来週あたり、『別冊正論』が出るだろう

 小泉内閣以降の日本政府の公式見解は、〈在日米軍司令部には行政権(渉外機能)はあるが統帥権(オペレーションのコマンディングパワー)はない。統帥権は太平洋軍にある〉というものでしょう。
 ところがそれだと「極東条項」と整合しなくなりますから、外務省条約局や政府としては困るわけです。
 そこで、これから米陸軍の第一軍団の司令部が座間にくるのを機に、この外務省条約局をなだめるため、名目的に、在日米軍に、太平洋軍が、日本国内での限定的な統帥権を分与する「仮構」を、纏わせるんでしょう。
 つまり、UEY広域司令部たる米本土の「太平洋軍」の隷下で、UEX作戦運用司令部たる「第一軍団」が座間に占位するが、在日米軍はその第一軍団の隷下のUA実働部隊でありながらも、日本国内限定の統帥権をも分与される。つまり完全な上下関係ではなく、UEXとして第一軍団と対等になる……。
 しかしこれはペンタゴンとしては統帥が乱される可能性があります以上、ぜんぜん歓迎できないのです。軍事的に合理的でない。
 米国政府が日本政府に要求しようとしていること――将来の希望――は、かんたんに想像できようと思います。
 すなわち、長期的には、
 米本土の太平洋軍 > 座間の第一軍団司令部 > 「在日米軍すべて+自衛隊すべて+豪州軍その他の地域同盟軍」
  という統帥序列を整えて、全太平洋と全インド洋を支配したいのです。
 最初は、自衛隊のうち、空自の全部(PAC-3部隊も)と、陸自の中央即応軍(新編される)が、米軍の指揮下に名実ともに入ることになるんでしょう。海自はもうすでに、全部が指揮下にあるようなものでしょう。
 わたしが個人的に注目していますのは、米海兵隊です。第一軍団は陸軍なんです。その陸軍の指揮下に、在日米軍の海軍、空軍、そして海兵隊も入る。
 これが意味しますことは、陸軍よりも兵員数が少なく、装備も中途半端(重装甲でなく、さりとて空中機動スペシャル隠密フォースにもならない)で、正規戦ではカジュアリティ続出でホワイトハウスを窮地に追い込むこと必至であるため、将来のシナ軍相手の作戦にはまず絶対に出番が来ない、したがって北京からナメられ、アジアの戦争抑止の役には立たなくなってしまった海兵隊が、とうとう陸軍のパシリに落とされるということです。
 米軍のトランスフォーメーションとは、いまやイラクの治安維持の補助憲兵としての使い道しかなくなってしまった米海兵隊のリストラ(陸軍への吸収→組織消滅)を含意しているのです。
 この、組織消滅の危機に、海兵隊は、猛然と反撃に打って出ています。
 それが黒字駐留である沖縄利権へのしがみつき(「グァムへ出て行けや」と圧力をかけ続ける日本政府に対するゴネまくり抵抗)であり、さいきんの「硫黄島」を舞台に設定した宣伝映画(日本人も持ち上げるが、海兵隊も偉く見せる。よって沖縄から追い出さないでくださいませよ!)でしょう。
 住民のいなかった硫黄島での戦いを描こうというイーストウッド氏の映画が、米海兵隊の組織サバイバルのための請負い宣伝映画になるのではないかと予感したわたしは、月刊誌『正論』のコラムで公開前にその注意を呼びかけました。
 しかし案の定というか、「感動した」だとか「愛国心を考えさせられた」だとかの阿呆評論が相次いでいるようです。
 〈沖縄から海兵隊が出て行ってはアジアが困る〉といった、ほとんど海兵隊司令部のエージェントもどきの文章を雑誌に載せた日本人もいるそうですなあ。
 困りません。海兵隊は、もう戦争では使えない部隊なんです。「10.9」でそれが証明されたでしょう?
 あとは、海兵隊は、「いつリストラされるか」だけが、課題なんです。
 「米軍」と「投降兵殺しの達人・米海兵隊」を同一視する日本人は、目を醒ましましょう。
 沖縄に海兵隊専用の滑走路などつくるのは、やめましょう。これは利権固定化の悪あがきの策動でしかない。軍事的に意味がありません。
 南支からの短距離弾道弾や、通化の「東風3/東風21」が届いてしまう沖縄に、固定的な出撃拠点を設けても、価値はありません。
 本格的な兵力拠点はグァムより遠く下げておこうというのは、ペンタゴン上層の、しごく尤もな判断なのです。米海兵隊だけが、軍事的に非合理的な理由(黒字駐留利権)から、それに反対しているのです。