官僚の宗教無知を悟れぬ麻生氏はシナに勝てないだろう

 今朝のウェブ版の「東京新聞」記事(共同)と「毎日新聞」記事を拝見したところでは、次の次の首相になりたいと焦り始めた麻生太郎外務大臣は、靖国神社の将来に関し、下記のような軽忽なブレーンのアドバイスを、自分の政策としてぶち上げることに同意してしまったらしい。
一、靖国神社は東京都が認可した宗教法人格を自主的に返上し、解散し、財団法人となるべし。
二、その後、設置法を制定し、特殊法人「国立追悼施設靖国社(招魂社)」とし、国営化する。
三、慰霊対象は、設置法を論じる国会が決める。A級は分祀する。
四、外国首脳も参拝させる。
 兵頭は、麻生氏のブレーンが誰なのかは、いっこう存じません。しかし現役外相なんだから、省内の幹部官僚諸士からは恒常的にアドバイスを受ける立場にあると思うんですが……。
 もしこれを麻生氏が8日の記者会見で発表したら、外務省がアーリントン国立墓地などの西洋の「無名戦士の墓」の性格について、基礎的な理解ができていないことが、天下に曝されるように思われ、まことに心配です。
 百遍でも言いましょう。
 「追悼施設」に外国元首がお参りする義理は、ありません。
 諸国の元首が、他国の「無名戦士の墓」を表敬するのは、それが愛国者の顕彰施設であるために、ぞれぞれ国軍を率いている最高司令官として、相互に儀礼を交換するのが、フェアで高貴な騎士的態度となるわけです。
 これは価値中立の行為です。政治的に何の色もつきません。仏教徒もコミュニストも、愛国者としての表敬行為の時のみは騎士たり得る。しかし、売国官僚に堕して久しい日本の外交官諸君には、この根本は分からないようです。
 たとえばベトナム国にアメリカ大統領が公式訪問したとします。アメリカ大統領は、現ベトナム政権が管理する無名戦士の墓を表敬する義務が、典儀常識上、あるのです。しかし、「ベトナム国営・戦争追悼施設」の類には、アメリカ大統領は立ち寄る義務はないのです。
 なぜなら、「ベトナム国営・戦争追悼施設」に、過去の戦争でベトナム人を殺しているアメリカ国の現大統領がお参りすれば、あたかも過去の自国の戦争行為について誤りを認め、相手国に謝罪したように、見える。
 これはアメリカ合衆国の国益を長期広範に破壊する国家叛逆行為となり得るのです。
 戦争追悼施設への外国元首の参拝は、政治的に価値中立の行為ではあり得ないのです。
 したがって「麻生外相式特殊法人:ヤスクニジンジャ」が出来たとして、アメリカ合衆国元首も、また中華人民共和国元首も、そこを訪れることはあり得ません。
 これが分からぬ外務省のお歴々に箆棒な生涯インカムを与え続けている日本の有権者はそろそろ怒りましょう。
 靖国神社には「理念型」が2つ、考えられます。
 ひとつは「明治天皇が定めていた通りに、永久に引き継いでいくべきである」。
 ひとつは「東京招魂社が靖国神社と改められたときの精神を、時代の流れを考えて延長させるべきである」。
 昭和天皇は、当然、前者の見解でした。近代国家元首の三代目として、昭和天皇の基準は明治天皇しかないのです。
 明治の靖国神社の主役は、あくまで天皇と戦死者の魂であって、ギャラリーは黙って見ていなくてはなりません。
 それを、昭和敗戦後の遺族たちと一部宮司は、すっかり「遺族のための追悼施設」に捻じ曲げてしまいました。明治の靖国神社の「戦死者鎮魂&戦争勝利祈願所」としての性格は、戦後に破壊されました。
 「2ちゃん」バカ右翼には、これが分からず、遺族会=自民党の戦後票とり宣伝戦術に、他愛も無く洗脳されているわけです。神社は寺ではありません。
 遺族会が年金欲しさに盛り上げ、また政治家が票欲しさに便乗してきた8・15イベントは、明治期にはもちろん存在しません。
 毎年、戦敗記念日を盛り上げることを、神社を創った明治天皇や、神社に祀られている明治の戦死者が、嘉[よみ]するわけがないでしょう! それをこれからずっと続けるというのか? ふざけるな! 不愉快だから境内の外でやれ(昭和35年以前の宮司はこの考えだったと想像される)。
 また、明治天皇の遺制では、霊璽簿は天皇の裁可を経なければ正式ではない。ところが宮司と厚生省(旧軍)は、その遺制も破壊しました。晩年の昭和天皇にとって、靖国神社は、もはや「エセ靖国神社」に堕していたのです。そこに関わることは、明治天皇の遺志を継ぐことには反するようになったのです。
