ある米国設計の誘導弾搭載型巡洋艦艦長の心の中の台詞(想像)

 昔の名物艦長にはすごいのがいたって話ですわネ。なにしろ少しでも危険がありそうな海域では、夜間の航海中にぜったいに私室へなんて引っ込まなかった。もうブリッヂ出ずっぱり。椅子を出して夜明けまで椅子にもたれて仮眠してたと。さすがにそうされちまうと、当直将校も見張りもサボりようがない。ブリッヂ内の空気がコウ、ビリビリッと、張り詰めた。
 豊田副武がある軍艦の艦長から転出するときに、艦に残った士官・下士官どもは塩を撒いたって話がありやす。では豊田はどうして出世できたのか。素人さんにゃお分かりんなんなさるめェが、これは美談なんスよ。部下の副長から新米少尉にまでも辟易された、そのぐらいのガミガミ親父じゃなきゃネ、国民の血税でこさえた最新鋭最高単価のフネの座礁や衝突事故をゼロになんかできねえ。「そのほう等、善きにはからえ。まかすぞ」式の、米内光政流じゃこりゃダメなんでがしてね。米内さんが指揮をした砲艦はじっさいに揚子江で座礁しちゃったでしょ。シナ人に対して帝国海軍の威光を低下させた。普通はそれで海軍将校のキャリアは終わりでがす。
 自分が艦長でいた間は、自分のフネには傷ひとつつけなかった、っていうのが、マァ、平時の海軍大佐以上の勲章。豊田副武が中将以上に順調に出世しているのは、この、他人まかせでは絶対にできないことを確実にやるキャラクターだったから。あのガミガミ親父ならば、貴重な組織の資産を無駄に壊させたりしないだろうっていう信頼が、上の方からあったわけですよ。「貰い事故」すら起こさせはしないぞという責任感。それにはトラフィックの多い、陸に近い海面を夜間に通過するときに、私室で寝てちゃだめなんだよね。それを艦長時代に立証できた海軍将校だけが、艦隊司令になってよく、軍令部の高級幕僚になってよく、海軍省の高官になってよく、大臣になってよかったわけ。
 ところで、米国海軍は「ドライ」だったが、ロイヤルネイヴィはドライじゃなかった。ドライっていうのは、「アルコール厳禁」っていう意味ンなりやす。そこはピューリタンですわ。
 何ヶ月も寄港なしで航海を続けるときに、腐りがちな真水の防腐剤としてラム酒を混ぜて水兵に飲ませていたりしたのが英国海軍流だ。士官は水兵以上に酒に強くなければならなかった。「ボンド中佐」のマティーニね。寺島健も、ある休暇中に麦酒数本をあけたあとすぐに海で数十分遠泳してケロリとしてさらに夜の和歌山の繁華街へ向かったという。
 戦後、日本陸軍(陸上自衛隊)の文化は米陸軍化されたとはいえども、冬の寒冷地の演習場で夜更けて「状況おわり」となったら一升瓶くらいは出てくるでしょ。いわんや堂々と英国流であったばかりか戦後もアメリカナイズを免れたと自負する海上自衛隊が……ウーイ、ヒック、てやんでえ。
 戦艦『陸奥』の爆沈事故の原因のひとつは、瀬戸内海から一向出撃する機会もなく、士気が停滞していた下士官が、火気厳禁の弾火薬庫内で密かに酒盛りを開いていたからだとも言われていますがね。しかし、将校だろうが水兵だろうが、人間酒なしじゃやってらんないときもあるじゃないですか。違いやすかい、ねェ旦那。
 昔の名物艦長はね。モチベーションがあったですよ。偉くなって、自分が連合艦隊を率いてアメリカ海軍に対抗しなくちゃならないっていうね。
 ロシア海軍やアメリカ海軍に勝つ方法を考えるやつが、偉いやつだった。
 今はどうかといいますとね。上司に逆らわず、内局に逆らわず、外務省の安保課の阿保ったれに逆らわず、アメリカ国防総省サマに逆らわず、マッカーサー憲法様にタテつかず、温顔でスピーチを卒無くこなし、山田洋行みたいなスキャンダルに関しては退職後も絶対に他言はしそうにはないと周囲から信用され、任期中に直属の部下が事故を起こさないという強運にも恵まれている……っていうのが出世頭でやす。憚りながらこのわたくし奴。模範でやす。鑑でやす。
