ロシアのインフレは抑えられていない。年率10%で推移。政府の軍事財政支出が元凶なので、21%の公定歩合も量的引き締めを結果しない。

 Lucas de Gamboa 記者による2025-7-31記事「The Limits of Russian Influence」。
  多くの企業と個人が、ロシアの銀行から借りた金を返せなくなっている。金利が高すぎるため。
   ※そこで、この個人債務をチャラにしてやるからロシア軍に入れ、というキャンペーンが進展中。

 マキシム・レシェトニコフ経済相の警告の真意。このままだと、銀行セクターの債務危機が浮上する。信用収縮が発生するカタストロフが近い。

 兵役が高賃金なので、民間から労働力が奪われている。制裁とルーブル安で、輸入品はますます高価に。

 この内実でGDPだけ成長しても、人々はますます苦しくなるばかりである。

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 Howard Altman 記者による2025-7-31記事「Russia’s Jet Powered Shahed Kamikaze Drone Is A Big Problem For Ukraine」。
  露軍が、最近の対都市空襲に投入した300機を越える片道特攻ドローンの中に、8機の、ジェット・エンジン搭載の新型シャヘドが含まれていた。ウクライナ空軍発表。

 これは、「イスカンデル-K」巡航ミサイルとは別である。しかしレーダーには、同じように映る。飛翔速度は500km/時くらいだろう。

 ロシアが使ったのは、イランが2024-11に公表している「Shahed-238」で間違いない。
 2023-4の資料によれば、レンジは620~1240マイルで、巡航高度6マイル。弾頭重量は50kg。エンジンはターボ・ジェットで、理論上の最高速度は600km/時。

 このくらいのスピードだと、インターセプター用の「砲弾型クォッドコプター」では、もう対応ができぬ。

 おそらく、8機の「シャヘド238」は、ウクライナにはこれらを迎撃する手段としては高額なSAMの発射以外、何もないことを、確認するための、探りの実験であった。

 ロシア国内では、ジェット型シャヘドの量産は、しかし、簡単な話ではない。いま、プロペラ駆動型のシャヘドを月産2000機、量産していて、計画では、それを5000機にしようとしているところ。おそらくジェット・エンジンは中国から完成品を輸入するしかない。

 無人機が高速化すると、機体は頑丈にしなければならず、飛行制御のためのメカトロニクスも、高精度にしないと、そもそもまともに飛んでくれない。機体は、プロペラ型の流用では、ダメなのだ。

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 ブルームバーグ・ニュースの2025-7-29記事「Xi Ties His Legacy and China’s Economy to $167 Billion Dam」。
   フーバー・ダムの16倍量のセメント、エンパイア・ステート・ビルの116倍量の鉄骨鉄筋、そして地球を5周する2車線舗装道路にも匹敵するコンクリート量を投じて、中共はチベットに巨大水力ダムを建設する。工費は1670億ドル。
 工事は7月から始まった。

 この水系は「雅魯蔵布江」(ヤルンツァンポ川・Yarlung Tsangpo river)という。チベット高原を西から東へ長々と横断したあと、さいごは中共側へではなくインド側へ下って行き、そこではブラマプトラ川と呼ばれ、さらにガンジス水系に合流してインド洋に注ぐ。

 ダム湖は巨大だが、灌漑用ではなくて発電だけなので、水はトンネル経由で大落差をタービンまで導かれたあと、再び下流にて本来の川筋に戻される。したがって発電所より下流の地域が渇水の迷惑を蒙ることにはならない。

 懸念されるのは大地震。1950年にマグニチュード8.6の「アッサム=チベット地震」が起きたことがある。それは今回の工事現場から153マイル離れたところが震源だった。

 中共は「三峡ダム」に370億ドルを投じた過去がある。1990年代、この工事が失業を吸収し、過剰工業資材(鉄鋼、セメント、銅など)の捌け口になってくれた。このダムは、いま現在、世界最大の発電所のエネルギー源でもある。

 このたびのチベット・ダムの大事業は、2021の五ヵ年計画で決まった。
 環境アセスメントやパブリック・コメントが密室内から出ることはなく、詳細計画は2024-12に承認された。

 チベット・ダムには、5000万トンのセメント、600万トンの鉄鋼、2億5000万トンの砂利、50万トンの銅、数十万トンの発破薬が投入される筈。
 三峡ダムには3000万立米のコンクリートが使われた。チベット・ダムには1億5000万立米のコンクリートが使われるだろう。

 今回の事業には、10年から15年にわたり、3兆元が投資されるはず。それは2024年度の中国GDPの2.2%相当額だ。
 それによって、GDP成長率は、0.1%から0.2%くらいは、増えるだろうという試算あり。

 別な試算では、この事業で20万人の雇用が生まれる。それは、政府が掲げる新規雇用創出目標の2%弱である。

 工事事務所は Medog という寒村に置かれるかもしれない。そこは2013年まで、自動車道路が通じていなかった山間僻地である。いまや、そこに新空港もできるのではないかと噂される。ブーム・タウンだ。

 中国の証券市場では、工事が本決まりとなったことで、建設銘柄が爆上がりしている。

 バングラデシュやインドは、豪雨の直後に中共がこの巨大ダムから放水をしただけで、下流の村に大被害が出るのではないかと心配している。
 チベット・ダムは、70ギガワットを発電するであろう。年間、300テラワットである。これは、英国1国が1年間に消費する電力に匹敵する。

 現状、中共の発電はその半分以上が石炭火力。チベット・ダムのおかげで、石炭火力への依存は減らせるだろう。習近平は2060までにゼロ・エミッションにすると公約している。
 習の父は、チベット担当の党要職に就いていたことがある。
 また、ソ連邦は民族自立志向のために分解したという因果関係を、中共は、他山の石としている。チベットは今からもっと締め付ける必要があるのだ。

 国営の「China Yajiang Group」が創設された。この企業体が、建設事業も、完工後の運営も統括する。