 後者の見解は、近代国民国家の国民モラールのためには「無名戦士の墓」は当然に必要になるんだということです。
 日本は第一次世界大戦で陸兵を欧州に派遣しませんでした。そこで列強のように何万人もの戦場行方不明者を出すという体験をしませんでしたので、招魂社(長州藩士のみを祀る)から靖国神社(日本国のために死んだ兵士を差別なく祀る)に改めたのに次ぐ、第三の必然的な改革が、先送りされてしまったのです。
 第三の改革とは、要するに靖国神社の「霊璽簿」の廃止(=「無名戦士の墓」化)です。
 霊璽簿方式は、近代国民国家のウォー・シュライン(これは蔑称ではなく聖称です。アーリントンの無名戦士の墓も、れっきとしたウォー・シュラインです)とは相容れません。
 霊璽簿には、入れるべき人が入らず、入れるべきでない人が入るという不都合が、年月とともに蓄積される一方だからです。
 アーリントンの無名戦士の墓にケネディ大統領が祀られている──という人がいますが、大きな誤解です。
 「国立アーリントン墓地」と、アーリントンの「無名戦士の墓」は、結界され、区別されています。「無名戦士の墓」には衛兵も立ちます。ケネディ大統領の墓は、墓地の方にあり、そこに衛兵はいません。
 その国立墓地の墓籍簿は米国政府によって管理されています。つまり靖国の霊璽簿と同じものです。
 各国元首が表敬するのは、特定の旧敵国人または友邦国人が埋葬されているアーリントンの墓地ではなく、価値中立の無名戦士の墓の方です。
 無名戦士の墓には、墓籍簿(=霊璽簿)はありません。霊璽簿(墓籍簿)があったら、無名戦士の墓ではなく、政治的に価値中立ではなくなり、外国元首が表敬できなくなります。
 いまや靖国神社は、明治天皇の遺志に逆らい、昭和天皇からも見放された一宗教法人なんですから、神社の一存で霊璽簿をなくし、「無名戦士の墓」を用意することだって、できるはずです。
 無名戦士の墓に元戦犯が祀られている等と、その価値中立性にクレームをつけることは、いかなる外国元首にも許されません。(もともとシナには国際儀礼は通用しないので、引き続いて文句をつけてくるだろうが。)
 しかし日本国政府が日本の宗教法人にああしろこうしろと命令することもできません。
 去年、靖国神社の宮司が、「また戦前のように国営にしてほしい」との希望を表明したそうですね。これも想像しますに、靖国神社が組織として膨張しすぎており、数十億という年間経費(それって人件費?)に対する歳入(浄財)が不足し、企業であれば倒産目前になっているので、公的支援(税金投入)か、さもなくば特殊法人化してくれ、ということでしょう。
 税金を払わなくてよい特殊法人の理事には、国が役人OBを天下りさせることができます。(財団法人だと税金をきっちり払うので、天下りを拒否可能。)
 つまり、靖国が官庁の利権化します。外国元首が参拝する施設なら、外務省OBが理事となって天下ってもいいかもしれない。年間数十億の人件費ですよ。これに目をつけるとは、さすが役人ブレーンです。厚労省も指をくわえてはいないでしょう。
 靖国神社が、即刻、霊璽簿を廃止したら、「無名戦士の墓」に相当する施設について、国庫補助を検討しても許されましょう。
 しかし自由主義国家の筋としては、いますぐ、国立の「無名戦士の墓」をどこか別な場所に建立すべきなのです。
 それは防衛省の管轄となります。(米国の場合、退役軍人庁が主管。)
 いままで、近代国家なのにこれが無かったことが異常なのです。
 大正時代に、靖国神社の霊璽簿を廃止すべきだったのですが、それをし損なって、事ここに至ってしまったのです。
 明治の遺制を破壊した靖国神社と昭和遺族は、その自己決定に伴う結果を受け入れねばなりますまい。破産をしたくないなら、経済活動を縮小させたら良いでしょう。赤字を補填するために、境内の一部を、国立の無名戦士の墓のために国に売却してはどうですか。
 なおまた、しつこく念を押しましょう。
 「千鳥が淵戦没者墓苑」は「無名戦士の墓」とはなり得ません。日本人ではない者や、非軍人までが祀られているからです。そのような追悼施設は、外国元首にとって価値中立の施設ではなく、国家表敬の対象たり得ません。