Francis P. Sempa 記者による2025-4-10記事「The Importance of Elbridge Colby」。
米上院は54対45の投票でエルブリッヂ・コルビーを国防次官(政策担当)として承認した。この地位はDoD内のナンバー3である。
コルビーは第一次トランプ政権当時の2018に「国家防衛戦略」を書き上げた。米軍を海外の小紛争に派遣していてはいけない。対強敵に集中せよ、と説いていた。なぜなら米国の相対的な「余裕」はもうなくなりつつあるから。
近年ではその集中の対象は、中共のみであると彼は言っている。そのためには米国は中東と欧州からは撤収するべきであると。NATOからは抜けろという話なのだ。
コルビーはその著書『The Strategy of Denial(拒止戦略)』の中で、もし中共がアジア太平洋地域を支配してしまうと、その総合戦力で米国と対抗可能になってしまう。だからそうなる未来を防ぐことに米政府はとっとと全力を傾注せよ、と論じている。
※これはマッキンダー地政学の「ver. 2.0」だといえる。マッキンダーは、ドイツまたはロシアがユーラシアとアフリカを支配すると、次には南米が支配され、そうなったらもはや合衆国は対抗不能になると警告した。コルビーは、冷戦終結でロシアがユーラシアを支配する可能性がなくなったと同時に、太平洋諸国の経済力が欧州を凌ぐようになっているので、いまや、米国を亡ぼせるポテンシャルの重心は西太平洋域に移ったのだと認識する。
コルビーは、インド、日本、比島、韓国、ベトナム、台湾が、米国の指導下に「反専制」連合を組むがよいと主張。
これらの諸国がいまや、欧州諸国や中東諸国よりもずっと米国にとって重要になっているのだと強調している。
コルビーは明瞭には書かないが、コルビーの仲間の米国内の「リアリスト」たちは、今日ではウクライナも中東もアメリカにとってはまったくどうでもよいので、しかし、台湾を中共が征服することだけは許してはいけないと言う。
こういう割り切りは、「大西洋主義者」や「ネオコン」からは非難攻撃されてきた。しかし、コルビーが正しいのである。
総動員できる戦争の資源。そのグローバルな「重心」(クラウゼヴィッツの術語)は、いまや西太平洋に移ったのだ。クラウゼヴィッツは、重心を支配せよ、と言った。
コルビーは、国際主義者や、進歩派を、非難する。そやつらは、米国にはすでにその実力が涸渇しているのに、無闇に手を拡げようとするのだ。戦犯はクリントン政権である。とっくに力が衰えているのに、やたらに支援の約束を他国に与え、格好のよい高級書生論でそれを神聖化してきた。愚か者である。
ウィルソン主義は、畢竟「イデア」であってリアリズムではない。
さりながら、ウィルソンからバイデンまで、民主党の政権は、この夢想主義を追求した。そして共和党のGWブッシュにもそれがあり、そのために自殺的な十字軍を催させて、けっきょく米国民を傷つけた。
ベトナム、イラク、アフガン……もうこんなことを繰り返していてはならない。
コルビーは孤立主義者ではない。米国が世界のどこかに力の真空をつくれば、中共がそこをホイ来たと埋めるだけである。
その力もないのに、外世界の現実を変えようとでしゃばって行く、ウィルソン流が、米国民にとって、有害なのである。
コルビーはマッキンダーをアップデートした。マッキンダーの「ハートランド」は、いまや「インド-パシフィック」のことなのである。
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Claire Elise Thompson 記者による2025-4-9記事「France’s new high-speed train design has Americans asking: Why can’t we have that?」。
フランスは2026年から次世代高速列車「TGV Inoui」をパリ~マルセイユ間に走らせる。空力洗練による20%の省エネルギー。車椅子客も介助なしで乗降できる。
鉄道は、スピードが120マイル/時以上出るならば、それは自動車の2倍以上の速さなので、高速列車と名乗ることができる。それが都市間交通として普及すればするほど、グローバルな二酸化炭素排出が減るのは、誰でもわかるだろう。
米国には鉄道網事業体として「Amtrak」社があり、昨年は旅客3200万人を輸送している。
その主幹線はDCとボストンを結ぶものである。スピードは一貫していないけれども、速い区間では150マイル/時に達する。
だがTGVのように200マイル/時以上で運行する鉄道は米国には存在しない。
この春に走り始める最新鋭列車の「Acela」が、やっと160マイル/時というところだ。これが米国内では最速の鉄道である。
業界では、米政府からのまとまった補助金がなければ、これ以上の投資は無理だ、と言っている。
加州では、LAとシスコの間に2020年に高速鉄道が開業するはずだった。だが事業は遅延している。資金は足りなくなっており、用地買収ができていない。CEOは昨年、連邦政府からの支援が必要だと言った。しかしトランプが大統領となったので、その話はますます非現実的になった。
「Brightline」社は、めずらしい私企業である。
L.A.とベガスのあいだに高速鉄道を敷こうと企画中。
同社は、フロリダで先に成功した。まず「マイアミ~西パームビーチ」線を2018運開。ついで2023に、「マイアミ~オーランド」線も実現させた。時速は125マイル/時。
フロリダではまったく政府に頼らなかった。
しかし西部の高速鉄道プロジェクトは、連邦議会が超党派で公費から30億ドルを融資させたことでスタートした。「インフラ法」という法律をつくって。
「Brightline West」の工事は今年に始まり、2028末にはなんとか走るだろう。じつは2028ロス五輪に間に合わせようという当初の算段だったのだが、それは無理だとハッキリした。
