Matthew Ward Agius 記者による2025-4-9記事「Trump’s tariffs: Why won’t countries buy US meat products?」。
トランプは2日に、豪州を名指しし、米国は昨年だけでも30億ドル豪州牛肉を輸入しているのに、豪州は米国産牛肉をまったく買わない、と発言。
また英国とEUが米国産牛肉を買わない根拠は非科学だとなじり、アルゼンチンが米国産の生きた牛を輸入しないことも非難した。
では、そこに科学は反映されていることを説明しよう。
豪州とアルゼンチンは、2003年に米国牛が「狂牛病(BSE)」を発症したので、その輸入を制限したのである。
プリオンというタンパク質は脳神経を冒す。これにまみれた牛肉を人が食べると、その人も狂牛病を発症することがある。「クロイツフェルト-ヤコブ症候群」といい、これまで既に全世界で233人がこれに罹って死んだ。彼らの全員が、BSEにまみれた肉を食べていたのである。
米保健当局は、BSEの国内流行を抑えようと努めた。その成果は認められたから、豪州政府は2019に米牛肉の輸入を解禁している。
ところが、トランプを筆頭とする米国人たちは、豪州政府がいまだに米国産肉の輸入を禁じていると思い込んでいるようなのだ。
豪州政府が外国業者に要求しているのは「バイオセキュリティ」である。これは豪州の法律で決められている。米国の牛肉輸出業者は、その牛肉が、米国内で繁殖された牛であって、かつまた米国内で育成された牛であって、かつまた米国内で屠殺処理された商品であることを、豪州政府に対して証明ができなければならない。
しかしそのような「トレーサビリティ」を実現するためには、生産者は余分なコストを負担せねばならない。米国の畜産関係者たちは、そのコストと面倒を厭い、豪州政府が求める「証明」ができる牛肉が、事実上、いまだに皆無なのだ。だから豪州には、米国産の牛肉は、入って来られない。
アルゼンチン政府は、BSEを理由とした米国産牛肉の輸入制限を2018年に撤廃している。ただし、米国からの生きた牛の輸入は、ひきつづいて禁止をしたままだ。米政府とアルゼンチン政府は、生きた牛が衛生的で安全であるといかにして証明できるかについて、いまだに合意には至っていないからである。
EUと英国は、1989から、米国産の牛肉の輸入を規制している。理由は、米国内の畜産農家が「成長ホルモン」を肉牛にも乳牛にも投与し、育成期間を短縮したり、肥育効率を高めているからだ。代表的なホルモン剤としては「estradiol 17ベータ」や「テストステロン」がある。
EUは、そうしたホルモンを投与されていない牛の肉については、米国から輸入をしている。
英国はEUを離脱した後も、独自の研究調査により、ホルモン漬け牛肉の輸入を禁止している。たとえば「estradiol 17ベータ」は、ヒトの癌性腫瘍の増大を加速することが、医学的に確かめられているという。
これに対して米当局は、成人がそういう肉を食べても健康には何のリスクもない、とEUに反論している。
それに対して英国の学者先生いわく。あいにく英国には健康な成人だけでなく、嬰児・児童もいれば老人もおり、免疫障害をもった人も住んでいるのである、と。
またEUは米国当局よりも、ホルモン薬漬け牛肉の危険について、包括的に評価を下している。
トランプはEUが、米国産の家禽(ほぼ、チキンのこと)の鳥肉を、塩素殺菌処理をしていることを理由に、輸入を許可しないことを非難している。
米国では、campylobacter のような食中毒の原因となるバクテリアを殺菌するために、塩素溶液で鶏肉を洗浄するのである。
EFSA=欧州食品安全局 は、そうした薬剤が鶏肉消費者の健康に害をおよぼすとは考えていない。
しかし、最後に塩素で殺菌すりゃあいいんだという雑駁な考え方であれば、おそらく最終食肉処理に至る前の養鶏の全段階で、劣悪杜撰な予防衛生や、欧州基準からは許し難い虐待的「ブロイラー生産」様式がまかり通っていることであろう。欧州は、そうした「動物福祉」を軽視する者たちに対し、目をつぶらないのである。
欧州の倫理基準では、畜産養鶏業界が「ファーム(農場)からフォーク(皿)まで」、動物福祉を遵奉することを求めるのだ。
そもそも、塩素消毒液で鶏肉の表面を洗ったからといって、肉の隅々までよく殺菌されているわけではない。ただ、とおりいっぺんな検査で、菌が検出されなくなる、というだけ。あちこちに残ったバクテリアは、いつでも増殖したり、移ったり、誰彼を病気にさせかねないのである。そしてじっさい、米国内でのバクテリアが原因の食肉食中毒事故は、欧州よりも発生率が高いのである。
2020年の世論調査によると、英国人の80%は、塩素殺菌された米国産の鶏肉の輸入に、反対である。
※米海軍は「MQ-4C Triton」をまた沖縄に配備する。数週間後から。
次。
Dylan Scott 記者による2025-4-9記事「Why RFK Jr. wants to ban fluoride in water」。
ケネディ厚生長官は、米国の上水に弗素を混ぜて、人々の虫歯を防いできた、1950年から続く連邦の政策を、これから、逆転させようとしている。
はしかのアウトブレークが起きているのに、はしかワクチンへの連邦補助金を打ち切るなど、ケネディはますますじぶんのしごとにうちこみちゅうである。
ケネディにいわせると、弗素は工業汚水であり、それを水道水に混ぜていることにより、全米の児童の神経は障害され、骨の癌になるのだという。
※映画の『ドクターストレンジラブ』に出てくる気違い基地司令官と、ものすごくイメージが重なるのは、どうして?
