新年あけましてお目出度う存じます。

 このようなご挨拶が毎年可能になっている、身の幸運を噛みしめております。
 ちかごろ旧往来の整理がままならず、賀状を出しそびれてばかりなのですが、この場を使いまして、皆々様のご厚誼に心より御礼申し上げます。

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 David Choi 記者による2024-12-31記事「North Korean troops making ‘human wave’ attacks against Ukrainian forces, US says」。
    ウクライナに対するバイデン政権最後の軍資金援助(それには文官の給料も幅広く含まれる)についてイエレン財務長官はコメント。ウクライナがうまく行くことが、合衆国のコアな利益なのである。ロシアによる違法な侵略を阻止することは、世界の民主的でルールに基づいた秩序を擁護し、米国の安全と経済的利益を増進する所以だ。またこれが、他の専制主義体制や侵略計画国〔=中共〕に対し、お前らは揺るぎのない決意に直面するんだぞ、との、疑いの余地のないメッセージにもなる。

 ※これは、次のトランプに対する、最も短く要約した説教になっている。トランプ爺さんは長い文章は読んでくれないらしい。しかしこのくらいのレトリックなら、テレビ・ニュースの音声を通じ、頭に入るだろうという計算を、現政権の中枢では、しているのだろう。現政権スタッフが、最後の仕事と思って、張り切っている感じがする。

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 James W. Carden 記者による2024-12-30記事「The Untold Story of Carter’s Fateful Foreign Policy」。

  カーターは長寿だったが、ロザリン夫人もすごい。77年間連れ添って2023-11にご逝去であった。

 カーターの外交は、ズビグニュー・ブレジンスキー補佐官(国家安全問題担当)が領導した。
 ブレジンスキーはなんとしても政権中枢に参与したかった。だから、1976の大統領レースでカーターの敵手になった者たち複数にも、自分を売り込んでいる。

 トルーマン政権の四人目のセクデフだったロバート・ロヴェットは、《米国生まれならぬ者を国家安全保障担当補佐官にしたらダメだ》と言っていた(ちなみにキッシンジャーも帰化移民)。

 クリントン政権で国務長官に就いているオルブライトは、ブレジンスキーの弟子だった。ブレジンスキーがその後の米国の対露姿勢を画定したので、その弟子なら不安は無かろうというので、オルブライトは抜擢された。

 記者いわく、過去数十年、米国の外交は、ボス(大統領)に面従腹背の専門エリートたちによって、牛耳られている。

 カーターは、国務長官にはジョージ・ボール(国務省の高官経歴あり)が良いと思ってはいたが、おそらく上院が承認してくれまいと懸念した。当時「ネオコン」は民主党が基盤で、上院議員のヘンリー・ジャクソンが領導していた。反イスラエル的な発言をためらわぬジョージ・ボールを、ヘンリー・ジャクソンは気に入るまい、とカーターは懸念し、それでけっきょく、国務長官にはサイラス・ヴァンスを登用したのである。

 ジョージ・ボールは、リンドン・ジョンソン大統領のインナーサークルに属していたとき、ベトナム戦争についての先見の明をあらわしていた。おそらく、ボールが国務長官になっていたなら、ブレジンスキーと衝突しただろう。

 カーターの最初の間違いは、イスラエル・ロビーに、あっさりと戦利品を与えたことで、二番目の間違いは、ブレジンスキーを重用したことだ。

 ソ連について2つの学派があった。ブレジンスキーは、ソ連の内部構造なんて考えてやる必要はなく、ソ連が過去にしてきたことと、今、諸国に対してやらかしていることを見るだけでも、これからソ連が対外侵略しかしない未来は確定なんだという主張。
 出てくるアウトプットが、ひたすらの対外侵略なのだから、レーニン、スターリン、フルシチョフ、ブレジネフにどんな差異があるかなどと考えるのは無駄だ。非ロシア世界の諸国民にとっては、そんな差異は無意味なのである。

 ハーバード大教授のアダム・ウラムもブレジンスキーと同じポーランド移民だから、まったくブレジンスキーに賛成であった。
 これに反対していた学派の代表は、プリンストン大のステフェン・コーエン教授(ロシア政治研究者)だった。

