まだまだまとも

 『文藝春秋』08年4月号に竹中平蔵氏が日銀の総裁(候補)のたなおろしに関連して寄稿しています。G7の過去3年間の平均名目成長率の3.6%の成長を日本も目指すべきで、もしGDPが年に1%づつ成長すれば、10年後には税収が16兆円増え、消費税を7%上げたのと同じことになり、しかも景気も冷やさない――と。
 随分説得力があります。「2ちゃんねる」のような空間では残念なことに、戦中統制経済マンセーのヒマな赤公務員が書き込んでいるケケ中叩きのテキストの洪水の中に、まともなコメントは埋もれてしまいます。
 戦前、池田成彬[しげあき]は、大蔵省と商工省を合併して「経済省」にしろと提案していました。プロシア式に訓練された官僚が……ではなく、英米流に近代化された財界人こそが日本の経済政策を機動化して英米に対抗できるのだと考えていた。
 そこで近衛内閣の最初の組閣のときに、大蔵大臣兼商工大臣に起用されたのでしたけれども、池田の改革は、役人の猛反対で潰されました。
 「大蔵省の為替管理局」と「商工省の貿易局」の統合ですら、まったく不可能であった。つまり対外取引が必要な民間企業は、この2つの役所で2重の許可を得たあとでなければ契約は結べなかった。さらに外務省の通商局からも横槍が入った。ひどいときには全部済むのに半年も待たされる……。
 これでは外国との競争はおろか、有利な商談そのものがはじめから不可能ですね。けっきょく日本の体力が弱められて、大戦争には耐えられなくなってもうた。「大リーグボール養成ギプス」のスプリングで、哀れにも身長が圧縮されちゃった星飛雄馬みたいなモン。
 輪をかけて酷いのが満州政府で、内地で物価や貿易を統制しようとしても、諸外国から勝手な輸入のし放題。その伝票はすべて東京の国庫に回してきた。内地以上の無責任な役人天国だったのですから、その生き残りたちが戦後、満州の想い出を悪く語るはずがありません。
 池田は、こうなったらいっそ、満州と日本の通貨リンクを廃めてしまったらどうか、とまで考えたそうです(高木惣吉の日記にあり)。
 日本の「統制主義者」に統制などできず、有力役人のてんでバラバラな権益増殖を黙認するだけになるってことは、あの東条のやったことを見れば分かるはずなのに、赤公務員と2ちゃんバカ右翼にはそんな自明の事実が見えない。これをやはり高木惣吉はノーマン・エンジェルの評言を引用して「いくらでも頭脳を使いさえすれば、どんなに教養の低い者にも、自明」なことを、あえて誤謬してしまうのが公衆である――と嘆くわけです(『太平洋戦争と陸海軍の抗争』)。事情は今と少しも変わらない。