ユタ州は、水道からフッ素を追放した、最初の州になった。
エビデンスある統計。フッ素水道水のおかげで、米国の子どもも成人も、虫歯が25%すくなくなっていると。
そして現状、三人のうち二人のアメリカ人は、地域の上水システムの水道水を飲用している。
CDCは、フッ素水と癌のあいだに何の相関もないという研究結果を公表している。
ハワイ州はそもそも水道にフッ素を入れさせていないが、フッ素を禁じているわけでもない。
加州やイリノイ州などでは、一定規模以上の市の水道局に対して、上水にフッ素を混ぜることを州法によって義務付けている。
次。
Edward Luttwak 記者による2025-4-8記事「Tariffs will awaken the American Dream Trump must ignore the lords of Martha’s Vineyard」。
これまで数十年、米国は後進国の業者に市場を開放してきた。後進国は貧民を安く働かせて安い商品をつくり、それを米国市場へ輸出できた。
結果、後進国内の貧民はますます貧しくなり、米国の労働者は職を失った。米国の二大政党は、自由貿易万歳を叫び続けた。
当初、チープなローテク商品の流入を無限に許容するいっぽうで、米国側からは、それら後進国へ、農産品や、コカ・コーラや、烟草を輸出した。しかし次第に、米国からは「米国政府国債」を輸出するようになったのである。
米国債を、米国に対して商品を輸出している国々は、よろこんで買った。そうすることにより、ドルは高くなった。ドルが高くなれば、米国向けに輸出される商品の米国内での価格競争力は、ますます強くなるのである。
このような貿易を続けたことで、米国内のビジネス風景は、変わった。米国内では、ローテクな工業は、まったく商売にならなくなった。従来そういう分野で就労していた人々は、これからは工場ではなくて、サービス産業に転身すれば、楽にカネが稼げますよと、政府からそそのかされた。
外国から安く輸入される製品の製造などには見切りをつけ、マーケティング分析だとか、外国為替取引の仕事で成功すれば、すぐにも高所得層の仲間入りができるんだよと。
米国のエリートたちは、演説でも、新聞記事でも、大学の授業でも、工場で働く時代はアメリカ人にとってはもう終わったのであり、これからはみんなで高サラリーの市場コンサルタントだとかフィナンシャルアドバイザーになるんだよと、推しまくった。
さて、じっさいはどうなったか?
かつて、時給30ドルで、工場で組み立てをしていた労働者たちは、その工場が外国製品との価格競争に敗れて潰れた後、時給3000ドルの外国為替トレーダーに転身できただろうか?
然らず。
彼らは、時給10ドルの、ショッピングモールの警備員におちぶれるほかになかったのである。
1993年に記者〔ルトワック〕は、『危険に瀕しているアメリカン・ドリーム』という本を公刊し、アメリカ国内のローテク工業はこのままでは壊滅し、それは米国の家族の日常を亡ぼしてしまうんだぞと警告した。
まだフェンタニルなんていう麻薬は街に侵入していなかった。だが、精神破壊は待った無しだった。弁当箱を抱えて毎朝出勤する親父は、見られなくなった。その親父たちは失業者となり、運よくありつける再就職先はウォルマート。時給も前職よりもガックリと下がってしまう。そこで彼が売らねばならぬ商品群は、すべて外国からのチープな輸入品だ。そのいくつかは、かつて彼が、工場で仕上げていた製品の、中国版のバッタ物なのだ。
記者はその著書の中で、米国社会がこのようにしてまず破壊されると、次に来るものは、「製品改良されたファシズム」だぞと予言した。とうじの書評屋どもはこぞって、記者を、愚かな保護主義者だと罵ったものである。
米支配階級は、ドグマを信じている。無制限の交易は、全世界を今よりも富ませる、と。いかにもその通りであろう。だがグローバリゼーションは、同時に、アメリカ国内の工業労働者については、今よりも貧乏にさせてしまう。その貧窮は、わが子を大学へ進学させられないレベルである。かつては可能だった、次世代の「Upスキル」が、できなくなっているのだ。これがアメリカン・ドリームの危機でないことなどあり得ようか?
