これも紹介すべき本なので紹介します。以下、その内容メモ。(内容メモというのは、「ここには翌日忘れてしまうには惜しい情報が含まれている」と兵頭が思った箇所です。「あらすじ紹介」じゃありませんので、興味をもった人は一冊読まないと損でしょう。)
▼川島レイ著『上がれ! 空き缶衛星』04-6
1993から衛星設計コンテストを、九州大学の八坂哲雄や中須賀真一が立ち上げていた。
99年時点で米はナノ・サットよりもっと小さいピコ・サットを大学主導で開発するという話が進む。
トィッグス教授いわく、計画して、実行して、解析するまでの一連のプロジェクトのサイクルを学生に経験させるのが、完全な宇宙工学教育である。
米ではアマチュアが高度4000mまでロケットを上げてよい。そこから物体を放出するとパラシュートで20分後に回収できる。ネバダ砂漠で年に数回の打ち上げ大会あり。ロケットじたい、回収利用するためパラ降下させるタイプも。径16センチ、全長3メートル。※それは空対空ミサイルのサイズではないか?
東大1号機案は350ミリリットル缶に太陽電池パネルを張り、缶は自転させる。
p.115 「こういうメカニズムを使いたいから、こういうミッションにしてみる」と考えるのが東工大で、「こういうミッションをしたいが、どんなメカニズムがいいだろう」と考えるのが東大。※公平な評と思う。日本のミリヲタはここで謂われる東工大生タイプが多いために抑止論・戦略論は遅々として深化をして参らぬのである。
プロジェクトにおいて何をもって成功とするかは事前に討究し、数段階の「サクセス・レベル」を設定しておかねば無意義である。たとえば「ミニマム・サクセス」「ミッション・サクセス」「フル・サクセス」等がある。
フライト・モデルの前にエンジニアリグ・モデルがある。電気や構造の妥当性を基本設計段階で検討できるもの。
睡眠不足と疲労で爪が紫色になってもまだ大丈夫。黒くなったらちょっと危ない。
カン・サット計画は2003で5回目となり、参加大学には東北大、九州大、日大、創価大もくわわった。操縦可能なパラフォイルで回収地点まで降下を指令誘導できるようにもなった。
米ではカン・サットはじっさいに軌道に乗せられている。
次にトィッグスが「キューブ・サット」を提案し、これも東大と東工大製の10センチ角サイコロがオービットした。そこから送られるCCD画像はアマチュア無線局で受信できる。
▼以下、兵頭のコメントです。先日ご紹介した『暗黒水域』と読み比べると分かると思いますが、一般人にとって無味乾燥な技術の話を「よみもの」にまとめるためには、機械ではなく人間にドラマを演じてもらわないといけません。米国のプロフェッショナルのリライターは、まあ手垢がついたような方法論なんですけれども、確立されたこの方法論を遵守して、面白い構成にしてみせてくれます。ずっと前に兵頭が書いていた武器の本も、焦点が当たっているのは人間です。たとえば『日本海軍の爆弾』だって爆弾のカタログ本じゃありません(構成はもろ、カタログですが、日本のミリタリー書籍市場にはその方が訴求する故です)。
あの本は、大西瀧次郎という「日本海軍の爆弾男」の頭の中を想像してみた試みなのです。格好をつけまして自制をしてしまい、そこをサブタイトルで敢えて強調しなかったことは、著者として今さらですが、後悔をしております。