週刊『苦笑』

 防衛省は「防衛報道」のあり方に関しては「改革ごっこ」する気すら無いらしい。防衛記者クラブを通じた大手新聞数社との「共犯」関係を解消する気が無いということは、将来もまた「山田洋行」のようなスキャンダルは記者クラブぐるみで見てみぬ振りを続けましょうねという共同謀議ではないか。じつにふざけている。
 シナ原潜が、「水深500mライン」が北側に張り出している(そしてまた紀伊水道ほど日本側の見張りが厳重ではない)豊後水道に、あとすこしで入るというところまで、米軍は「泳がせ捜査」のようにして静かに監視をしてきた。
 このシナ潜はたぶん沖縄でまたも領海侵犯をやらかしているのだが、その時点では騒がないことにした。というのは、米軍の最大のメリットは、遠洋の原潜と本土の潜水艦隊司令部やシナ海軍上層、あるいは中共の軍事委員会等の間の「通信」がどのように行われるものか、その実態をつぶさに盗聴してデータ集積しておくことにこそあるからである。だから、追尾中であることが敵艦長に明瞭に気取られるP-3Cも、わざと飛ばさないでおいた。
 米海軍は例によってシナ原潜が出港する瞬間を待ち構え、グァムを母港とする攻撃型原潜による密かな尾行をつけた。
 海自と米海軍は対潜情報処理を同じ場所でやっているので、防衛省もニア・リアルタイムで、このシナ潜の動静は教えてもらっていた。
 しかし日本の軍人としては、福田総理がシナの奴隷であることも重々承知之助だから、「たといこのシナ原潜の領海侵犯があったとしても、それはできるだけ遅く官邸に知らせよう」という意思決定を、海幕内で早々にしており、そのことは米側には事前に周到に説明済みで、たぶん、内局には(意趣晴らしの意味もあって)少しも相談はしていない。
 いよいよ調子に乗ったシナ原潜が豊後水道に入ってしまうとさすがに騒ぎが大きくなって福田総理らの余計な怒りを買いかねないので、「もう、いいでしょう」(水戸黄門風)というわけで米海軍は海自の『あたご』をシナ原潜の真上まで誘導した。米海軍としては、MD実験担当艦なのに衝突事故で評判を落としてしまった同艦の名誉が回復されることが利益であるから、親心から、ご指名をしたのだ。
 9月14日、『あたご』の固有ソナー、および同艦載ヘリからのディッピング・ソナーが、アクティヴ・PINGを連打した。シナ原潜は終に屈服して潜望鏡を出し、尻尾を巻いて逃走した。この間、尾行の米原潜は遠くの水底でいちぶしじゅうを低見の見物と洒落込んでいたことは言うまでもない。燃料代が苦しい折なので、『あたご』はすぐに楽屋に引っ込んだ。現在、再び米海軍の攻撃型原潜がシナ原潜を静かに尾行しているところである……。
 ――まあ、真相はこんなところだろう。
 あれは2004年頃だったか、シナ原潜がグァム島を一周したという特ダネを、防衛庁が朝日新聞だけに教えたことがあった。
 今回は、防衛省は、この特ダネを、読売新聞だけに教えることにしたようだ。
 このように、防衛記者クラブに加入している大手新聞社の1社づつに対し、防衛省が、順ぐりに恩恵的に特ダネを「配給」してやるという不健全な報道統制により、いったい誰が利益を得るのだろうか? 納税者たる国民でないことは明らかである。
 防衛省は、1社限定の特ダネ配給の見返りとして、山田洋行のようなド腐れ構造を記者たちが目にし、或いは耳にしても、それを決して活字にはさせないでおくことができる。山田洋行事件では、防衛官僚や防衛族議員が腐敗していたのと同程度に、防衛庁担当記者もすっかり志操を喪っていたのだ。常識で考えて、あれほど大っぴらで長期にわたった利権たかりの具体的事例が、彼らの耳に頻々と入らなかったわけがない。彼らにとって、山田洋行事件とは、ニューズではなくしてオールズだっただろう。しかるに、そのような歴然たる売国の実態を何としてでも国民に知らさねばならぬと自覚した記者は、一人も居やしなかった。十年でも二十年でも平気で黙っていることができたのだ。彼らもまた、日本国の防衛など実はどうでもいいと自分を納得させた高給取りなのであろう。