いまどきの怪談

 エンデュランスの比較結果が出てきた。ニッケル水素電池は、最初の数回の充電でパフォーマンスが変わっていくこともあり得るから、これはまだ最終の評価ではないが……。
 送料込みで5000円だった「ソーラーライト マルチムーン」(イエロー)は、1月中旬の晴れた日の日照、それも直射は午前9時半から午後3時までという条件で、夜明け(冬は6時半頃が薄明)まで衰えずに発光し続けることが分かった。
 また、曇った日中のわずかな日照による発電でも、かすかに午前4時台まで燈がともっている。値段が高いだけの実力があることがハッキリした。冬の北海道で使う製品の性能として、これは申し分がない。
 これに次ぐのが本体価格¥1000-未満のスグレモノのオーム電機製の「ソーラーボール」(黄)で、冬晴れの受光条件で夜明け近くまで、また、冬曇りの受光条件でも夜9時前後まで持つ。
 送料抜き3990円の「ソーラーボール グローブライト」(アンバー)は、設置場所は前2製品よりも受光条件が恵まれているのにもかかわらず、オーム電機製「ソーラーボール」よりも早々と光が消える。近くのホームセンターで2000円前後で売っている白色のソーラーライトよりはやや長く光るが、点灯開始のタイミングが国産安物ライトよりも数十分は遅い(たぶん欧州では冬は午後3時台からトワイライトゾーンなので相当に空の暗さが増さないとスイッチが切り替わらぬようにしてあると思われる)のを勘案する必要がある。輝度は終始、よくない。
 輝度では、1000円の「ソーラーボール」が断然に最も良好だ。3990円の「グローブライト」は、真の暗闇をバックグラウンドとしないと、ほとんど目立たぬ。明治以前の行灯のような感じだ。5000円の「マルチムーン」は、輝度では二位だが、十分に電球らしく目立つ。
 というわけで、冬期の北海道で、黄色系で、しかも日陰になる時間が多い場所に設置するのならば5000円の製品が最適である。
 冬でも一日じゅう陽当たりが良い場所なら、オーム電機製のソーラーボールがリーズナブルである。
 だが話はここで終わらないのだ。また、わたしのリコメンデーションもこれが最終ではない。世の中にはもっと、とんでもない無名のスグレモノが転がっているようなのだから。
 わたしは久々に、ゾッとする体験をした。
 じつは今回このように商品比較に傾斜するきっかけとなったのは、隣家の花壇に無造作に4本並べて挿してあるソーラーライトであった。
 その花壇は車庫への私道に面しているのだが、街灯の光が届かないので直角カーブのところに夜間は目印が必要なのだ。さもないと土地不案内な来客は、車を真っ暗な花壇に突入させたうえ、さらに谷底までも転落して行きかねない。
 それで、4本のソーラーライトが、光のガードレールとなっているのだ。
 で、その製品はどのようなものかというと、旧ドイツ軍のポテトマッシャー型手榴弾の頂部を斜めにカットし、そこに面積の狭い発電パネルをはめたような、特に変哲の無いものである。頂部を斜めにしているのは、もちろん、斜めからの太陽光を受けるためであるが、その角度は浅いものなので、積雪防止の意味は大して無い。
 発光部(散光部)は筒状である。四周と下方に白い光を放射する。輝度からして、LEDは1個ではないかと思われる。
 この製品を「商品Ⅹ」と仮称しよう。じっさい、まだ不明なのだから。
 「商品Ⅹ」の点灯タイミングは、わたしが今回あれこれと購入してみた内外の7種の製品の、どれよりも速い。夕方、早々と光が点る。つまり、高緯度な欧州で設計されたものではなく、国産品ではないかと推量できる。
 そして「商品Ⅹ」は、一晩中、点灯している。それも、夜明け前の5時台に見ても、いつも、まったく光量が衰えていない。
