欧州諸国軍の高射部隊がちょくせつにウクライナ西部に展開して、そのあたりを「ノー・フライ・ゾーン」にするという構想が今、話し合われているという。

 Jennifer Kavanagh 記者による2025-9-30記事「Russia likely laughing off Trump’s ‘open door’ to Tomahawks」。
  ロシアに対して、トマホークの「口だけ」脅しなど、効かない。トランプ政権のいつもの宣伝は、ロシアから嗤われている。

 トランプ政権がおそらく理解すらできていないこと。
 トマホークは、それを発射するための、たいへんに複雑で高額な「システム」を、一体の使用環境として欠かすことができない。
 今回米国は、欧州がトマホーク・ミサイルを買って、それをウクライナに渡せばいいという。だが、「システム」抜きなら、そのミサイルを、ウクライナ人は、発射することすらできやしないのである。
 では欧州は「システム」も買ってウクライナに渡せるのか? できるわけがない。それはとてつもない超高額であり、しかも、NATOの秘密がギッシリ入っているからだ。

 とうしろうのゼレンスキー大統領は、前々から、トマホーク・ミサイルを要請し続けている。
 彼は軍事のとうしろうだから、それは無理はないとして、トランプ大統領がこの要請を真剣に検討したのには、世界は驚くべきだ。

 プーチンは、ウクライナがトマホーク・ミサイルを得るという話は空想的で、軍事的現実から切り離されていると、はっきりと理解している。
 現状、トマホーク・ミサイルは、イージス型駆逐艦、米国の攻撃型原潜、米国のそれ専用のミサイル原潜、「タイフォン」という地上発射装置のどれかから、発射できる。ウクライナはこれらの能力を何一つ持っておらず、それを得るための障壁はバカ高い。

 まともな海軍をもっていないウクライナに、イージス艦の保有は無理である。
 「タイフォン」大隊は米軍にまだ2個しかない。1個はアジアに貼り付けられる。1個はドイツに展開するともいう。米軍にすら、足りない。そのうえ、とにかく最新式なので、ウクライナに売れるわけがない。

 トマホークは、米国内の工場で、1発を製造するのに2年かかっている。年産数は200発に届くかとどかないかというレベル。無駄に他国に提供できない。米国の総備蓄量は4000発以下と推定されている。これを米政府は紅海において、フーシ派に対する無効な政治ショーで数百発も無駄にさせてしまった。ペンタゴンは今はこのミサイルを節約したくてたまらない。

 アメリカ合衆国はこれまで、オーストラリア、英国、デンマーク、日本といった緊密な同盟国にのみそのミサイルを販売してきた。現時点では、イスラエルでさえトマホークの購入は許されていない。最新バージョンの残骸がロシアの手に渡るリスクを、米国は冒さないであろう。

 ※9月29日に米海軍は『USSオハイオ(SSGN-726)』をスビック湾でメディアに公開した。154発のトマホークをつるべ射ちできる専用原潜。

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 Virginia Allen 記者による2025-9-29記事「China’s Motivation to Keep the Russia-Ukraine War Going」。
  ポーランドのシコルスキ外相は、「この戦争で実際に停戦を強制できるのは中国だけだ」と考えている。
 しかし中国の方には、そんなことをする理由がまったくない。

 デイビッド・ペトラウスは、シコルスキと違って、北京には何も期待せず、代わりにもっと実効的な提案をしている。それを、欧州が採用しそうであるという。

 すなわち、欧州連合(EU)が欧州の銀行に保有している約2500億ドル相当のロシア準備金を、債券に換える。この債権を原資として、ウクライナは戦費を借りる。ロシアがウクライナに賠償金を支払うまで、ウクライナはそのカネを返還しなくていい。そういう制度。

 このカネで、インターセプター・ドローンを量産すれば、ウクライナは都市に対する連夜の「シャヘド」空襲を今後も凌いでいける。
 他方で西側が、ロシアから石油とガスを一滴も輸入しなくなれば、ロシアは金欠となり、ロシア軍が仕掛ける空襲の規模は逐次に縮小されて行く。

 ロシア政府の軍事予算要求はこのほど、はじめて、前年度より縮小されている。

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 Vladislav V. 記者による2025-9-29記事「Swedish Politicians Talking About Creating Own Nuclear Weapons」。
 「スウェーデン民主党」の党首ジミー・アケソンは、今年の3月、同国が核武装をオプションとして検討しなくてはならないと意見表明した。

 「キリスト教民主党」の内部からもその賛同者が出ている。

 ポーランドのトゥスク首相も、ポーランドが自国の核兵器開発を検討する可能性を示唆している。

 スウェーデンには原発が6個所ある。総発電量の三分の一近くが原発。ただし過去40年、原子炉の新設はしてない。
 1950年代、同国は極秘裏に、61トンの爆薬でインプロージョン・テストを実行するところまで、原爆開発を進めていた。
 米国がこれに気付き、そのプロジェクトを止めさせた。代わりになんらかの秘密保障を与えたのだと考えられている。

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 昨日、「資料庫」にUpしたインド鉄道プロジェクトの報告者・ステフェンソンとはどういう人なのか。
   ウィキ等によると、インドに鉄道を敷いた男。それまで、インドに鉄道は皆無だった。それが、ペリーが浦賀に来る少し前までのアジアの陸上交通の風景だった。

 生まれは、銀行家・兼・政治家の長男。
 ハローで教育は受けたが、父が破産し米国に逃亡。ステフェンソンは鉄道技師になることにした。

 東インド鉄道会社の経営社長となり、妻子、および弟とともに1849にインドに渡り、ただちにカルカッタから鉄道を敷き始めた。
 1856に叙爵されているから、大成功した人生といえる。

 彼は、1959と1964に清国でも鉄道を敷こうとしたが、清国政府に拒絶された。九龍~広東と、香港。(この報告書もPDFで手に入る。)

 ステフェンソンが書いた、鉄道に関する報告書は、多数ある。

 インドでは6本の線を開業させた。
 1855年に最初の121マイルが開業した。カルカッタ~デリー。
 ボムベイへつながる支線。
 ハイデラバードやマドラスにもつなげた。バンガロール、カリカットへも。

 ステフェンソンはインド人のための鉄道技師学校を始めてつくってやった。カルカッタに。

 1856に身心疲弊しロンドンへ。そこで医者から、二度とインドに戻ってはダメだと警告されて、戻れなくなった。

 マドラス鉄道は、インド南部の鉄道会社である。
 1856にマドラスと、東西海岸を結びつけた。

 大量物資、大量人間を、比較にならぬスピードで、長距離運搬した。
 鉄路を建設するにあたっては、インド政府に配当を約束した。4%以上。

 ちなみに、マドラスは東海岸にある。セイロン島の上。ムンバイは西海岸にある。カルカッタはベンガル湾に面している。はるか北。デリーはネパールやパキスタンに近い、超奥地。北方。

 この人には、鉄道技術の《基礎の基礎》を門外漢に解説してくれる、丁寧な入門書がある。『The Science Of Railway Construction』(1869)。これもミシガン大学図書館からPDFでダウンロードできる。わたしは英文のままナナメ読みしたが、絵入りで、ためになった。これが、日本が開国する前の最先端の知見だったのだ。ということは、この文献を明治前半期の多くの日本の鉄道テクノクラートも、読んだのではあるまいか? しかしこのたび、インド鉄道の報告書の方を優先して全訳してもらったのは、わけがある。おそらく「満鉄」の初期のプランナーたちは、インドの鉄道事業から、すべてを学ぼうとしたに違いないのだ。文献の中に、ヒントがあるかもしれない。