特別掲載・HG対談。

※なぜか「武道通信かわら版」に最新の「HG対談」が掲載されなかったので、こちらに掲載させて戴く。どうせ無料記事だから問題はないだろう。
兵頭 夏休みも終りましたね。このまえある打ち合わせで上京して気付いたんですが、湿度が高いうえに気温が30℃近くなると、人間は首から下の感覚を努めて麻痺させることで、首から上の活動を維持しなければならなくなる。「クールビズ」なんてもうなまぬるいので、いずれ半裸で仕事する日も近いのではないかという気がしました。リーマンが半裸で、ニートが着ぶくれ。そういう逆転が起きる(笑)。
後藤 いや大阪では連日35℃を超えてましたから、30℃ならまだ涼しいですよ(笑)。ところで最近おどろいているのが、灘高を出て東大に行かず、あえて地方大学の医学部を選ぶという子が増えているようなんです。
兵頭 ラク~な勤務医となって、趣味に生きようとでもいうんですかね? たしかに開業医の産科医なんか拝見しますと、ホントに年無休の24時間シフトとしか見えない。あれは、生命誕生に立ち会う体験そのものが<報酬>になっていて、それが先生のモチベーションを支えているのに違いない。皮膚科や眼科や内科なら、もっと休めるようですからね。それと、歯科医はもう逆に、クリニックが余り始めたのではないかと感じます。
後藤 どうもその子たちは、町医者になるつもりのようなんですよ。また東大を出ても役人になろうとしない者が増えているそうです。去年は入省した人数において東大出を非東大出が上回ったという話でしてね。しかし東大が天下国家を語らなくなったら、日本は終わりじゃないですか。
兵頭 まあ、流行りすたりはあるんでしょうなぁ。ちなみにアメリカ軍の強みは、ウェストポイント出ではない将官の方がずっと多いことなんで……。つまり、最良の指導者や指揮官のタマゴは、どこで孵化するのか、分からないのです。
後藤 若いエリートが、さいしょから小賢しく、計算高く、保身の策を講じて行くようでは、日本という土台が崩れます。そしたら、趣味に生きられる環境だって、なくなってしまうはずですよ。
兵頭 そりゃそうですね。ところでわたしはテレビは夕方のニュース以外ほとんど視ない上に、子供にあわせて9時台に早寝しちまうので、完全に世の中の話題から取り残されているのですが、ちょっと前にボクシングが八百長だかヤクザだか何だかでずいぶん盛り上がったそうですね。
後藤 世間では大きな話題ですよ、それ。まあ、すべてを端折ってコメントしたいと思うことが二つあります。一つは、プロは客を呼べる者こそが偉いので、実力だけで勝敗を決めるアマチュア・スポーツとは分けて考える世界だということ。もうひとつは、亀田家の息子たちがぜんいん親孝行であることを、なぜ世間はもっと肯定的に評価できないかということです。
兵頭 後藤さんはたぶん、二十数年以上も前からの業界の裏の事情なんかも、そこらのニワカ評論家さんたち以上に全部ご存知な上でそう仰るのでしょう。確かに、「極道の父親を殴り殺してリングに上ってきました」なんていうヒーローが登場したら日本は終りますわな。
後藤 こんな時代ですからね。僕は、彼が非常に親孝行であるという一事をもって、他はチャラで現時点では良いのではないかと考えています。19歳ですから。問題があっても治る余地は充分にあります。
兵頭 あの試合に関するたくさんの批評を読んでいると、日本の世界チャンピオンはみなニセモノなのかと錯覚してしまいますが……。
後藤 いや、本当に凄く優秀な子は、いてるんですよ。今は、亀田選手以外に5人の世界チャンピオンが日本にいます。でも、名前と顔を世間にいっしょに覚えられている選手はいない。これは日本のボクシング業界の怠慢なんですよ。プロなのですから、強ければ良い、では通用しないのです。強さのみでムーブメントを起こせるのならばともかく、現実には、その強さの証明をする晴れ舞台がなさすぎるわけです。そんな舞台を整えてくれる人達への恩返しは、集客でするしかないでしょう。