 そして「商品Ⅹ」は、本曇りや雨天が何日も続いた後でも、同じように一晩中、光り続けている。
 わたしはそれを見て「なるほどソーラーライトは便利なものだ」と早合点し、そもそも最初のIRIS製品をホームセンターで買ってきた次第なのだ。
 しかしIRIS製品を初めとする売価2000円前後の国産品は、夜明けまでどころか、宵口までしか発光してくれないことが分かった。ここから試し買いの連鎖が始まってしまったのだ。
 ちなみにわたしは「商品Ⅹ」と同じものも、ホームセンターで探し求めた。しかし、4本一組の類似品はあったものの、それはポテトマッシャーの頂部が斜めにカットされてはいないものであったので、購入を見送った。その形状では、雪はすぐ積もるし、発電効率も絶対によくないはずだからだ。
 「商品Ⅹ」と同じものは、地元のショップだけでなく、ネットの通販カタログでもどこにも見かけることがない。これは不思議だが、そんなものかなと思うしかない。
 やがて通販で取り寄せたオーム電機の「ソーラーボール」すら、「商品Ⅹ」の発電力と持久力に及ばぬということが分かって、俄然わたしは「なーんだ」と気抜けがした。お隣の「商品Ⅹ」は、地中に電線が埋設してあり、ローボルト給電をしているのだろう。小面積の発電パネルと見えたのは、じつは明暗センサーにすぎないのだろう、と。
 よく観察すれば、日中、「商品Ⅹ」の発電パネルに雪が積もっている日がある。これではロクに発電できているはずがない。それでも一晩中、光が消えないでいるのだから、これはもう、外部から給電されているとしか考えられぬではないか。
 これで謎は解決したと思った。
 ところが先般、わが地方にも低気圧による強風が吹きまくった。
 この風で、4本並んでいるお隣の「商品Ⅹ」のうち、1本の地中杭が、花壇が軟土であるために支えきれず、倒された。
 わたしは、戸外の雪かき道具が風で舞わないようにヒモで縛るついでに、倒れているその1本に近寄ってみた。根本が露わになっているのだから、そこに、埋設されている、ローボルト給電ケーブルが見えるのではないかと期待したのだが、それらしいものはどうも視認できなかった。
 ついに先日、わたしはお隣のご主人と立ち話のついでに、ぶしつけに、謎の「商品Ⅹ」ソーラーライトについて質問してみたのだ。「地中電線につながっているのですか」と。
 答えは、意外であった。「商品Ⅹ」は、お隣の奥さんが「ホーマック」で適当に購入して来たものにすぎなかったのだ。そのホーマックに「商品Ⅹ」は既に置いてないことは、わたしはとうに確認済みである。
 充電式電池の寿命の常識から考えて、「商品Ⅹ」が購入されたのはここ2年以内のはずなのだが……。
 かくして7種製品の性能比較実験は一応の結論を得られたものの、代わりに最大の謎が生まれてしまった。
 「商品Ⅹ」は、発電力と持久力とで、オーム電機のソーラーボールより高性能である(輝度は互角)。さらに、1個5000円する「マルチムーン」におそらく匹敵する(点灯時刻の早さ、発電パネルの面積あたり効率では、マルチムーンを上回る)。
 いったい、国産「商品Ⅹ」のこれほどの驚異的パフォーマンスの秘密は、何なのか? これほどのスグレモノがどうして市場で評価を受けておらず、何故、げんざい入手の術も無いのか?
 仮説は可能である。「商品Ⅹ」は、特別な発電パネルと高価なニッケル水素電池を複数用いた、製造コストのかなりかかるもので、マーケットシェアをとるためだけに一時的に市場に投入されたものの、他社が売る見てくれのよい低性能製品に、けっきょく駆逐されたのかもしれぬ、と。
 ソーラーライトに関しては、日本の積雪地域のユーザーによる製品評価情報は圧倒的に不足している。それが積雪地に不向きな製品を、現地のホームセンターや通販カタログ上にはびこらせる原因となっていることだけは、間違いがない。