』の教訓。下層甲板に格納する飛行機からは、めんどうでも必ずガソリンを抜いておかないと、それが被弾を致命傷にまで拡大してしまう。
◇回天よりも「マルレ」の方が活躍している。桜花よりも、練習機や九七戦ベースの低速特攻機の方が多大の戦果を挙げている。これらはそっくり、「レプリケーター」の「仕様」にかんして、よく考えるべき教訓だ。
◇新田原が米機から空襲されそうになると、所在機は、朝鮮半島の群山飛行場まで一時疎開した。
◇駆逐艦『ゼラーズ』の戦訓総括。同時2機のカミカゼは、撃退できる。しかし同時3機となると、1機はかならず透過して来る。
◇ヴィクトリー船のキングポスト(自前クレーンの主塔)は、カミカゼ機が命中しても、倒壊したことなし。
◇5月4日以降、沖縄で、手漕ぎ船による肉薄攻撃が催行されている。武器は手榴弾。それに比して大発は、案外、特攻の道具としては顧みられていなかった感じ。問題は、音で気取られないことか。
◇4本煙突の旧式駆逐艦を輸送船に改造したものは、泊地でカミカゼに狙われると、とっさに身動きもかなわず、防禦するのはお手上げであった。こういう旧いアセットを最前線まで持ってきてはぜったいにいけない。
◇大本営は、米軍の九州上陸作戦は輸送艦艇1000隻でやって来ると正確に予想。その半数の500隻を撃沈するためには、特攻機が3000機必要である、と計算していた。
◇200kg以下の投下爆弾や爆雷の、アンダーキール炸裂が、水上艦を1発で廃船にできることは、沖縄戦のさなかに、複数の偶然の事例から、知見が得られた。今日の「クイックシンク」の淵源。
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ストラテジーペイジ の 2024-9-16記事。
現況、最前線のウクライナ軍は、露軍占領エリア内に縦深20kmまで、自前のFPV自爆ドローンを送り込める。
「有効射程」ならぬ「有効ドローン覆域」が20kmと表現できる。
このため最前線の露軍将兵は、飲用水すら前送されてこなくなってしまって、困っている。
クォッドコプター型のFPV自爆ドローンは、双方とも、1機のコストが500ドル。
ただしこれはサーマルビデオを搭載していない型で、夜間作戦用にナイト・ヴィジョンをとりつければ、単価は2倍以上になる。
1機が搭載する炸薬量は500グラムほどだ。
当初イランはロシアに「シャヘド136」を1機20万ドルで売った。
しかしウクライナのエンジニアは、巧妙に設計すれば、等しい性能の自爆固定翼ドローンを、2万ドル未満で生産できると考えている。
ドローンは空軍の仕事も変えた。
かつてはBDA=爆撃加害評価 が空軍にとっては大仕事だった。自軍機が投弾した後からふたたび写真偵察して、爆撃の効果がどれくらいあったのかを判定しないことには、次の手が決められなかった。
2002年から米軍がアフガニスタンとイラクで始めた「テロとの戦い」ですら、WWII式のBDAが不可欠だった。
それが、2022~のウクライナ戦争では一変したのである。ドローンが、BDAを即時にやってくれるから。
それ以前であれば、確定的なBDAには、人間の地上偵察員を現場まで派遣する必要があった。
しかしいまやドローンが、人の代わりに、建物の敷地内や、トンネル内をすら、覗き込んで調べてくれるのだ。
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Josh Luckenbaugh 記者による2024-9-16記事「Startup to Produce Energetic Materials With 3D Printers」。
テキサス州にある「スーパーノヴァ」社はこのほど、3Dプリンターを使って、軍用レベルの新火薬を量産する道に目途をつけた。
粘性がふつうの100倍もある樹脂を、立体リソグラフィーに使えるようにした。
もともと3Dプリンターは、粘性の高い素材とは相性が悪い。会社は、その壁を乗り越えた。
エネルギー・レベルの高い爆薬のような粉体に、光硬化性の結着媒体を混ぜる。かなりの粘性となるが、その混ぜ物には、いささかの気泡も生じさせない。これを3D出力して造型し、そのまま紫外線で硬化させる。
たとえば、無弾頭の紙飛行機と見えても、じつは、機体素材全部が爆発物である、そのような造型。
3Dプリンターを使えるということは、最前線でもこれを量産できるわけだ。
また、最先端のロケット推進剤を、いきなり複雑巧妙な立体構造に、固化させてやることもできる。
ミサイル弾頭も同様。特別な対戦車弾頭を、アイスクリーム工場のようにオートメーションで量産できる。革命だ。
※HEAT弾頭の正面のコーン状空隙は、ただ空気を入れておくのはスペースがもったいないから、たとえば酸化剤を不活性物質の樹脂バブルで封入したもの等を、充填してはいかんのだろうか? その特殊な樹脂を、特殊3Dプリンターで製造することができるのではないか?
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ストラテジーペイジ の2024-9-16記事。
米国はウクライナに対して、米国から供与した特定の兵器を、どこに対して使ってはいけないか、事細かに注文している。じつはその注文のおおもとは、ロシアの国防大臣から米国の国防長官に対する直通通信によって、さいしょになされているものだ。米国政府は、ひたすらにそれを反映しているのである。
ウクライナが国産している兵器を、ロシア領内の標的破壊のために使っても、米国政府はキーウに公式に苦情を言ってくることはない。
そこでウクライナ側は、米国供与兵器と同等のレンジをもつ長距離自爆UAVを国内で製造して使用し、それと混ぜて米国供与品も、黙って勝手に使ってしまう。そして米国政府に対しては「国産兵器によって攻撃している。ロシアのクレームは、いつもの嘘だ」と回答する。米国政府はそれ以上、突っ込まない。
ロシアがいつも嘘ばかり発表するものだから、この回答が有効なのである。
現状、こんな感じとなっている。
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The Maritime Executive の2024-9-11記事「CNOOC Makes First Ultra-Deepwater Gas Discovery in South China Sea」。
中共の国営エネルギー会社 CNOOC が、大深度の海底ボーリングにより、有望なガス田をブチ当てたと発表している。
場所は、珠江の河口。
シンセンから150浬南――すなわちEEZ内――にある、白雲と呼ばれる海盆。
深さ4400mまで掘ったところ、650mのひろがりのあるガス溜まり〔ただし頁岩層?〕を見つけた、と。
ちなみにこの会社のトップは汚職で追放されている。
日米史料による特攻作戦全史