 ですからね、いつしか口の利き様も、旗本くずれの野だいこか幇間ふうになっちゃうんですよ。ウヒョー、おそれ、おそれ……。
 このイージス艦ってやつね。もともと海自の方から「くれ」って要求したんじゃないんですよ。わが帝国海軍が欲しいのは昔っからね、空母か、しからずんば原潜。防空巡洋艦なんてね、欲しくもなかった。だいたいソ連のバックファイアーなんて、旧海軍の一式陸攻と同じコンセプトでしょ。
 まあ考えてみてくださいよ。本当にすごい兵器なら、アメリカは外国に「導入しろ」とは言いません。いま、F-22を空自が買えないでしょ。本当にすごい、北京がビビるような兵器なんだなってわかりますよ。空母や原潜もアメリカ議会は輸出させませんよ。同じ理由ですわね。
 イージス艦は、高いだけの商品。超絶兵器じゃない。しかも、売ったあとからアメリカが完全に遠隔コントロールできる。空自のAWACSと似てますわなぁ。
 まあ、これだけ高額の装備をですよ、海自から内局を通じて大蔵省に要求してみたところで、ウチのサラリーマン内局にどうしてその必要性の説得ができたもんですか。予算が通りはしなかったでしょう。イギリスですら買ってなかったしね。
 けどね。レーガン政権が唐突に「買いなさい」と日本外務省に命令してきた。これは、アメリカ様の命令ですから、「対大蔵」折衝の必要がなかった。天国ですわ。ヘヴンですわ、もう。
 バウにね、「スターズアンドストライプスの御紋章」ですよ。いまじゃこれにブッシュ政権の「MD買いなさい命令」も一枚加わってるんだから、海自のイージス関連だけは、もう無敵。
 こんご防衛省や自衛隊にどんな逆風が吹いたって、肩で風切って市ヶ谷を歩けるのはイージスがらみだけ。この野だいこ様だけでやんす。
 でも、このフネでもって守れるのは、米国の空母と、在日米軍の基地だけでやんす。
 あっしも艦長サマですけどね。艦内には米国製コンピュータ様という「司令部」が同居してるんですわ。だから真にこのフネを動かしているのは、ペンタゴンの将軍さまたち。
 MD実験に参加したって、データは全部アメリカの軍事メーカーの民間人が持ってっちまう。え、アメリカの民間人を乗せてるのかって? いやあ、これは厳秘なんですけどね。メーカーの人がつきっきりじゃないと、このコンピュータ、動かせないんですわ。日本人はoff リミットな空間がありましてね。艦長も立ち入れない。
 だから八つ手の早駕籠ならぬSH-60か、猪木舟ならぬランチでいちはやく見返り柳の向こう側、米軍地区までお連れ出し申し上げないと、はばかりがねェ……。
 海保や警察の中にもしシナのスパイが混じっていると、このコンピュータに細工を仕掛けられちゃうんで、わっちらがというよりはアメ様が困るんですけど、さすがに最前線で日々シナ人とやりあってる彼らは、そこまでスリーパーには浸透されてないでしょう。もちろん外務省経由で「オフリミット区画には踏み込むな」というホワイトハウス様からの御触れも、しっかと伝達されていることでしょう。錦の御旗に守られる我ら。重宝なもんですわ。
《以下、余談》
 ヤフーの英語版から「60ミニッツ」を見られるということを昨日発見した。この番組の米軍リポートは、昔からホントにあなどれない。
 いきなり、電子レンジの仕組みを応用した対暴徒遠隔撃退用電磁砲(車載式)のプロトタイプの紹介をしていた。有効距離、数百メートル! 当てられると、1秒もじっとしていられないようだ。ぶ厚いマットレスをシールドにしようとしても、防護にならない。
 とうとうここまで来ちまったか……。
 この兵器が、ユーラシア某地域、某々地域の専制体制のオモチャとして普及したら、すぐに拷問と処刑用のリーサル・ウェポンとして使われることは目に見えてるぜ。
 (発電装置までもが本当に車載でまかなえているのかどうか、オレは疑問に思ったのだが……。)
 そして次の段階は、宇宙から地表の人間どもを「チン」してしまう兵器だ。この流れはもう止められないぜ。