兵頭 客が入らなければ興業に利益は出ない。プロだからこそ、実力だけで勝負することは許されんというハナシなわけですね。
後藤 その通りです。そもそも日本では、残念ですがボクシングが人気スポーツであるとは言えなくなってきた。
兵頭 根本は、ヘヴィー級が少ない国民の体格と、格闘文化の違いでしょうか。あと、高度成長を達成した後の、庶民の生活の雰囲気と、どうもマッチしませんな。
後藤 昔は人気、あったんです。娯楽が少なかったから。でも今は、K-1や、総合格闘技がでてきて、ボクシングから受けられる刺激が小さくなったんです。
兵頭 軽いクラスでないと、日本人が世界チャンピオンになりにくそうですよね。それは、柔道以外のすべての競技でそうかもしれませんが。
後藤 体重が軽いと、どうしてもパンチでのKOは少なくなる。観ている方は、KOや一本で勝負がついていくK-1や総合格闘技の方を楽しい、と思うわけです。その点で、最近の柔道はずいぶん面白くなりましたよ。ちょっと進行が遅いと両者が消極的だと見なされて指導が入りますからね。だから動きっぱなし。素人が見ても面白いです。とうとうテレビの良い時間帯に、民放局が放送するようになりました。
兵頭 亀田人気と辰吉人気とは、どう違うんですか?
後藤 ボクシングジムの経営者さんに聞いたところですと、辰吉人気の時には練習生が増えたけど、亀田では増えてない。だから、今起きているのは本物のブームじゃないと言うわけです。
兵頭 サッカーや野球とは、ちょっと勝手が違いましょうからねえ。
後藤 しかしですね、そういう、「ボクシング人気」なんてありえないかもしれない今の日本で、亀田人気が出た。この人気の火を消したら、おそらくボクシング業界全体がまた沈み込むだけですよ。にもかかわらず、業界関係者で亀田批判をしている人間は、非常に大人気なく見えます。不愉快であるなら、黙っているというくらいがマナーだろうと思いますよ。
兵頭 昔の某著名選手のときだって「疑惑」はありましたからね。また昔は所得税がベラボーに高かったこともあり、大御所の元プロファイターほど、自分のファイトマネーの手取額には納得していないだろうと想像されます。そのときは若くて、ジムの会長が怖くて文句がいえなかった江戸の仇をいま、長崎で討つような感じのコメントもあるのかもしれません。ファイトマネーに納得しているプロ選手なんて、この世にいるわけはないんで、それは同情もできるのですが……。しかし後藤さん、「人工的にブームは作れる」ということだけは証明されたのではないですか?
後藤 それは違うんです。TBSがああやって人気と視聴率を作れるのならば、誰だって、どこのテレビ局だって人工的に人気者を作るはずですよ。ところが現実には、皆が一生懸命それを作ってやろうとするわけですが、結果的には作れてない。他もやろうとしてできないわけです。ですから経営コンサルの僕の眼からみますと、他人がおこしてくれたムーブメントを上手に自分も利用できないのは、経営手腕が問われます。だって、キックボクシングとか、空手などの隣接業種で起きていることではない。まさに自分のいるボクシング業界で起きているムーブメントでしょう。
兵頭 なるほど。やっかんでいる暇があったら、自分で盛り上げてみせろ、と。ていうか、後藤先生をコンサルに雇えよと(笑)。
後藤 亀田人気の火を他のボクサーの人気にも飛び火させる努力をしないと、ボクシングという競技に活気が出ないのは自明でしょう。まぁ、現役のボクサーに、それを求めるのは酷かもしれませんけどね。そこまで求めると、プロレスラーになっちゃうかもしれないので……。
兵頭 おっ、それ。「プロレス流プロボクシング」というのが、あってもいいんじゃないですか? 「ナントカ・ギャラクティカ・マグナム~~!」みたいにね。場外まで吹っ飛んでいくという……。撃剣興行の前座に、誰かやってみせてくれないですかね(爆)。