海峡洋上ホテルを提案します

 以前からあったホテルが廃業に決まったり、あたらしく進出したスーパーがあっという間に撤退してしまったり、冬季は一日中炬燵にあたりながら仕事をしております貧乏市民の小生にも、地元函館市の不景気が本格的に想像されて参りました。
 こういうときこそ市役所の高給取り公務員は死に物狂いで雇用を増やす新案をひねり出すべきなのですけれども、まあ、彼らにはそんなビヘイビアは、薬にしたくとも無いでありましょう。
 そこで、無駄だろうとは予期しつつも、住民歴6年の市民のはしくれと致しまして、わたしがアイディアを出します。
 いま、売り先がなくて繋留されている最新鋭高速フェリー『なっちゃんRera』と『なっちゃんWorld』の2隻を、1日1便の低速移動洋上ホテルに改造するのです。
 これで、失業したホテル従業員を再雇用することができるでしょう。また、本州および外国からの観光客が、移動経費と宿泊経費を半減しつつ、しかも比較的安楽に、青森市と函館市を1泊2日で全部見てまわることができるようになりますので、両市の観光呼び込み客量は総体として増加するでしょう。Win-Winの戦略といえます。
 在来型のフェリーは、経済巡航速度で走っていますので、函館港~青森港間を3時間55分かけています。『なっちゃん』も、ゆったりと4時間かけて海峡を横断するようにすれば燃費(この高騰が廃線の一因となった)は充分に減らせるでしょう。しかも、1日1便ですから、ランニング・コストは最少です。(埠頭接岸中は、電力を陸上からとるようにすれば、さらに経費を減らせるでしょう。)
 毎日、深夜の1時00分に、両船は同時に、青森のフェリー埠頭と函館のフェリー埠頭を出航するのです。それから、早朝の5時00分に、それぞれ反対側のフェリー埠頭に到着する。『なっちゃん』は、この1便だけにすればいいのです。
 観光客の中には、函館もしくは青森に、早朝いちばんに移動したい人もたくさんいるのです。たとえば2輪でツーリングをする人や、登山者などです。場末の観光地の銀行員や役人には、こんなことすら分からないのです。それで、これまで、そうした日程を組みたいお客さんが、存分の睡眠時間を確保しつつ安楽に移動できる手段が、まったくありませんでした。航空便は早朝はないですし、鉄道のシートでは疲れますし、これまでのフェリー(なっちゃんも含む)だって、乗船開始時刻が出航前のギリギリまで待たされるために、ロクに寝ているヒマなどなかったのです。
 しかしホテル機能のある低速シャトル・フェリーならば、これまでの不可能がいちどに可能になり、24時間を少しでも有効に使いたい潜在的観光客たちに、100%の満足を提供できるでしょう。
 乗船開始(チェックイン)は、夜7時からOKとします。つまり出航の6時間前です。小さい子供連れの人は、早く就寝したいですからね。もちろん、深夜12時50分に慌てて飛び乗ってきてもいい。
 また下船時刻(チェックアウト)は、午前10時にします。朝5時に入港してからさらに5時間、そのまま船内でくつろいでもらっても構わない。連続8時間くらい寝ないとどうしてもダメな人、吹雪や雨の早朝に戸外に出たくはない人も、これならいいと思うでしょう。
 もちろん、4時間ウトウトとしただけで、早朝5時キッカリににただちに上陸をしたい人は、まっ先に下船ができます。ホテル機能を兼ねるからこそ、こうしたフレキシブルな利用が可能になります。
 この点、いままでのフェリーは、本当に乗客本位とは言えませんでしたね。
 『なっちゃん』は潜在的に高速フェリーですので、非常な悪天で欠航になりそうなときは、本来の実力を発揮し、融通を利かすことができます。たとえば出航見合わせの遅れを高速巡航で取り戻したり、少し早めに対岸に移動してしまうこともできます。船自体がホテルだからこそ、利用者が万一の悪天候で蒙る迷惑も最小になるでしょう。
 これが実現すれば、青森市と函館市は、1泊以上する気でいる潜在観光客から見まして、まったく一体連続な観光地となります。
 パックツアーの時間構成と空間構成が、安価でありながらしかも、格段に、自由・多彩になるでしょう。新しい観光旅行商品が、続々と案出されます。
 新幹線の開業を漫然と待っていてはいけない。やる気を出しましょう。〈民間人大失業時代〉の怒涛が、もう戸口まで迫って来ているのですから。
 死を座視するな! 特に公務員は先憂後楽せよ!