 ブレジンスキーにいわせると、キッシンジャーとニクソンが進めたデタント(この用語はドゴールから借りた)に、良い結末など、ありえぬことだった。

 ブレジンスキーは1998にフランスの新聞に明かしている。ブレジネフは1979-12-24にアフガニスタンに対する侵略戦争を始めた。そのあとCIAは、公然とムジャヘディンを支援した。これが知られている公式史実。だがじつは、1979-7-3にカーター大統領が命令を下していた。カブールの反ソ勢力に密かに援助しなさい、と。同日、ブレジンスキーはカーターにメモを書き送ったという。その援助は、ソ連の軍事的な干渉を呼ぶであろう、と。

 じっさいにソ連軍がアフガンに南下した行動は、ソ連がペルシャ湾まで南下しようとしているのではないかというかねてからの疑いを、米国要路に納得させた。ブレジンスキーは正しく、ロシアの内部構造などどうでもいいのである。ロシア国家は、勢力をますます拡張して全世界を支配することしか頭にないのだ。

 ※人が何を語っているかではなく、何をやってきたかだけを見なさい、というのがナポレオンの金言。それは、「構造」は行動に統計的に表れる、という知恵なのだろう。「構造」内部はブラックボックスで可いのである。いずれにしても、それを他者が知ることなど不可能なのだから。しかし「機能」は推定できるし、予言も可能だ。

 ペルシャ湾を米国はぜったいにソ連の支配下には置かせない、という骨子の、「カーター・ドクトリン」が策定された。書いたのはブレジンスキーである。

 ブレジンスキーは2017に死去しているから、2014のロシアのクリミア切り取りも見届け、《俺が正しかっただろう》と言えるのだ。

 ※ハンナ・アレントの名言を引く価値があるだろう。いわく。〔ヒトラー隆盛時代の党による〕常続的な嘘の発信は、人々にその嘘を信じさせようとしたのではない。誰も、何も信ずることができぬ空間をまず定着させることが、必要だったのだ。なぜなら、真実と嘘との判別ができなくなった空間内においては、人はもはや、善と悪の区別がつけられない。そこでは人々は、考える力を剥奪される。知ることも、意志も奪われた人間は、嘘の支配に屈してしまう。そうなった後でなら、政府はその民衆に、どんなムチャクチャなことでも、させられるのだ。

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 Clarence Oxford 記者による2024-12-23記事「DARPA’s ASIMOV seeks to develop Ethical Standards for Autonomous Systems」。
   DARPAは、AI利用の自動兵器システムに「倫理」を嵌め込む研究を、「CoVar」社に委託した。複数年契約。

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 「mil.in.ua」の2024-12-31記事「Ukrainian Naval Drone Hits Russian Mi-8 for First Time」。
  無人ボートに積載されたSAMを遠隔操作で発射して、1機の「ミル8」を撃墜した。

 またしてもブダノフの「国防情報局」がやってくれた。無人ボートの「マグラ V5」から「R-73」という対空ミサイルを放ち、露軍の「ミル8」を返り討ちにした。このヘリは先にボートを銃撃してきたものである。
 その日付は12月31日だったという。場所は黒海。

 このSAMは操舵に可動フィンの他に「ガス噴出」も使うタイプ。もともとは、短距離用のAAMなのだが、それを転用した。

 さらにもう1機のヘリも損傷させている。しかし、そのヘリは陸上基地まで辿り着けた模様。

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 『The Maritime Executive』の2024-12-30記事「U.S. Coast Guard Warns Shipowners to Watch Out for Fake Pilot Ladders」。
  水先案内人が入港直前の大型商船に乗り移るときに、金属梯子を垂らしてもらうのだが、この「パイロット・ラダー」を安価なまがい物で間に合わせようとする海運会社が跡を絶たない。それは、水先人の命に関わる危険な欠陥を内包している。

 法規によって、この「パイロット・ラダー」の規格は定められている。それが守られていない。


(管理人Uより)

 兵頭二十八先生の記事が掲載されるのでしょう。良かった良かった。

産経新聞
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