「新々・読書余論」――『達人釣り師がきわめたフライ・フィッシング術伝授』(1825年刊、Robert Venables著)

 オンラインで読めるようになっている本邦未訳の珍古書を、摘録をまじえて恣意的に短くご紹介する「ちんこハンター」第三弾です。
 AIを使った下準備の全文訳を、上方の篤志機械翻訳助手さまにお願いしました。
 テキストを公開してくださっている「プロジェクト・グーテンベルグ」さまはじめ、各位に御礼を申し上げます。

 原題は、『The Experienced Angler; or Angling Improved』です。
 注目点は、英本土の内水における当時の擬似餌針フィッシングでしょうか。生き餌釣りのコツは、数百年ではあまり変わらないでしょうからね。

 原著者のヴェナブルズ大佐(一時は将官)は、1654年の対スペインの遠征において、武運に見放されてしまった人のようで、あまり詳しい事歴が伝わっていません。しかし彼が1662年に印刷して販売した貴重なテキストを、後世の釣り界の権威アイザック・ウォルトンがめざとく発掘し、編纂・出版させました。
 つまり、17世紀時点での最先端の釣りのテクニックが、19世紀に改めて斯界に共有されたらしい。

 古諺にいわく。「趣味については争うべからず」。
 原著者いわく。鷹狩りと狩猟にくらべて、釣りの趣味は、なんだか貧乏くさいと思われている。
 だが釣りは、無害であって、誰でもすぐにできるし、他者とは争わないのだ。
 釣り糸を垂れて何も釣れずとも、川辺の散策は面白く、感覚はよろこびに満たされるであろう。

 釣りの門外漢に必要なのは、率直に技術を伝授してくれる、正直で熟練した釣り人である。それが私だ。

 人造ハエ(疑似餌針)を使う場合、それを絶えず水面で動かせ。特に暗い日、水が濁り、風が吹いているとき。
 雨で濁った川で釣るなら、普通より大きな体の疑似餌にしなくてはいけない。さもないと水中の魚が、見つけてくれない。
 擬似フライは、その色の目立ち度(明るさ)を三段階、違えたものを、あらかじめ用意して行くべきである。

 水が透明なら、小さな体の細い翼のハエ。
 暗い天気および暗い水では、ハエも暗く。

 羽虫模型の腹の色が重要である。魚が最も見るのはそこだから。
 擬似餌針で釣る時、糸は竿の長さの2倍でよい。

 投げたとき、フライが糸よりも先に水に落ちるようにせよ。糸が先に落ちてしまうと、それが魚を驚かせる。そのさいには、引き戻し、再び投げたまえ。

 旱魃で大地が乾燥し、川の流れが普段よりはるかに弱い時、釣りを試みても無駄である。

 羊飼いや農民が羊を洗う時、その洗いはじめには、魚が非常によく釣り餌を食う。羊から落ちる汚れが、撒き餌のように魚を引き寄せると考えられる。

 どんな魚も産卵後、強さと食欲が回復するまで、ほぼ何も食わない。

 夏の真っ只中でも、雨雲が近づくや、魚は食わなくなる。魚は人よりも早く、突如、嵐の接近を覚り、安全を求めて隠れる。

 突然の激しい雨で川が少し濁り、水位が上がったとき、その雨中または直後に、赤虫の生き餌で、よく釣れる。

 絹糸に靴屋の蝋を塗ると、喰いつきがよくなる。

 魚や魚卵を食ってしまう獣や鳥はすべて射殺するとよい。特にカワウソ。
 もっと憎むべきは、網を使う密漁者である。

 最初に釣った魚の腹をナイフで解剖し、慎重に、消化管内を検分し、今日は何を喰っているのかを見極めるべし。たとえば、水面の羽虫を食べているのか、それとも水底の川虫を食べているのかが、分かるから、続く釣り餌の選択で、無駄をやることはなくなる。

 太陽や月は、正面に置け。さすればあなたの振り回すロッドの影で、魚が驚くことはないだろう。

 マス釣りでは一箇所で4回キャストして駄目なら、河岸を変えな。

 ペーストには、亜麻、綿、羊毛などの繊維を加えて練っておけば、針から脱落しにくくなる。

 あなたが苦労をして釣った魚でも、病者や貧しい者がそこにいたならば、喜んで配分してやれ。
 娯楽を職業にしてはならない。過度な愛が、自他ともに不愉快にしてしまうのがオチであろう。

《完》