同胞不信が核武装を躊躇させる

 クリントン政権時代の米国の対日政策が「敵対的だ」と思わなかった日本人は阿呆ですよ。江藤淳は最悪の時代に死んだのです。
 では当時のクリントン政権からの要求を日本の大蔵省がピシャリと撥ねつけ、ドルは買い支えないよ」と表明し、米国債を常識的な水準まで放出していたら、どうなったでしょうか。別に核ミサイルが飛んでくるわけでもないし、相模湾に海兵隊が上陸してくるわけでもなかったでしょう。
 貿易上のイヤガラセを受けて日本の景気は悪くなったかもしれません。いや、確実にそうなったでしょう。為替相場も混乱したでしょう。しかし為替が変わって損する者もいれば、得する者もいる。損得があわないのは、日本側が官僚統制経済=不自由経済だからです。
 そしてどうです、クリントン政権の言うなりになっても、やはりバブルははじけて、いまだに毎年何万人も自殺しているわけです。
 おそらく日本にピシャリとたしなめられた米国は、自力で双子の赤字を克服できたはずです。彼等にもそのくらいの危機意識と指導力くらいありますよ。
 当時、米国の票めあての無体な要求は聞くべきではない、と考えた日本の役人や政治家はいたんでしょうが、パワー・エリートがキャリアの初期においてあまりにも深く米国にとりこまれておりますために、こういうときに日本側は「一枚岩」になれないのです。「義」を通せない。同僚に足をひっぱられるかなと思って黙ってしまう。すなわち彼等には「勇」が無い。
 これで米国も腐敗をすることになります。悪友がカネを出してくれるから、真人間に戻り難いのです。そして世界第一と第二の大国がこういう不健全経済を領導していくと、世界経済にも良いことなどありません。日本のパワー・エリートに義や勇が無ければ、日本は世界を悪くするのです。それは、日本が大国だからです。
 ところで、日本が輸入している原油の1日分は、大型タンカー2隻分だといいます。
 このうち農林水産業のためだけに使われるのは6%強らしいですが、じつは、ただでさえ低い日本の食糧自給率も、この内外の石油流通がストップしないことが、大前提条件になっているんですね。したがいまして有事には一瞬ですがほぼゼロになるでしょう。
 農水省は、原油が確保できていたとしても、日本の今の農地面積だけで収穫できる食糧は、国民1人あたり2000カロリーにしかならない、と10年くらい前に試算しています。餓死者は出ないが、重労働も無理で、肥満者は一人もいなくなるという感じでしょうか。人口が半分になれば4000カロリーですから、肥満者復活ですね。そうなる時代は遠くなさそうです。
 ある先生がどこかでこんなことをお書きになっていました。──自由貿易の建前ありと雖も、どこの国でも有事を考慮して自給レベルを遥かに上回る農産物を自国農民に補助金を出して生産させているのだ。そして平時はそれを補助金をつけて他国に売りさばかせることによって「バッファー」にしているのだ──と。これをやっていない日本や韓国のような国は、自分で自分の立場、交渉力を弱くしているわけです。円がドルよりも脆いのも、パワー・エリートがこんな基本にも気付かないというところが他国のエリートからはマイナス評価されているのです。
 最近まだこんなことを言う人がいるので驚きました。「マラッカ海峡や台湾海峡でテロや戦争があったら日本は石油を輸入できない。だから、それらの地域で紛争を起させてはならない」と。
 ……オイオイ、おまえがどう頑張ったって戦争が起きるときには起きるんじゃねえの? 中東や旧ソ連邦の騒ぎをアンタが止められるのかよ。
 航空機にとって距離の長短は依然シビアですが、タンカーは地球の裏側を廻ったって日本に来ようと思えばどこからでも来られます(パナマ運河の幅の規制はある)。「高う買いまっさ。船員さんにもこのとおり成功報酬を用意しとりますけん」と札束を積んでアナウンスすれば、日本がシナと核戦争のただなかにあったって、勝手に向こうからお届けしてくれますよ。そんなときのためにドルをしこたま溜め込んでるんじゃないのですか。
 日本が外国に対して「一枚岩」で総合安全保障にかかわるイシューの交渉ができるようになるためには、役人の不義、役人の怯懦、役人の対外国通牒行為、役人同士の足の引っ張り合いを、許してはなりません。
 そのためにはどうすれば良いかというと、これは簡単で、首相が、何の理由もなくともいつでも即座に高級官僚どもを好きなだけクビにできるように、公務員法を改めることしかない。
 戦後も60年になり、高級公務員の皆さんは ちゃんと手前たちの組織で再就職利権を創出し、確保をしております。55歳で肩たたきですからね。いまや彼ら高級役人に身分や地位の保護の必要などないのです。
 腐れ役人や役人出身の政治家が、誰にも足を引っ張られないよう八方美人をしようとしてシナに擦り寄ったりするから、IAEA(即ち米国)が、日本の「主義」を疑うことにもなるのです。