ビル・クリントンのせいだ。奴が、カナダやメキシコから米国への製品流入を合理的な範囲に規制する防潮堤を、いっさい、とっぱらってしまった。だったら世界中の企業がメキシコに工場を建てるのは、あたりまえではないか。そこから工業製品が、無制限の大洪水となって流れ込み、とうとうアメリカ社会を水没させてしまった。
韓国はアメ車を事実上、締め出してきた。GМは、ソウル市内にショールームを借りることすらできなかったのである。ビルのオーナーが貸そうとすると、韓国政府からオーナーは報復のイヤガラセを受けたのである。
中共は米国債を買い続けている。人為的な為替操作だ。ドルを高くすることで、ますます輸出が楽にできるのだ。
ウォルマートでは、中共製の工具97種入りセットが、1箱数ドルで買える。その現状が、どうして悪いことなのかって?
消費者視点からは、問題などない。だがアメリカ社会を構成するのは消費者だけじゃない。良い家族、良い町、良い都市を構築するには、労働者に「良い職業」があることが、不可欠の資材なのだ。その「良い職業」を、グローバリゼーションは、無意義化してしまうのである。消費者だけからなる家族と町は、ゴミと麻薬だらけの、モラルも何もない、犯罪と暴力と非知性に支配された、ゾンビの生け簀でしかないだろう。
米海軍は、必要な数の軍艦を決まったスケジュールで納品してもらえなくなっている。ボーイングの空中給油機は、いつまでも完成しない。いや、民航旅客機でも納期の遅れが生じている。何故? 米国本土で、機械製造業種の中小工場が、数百社も、消滅しているからだ。かつて彼らは、大メーカーが急いで仕事を進められずに困った折に、助っ人として、熟練工を応援に送り込んでくれた。そんな、いつでも頼りにできた職工予備軍のバッファーが、今や、存在しないのである。
有名大学に連邦補助金を出さなくする措置は、よいことだ。それら大学はくだらない社会学者を量産しただけだ。補助金を切ることにより、従来なら、しょうもない主張で世の中をかき乱す運動家になっただろう人材が、配管工になる。それはよいことだ。
次。
Van A. Mobley 記者による2025-4-9記事「Why Comparing Trump’s Tariffs To The Smoot-Hawley Act Is Dishonest」。
19世紀、英国は世界に先行して自由貿易を主唱したが、ドイツとアメリカはそれに乗らずに自国産業をタリフで守った。だから両国は成長できた。
スムート=ホーレイ関税法を制定したとき、米国は、世界最大の債権国だった。このタリフのせいで、欧州諸国は米国相手に物を売れなくなり、外貨をかせげなくなった。すなわち、米国からのWWI中の借金を、返したくとも返せなくなった。それは、グレート・ディプレッションの引き金になった。
今日、事情は1929年とは反転している。合衆国は、世界最大の債務国である。もし米国がその借金を返せなくなれば、全世界の金融が崩壊するのだ。
スムート・ホーレイ法は、悪だった。トランプ・タリフは善である。これをやらなければ米経済はじきに借金の重さに破滅し、道連れに、全世界経済も破滅させるから。
※1930年代に欧州は米国への借金を簡単に返すことはできた。たとえば英国はインド植民地を米国商人に開放するだけでよかったのである。自国植民地を米国に対して閉ざしておいて、借りた金も返さないと開き直った欧州諸国は、WWIIの人命でそのツケを払った上に、植民地もすべて失った。
ベン・バーナンキの説。米準備銀が大間違いをやらかしたのが、大恐慌の真因であったと。金利を引き下げて金融緩和のマネタリー政策を打ち出さねばいけなかったときに、真逆の、金融ひきしめ政策を打ち出し、公定歩合を上げてしまったから、1930年代のグレートディプレッションになったのだとする。

世界の終末に読む軍事学