しかし運開すれば、米国初の、時速200マイル超えの高速鉄道となる。
アメリカ人の旅行者が、海外の各所で、高速鉄道に乗る経験が増え、なんでこれが米国内にないのよと騒ぎ出したことが、潮流変化の基礎にある。
空港は大都市のまんなかには位置できないが、高速鉄道ならどこでも乗り入れられる。米国内の空港はセキュリティ・チェックが異常に厳しくなっており、その行列時間は長い。鉄道駅では、それもない。利便性は歴然としているのだ。
イタリアなどでは特に痛感できようが、飛行機の小さい窓からは、A空港からB空港まで移動中の「観光」は無理である。しかし列車であれば、A駅からB駅までの移動中が、すべて「観光」の時間になるのだ。
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Edward Fishman, Gautam Jain, and Richard Nephew 記者による2025-4-8記事「How Trump Could Dethrone the Dollar」。
世界各国政府の、「外貨準備」の機軸通貨として、米ドルが、英ポンドにとってかわったのは、1920年代のなかばであった。
WWII末期のブレトン・ウッズ会議で、それは公然と確定した。
この会議において、IMFと、世銀の、ふたつの機関が創設される。
そして列国の通貨は、米ドルにペッグされることに決まった。その米ドルは、いつでもGoldに固定兌換率で変えられるのだ。
このGold兌換を「や~めた」と言ってやめさせてしまったのが、1971のリチャード・ニクソン大統領であった。
しかしSWIFTで決済されている通貨は、今日、米ドルが50%である。変動相場制になっても、米ドルは頼られてきた。
国際貿易のインヴォイスの54%は、米ドルがいくらかで表記されている。じっさいには世界の貿易の10%にしか、米国は関係していないのだが。
米国のエクィティ・マーケットは世界最大で、2024末だと63兆ドルという規模。それは世界ぜんたいの半分に近い。
おかげで米政府は、国債を発行するのが楽である。米国は全世界の国債の四分の一以上を発行している。その総額は28兆ドル。毎日、9000億ドルの米国国債が、オープンな市場で売買されている。
中共が発行する「人民元」は、透明性と市場流動性がない。だから、各国の「外貨準備」として、米ドルにとってかわることができない。いつまでも。
人民元の外貨為替交換率は、中共政府によって操作されている。
外資がたとえば中共の地方自治体債を買おうとしても、北京中央によってそれは阻止される。外国人は、自由に投資できないのである。つまり中共にかかわると、流動性がなくなってしまう。
だから、2022にロシアを経済制裁から救うためにCIPSという国際決済システムを北京は創設してやったが、SWIFTのボリュームの0.2%しか、CIPSは吸引できていない。いまだに。
ユーロは米ドルに次ぐ、準備通貨である。しかしドイツが〔インフレを極度に嫌う主義から〕国債をあんまり発行しないものだから、米ドルの地位を奪うことはできそうにない。
そもそも、ロシアが攻撃してくれば、欧州政府が発行した債権は無価値化してしまうかもしれないのである。それらの政府が亡びるので。
BRICSは、ユーロよりも弱い。国内外にバラバラな難問を抱えた諸国の寄せ集まりにすぎず、共通の通貨も発行できない段階なのである。
ビットコイン=クリプトカレンシーは、価値の裏付けが弱い。どこかの政府が担保してくれているわけではないので。また、交換価値がなかなか安定しないことも、見ての通りだ。透明性もない。
Goldは、どこかの政府が供給量を自由に増減できない。そこが弱点。
トランプのやっていることのおかげで、諸外国にとり、米国はもはや、将来が信用できる取引相手ではなくなった。となると、ドルの需要は、外国人にとっては、減る。だから、ドルの価値も下がる。
また、ロシアに味方してウクライナをいたぶる政策、NATOのアーティクル5の信頼性をゆるがす発言等により、これまで米国の同盟者たちだった国々は、爾後、米国政府の約束を信用しなくなった。
これまで、ドルの価値は、米国は「法の支配」を重んずる、という評判が支えてきた。その評価はくつがえった。米国は一夜にして法律を破り、他国との約束も、弊履の如くに棄てる。だったら誰がこれから、あたらしく米国と条約を結ぼうとしたり、約束を与えるんだ? 意味がないだろう。
米政府の赤字は、いまはGDPの100%だが、2050年にはGDPの150%になるだろうという。
もし連邦議会が、歳出を削減することなく、減税を進めるなら、将来の利子払いが重くのしかかり、財政はとみに不自由になって、経済成長が鈍ることは確実なので、外国人からみて米国の国債や株式には魅力がなくなる。
「マラゴ協定」が狙っていると噂される大トリック。外国人が持っている米国国債を、100年償還期間の、利子ゼロの新債券に、強制的に交換してしまうのだという。
※敗戦直後の《旧円の預金封鎖》と同じことをやんのかよ! すげえ。
まあ、それを実行したら、もう諸外国は、米国を「デフォルト国家」として扱うだけだろう。取引相手としての米国の信用は、ゼロになるのだ。
世界経済を支配したかつての英国ポンドの、今の凋落。おなじことは、米ドルにもいつか、起きる。
次。
Dmytro Shumlianskyi 記者による2025-4-12記事「Unmanned Systems Forces have formed a unit to shoot down attack drones」。
ウクライナ軍の、無人システム軍の中に、対ドローン迎撃部隊が、新編された。
※これと、同部隊の長が左遷されたゼレンスキー人事とは、関係があるような気がする。

世界の終末に読む軍事学