「読書余論」2009-3-25配信予定のコンテンツ謹告

▼吉森實行『ハワイを繞る日米関係史』文藝春秋S18-12
 M27~33の日本からの移民の質が悪すぎたことが差別の原因だと、戦時中に説得しようと努めてもいる労作。しかしこういうのを読むと、『山椒魚戦争』を書いたチャペックは偉かったと思いますよ。
▼William R. Castl Jr.『Hawaii ――Past and Present』 1913
▼Isabel Anderson 『The Spell of the Hawaiian Islands and the Philippines』1916
▼白山友正『箱館五稜郭築城史』北海道経済史研究所 S41年
▼鈴木章『助川海防城』1978
▼小田治『地名を掘る――鉱山・鉱物による考察』S61
▼玉城 哲ed.『灌漑農業社会の諸形態』1979
 日本人がいちばんよく分かっていると思い込んでいる水稲作についてじつはぜんぜん己れを知らないのだよと思い知らせてくれる玉城節炸裂。
▼林武ed.『水利の社会構造』1984
 1983年に玉城氏が死去しているが、内容は玉城説の再確認になっている。年貢と地租の違いも分かる。
▼土井三郎『クラウゼヴィッツ戦争概論』労農書房、S7
▼『中央大学論集』1996-3所収、清水紘一「近世初頭の海防体制」
▼『江戸文学』11号(1993)所収、小谷野敦「『八犬伝』の海防思想」
▼『日本文学』1996-10所収、川西元「『本朝水滸伝』と兵学」
▼『東方学』S60-1所収、湯浅邦弘「『尉繚子』の富国強兵思想」
▼『国文学 解釈と鑑賞』1991-8所収、加美宏「政治・軍学の書として読まれた『太平記』」
▼長 文連『皇位への野望』図書出版社1980-5、初版?年
 今上陛下の母方の祖父にあたる「中川宮」こそが公武合体の政策リーダーで、孝明天皇などその傀儡にすぎなかったと力説。失脚させられた彼こそ、じつは最終勝利したと言える、と。子沢山であることがロングスパンでは公卿の最善戦略になるのか。本書は平成年間中はまず再版されないだろう。が、幕末の力関係を知りたくば、必読。数万石ていどの石高の大名では、とてもリーダーシップはとれなかったことも、よくわかる。
▼正宗白鳥『人を殺したが…』福武書店1983
 しょうもない小説だ。
▼『歎異抄』金子大栄・校注、イワブン
▼防研史料『地下工場建設指導要領案』S20-2
▼防研史料『米軍戦法ノ参考』S18-9
 米軍を褒めている貴重な資料。
▼防研史料『國土決戦教令』S20-4-20
▼防研史料『四式十五糎自走砲説明書』S20-1-31
▼防研史料『試製九糎(空挺隊用)噴進砲竣工試験要領』S19-7
▼防研史料『簡易投擲器(弓及弩弓)説明書』S20-2
 明智光秀が竹槍で刺されたわけがないという、その傍証を示そう。
▼防研史料『試製四式四十糎噴進榴弾説明書』S20-3
 100キロ・オーバーの弾薬をどうやって8人で担いで運ぶか。その答え。
▼防研史料『兵器取扱法 第十陸軍技術研究所』S20
 4式中戦車を満州で使うつもりであったというその傍証を示そう。
▼徳永凡『後方部隊』S14-11
▼公家裕『もぐら兵隊』S17-6
▼竹定政一『実録・満洲阿城重砲』S55
▼遠藤寛哉『蕃匪討伐記念写真帖』M44-5
 空き瓶で鳴子を作る方法、等々。
▼スタニスワフ・レム著、沼野・他tr.『高い城・文学エッセイ』2004
 ポーランドのギムナジウムでの軍事教練とはどんなものだったか。ウェルズ論は読ませます。しかしヴェルヌ批判は屈折しており、チャペック無視はもっと屈折していると思う。
▼スタニスワフ・レム著、沼野・他tr.『天の声・枯草熱』2005
 ネタバレ注意です。「天の声」を読めばアーサー・クラークなど馬鹿らしくて読めなくなるが、しかし新約聖書に囚われているところは共通だ。
▼齋藤清衛『精神美としての日本文学』S13-10初版、S20-11repr.
▼「大橋氏自筆稿」(三康図書館・大橋文庫蔵)
 じつはガトリング砲は河合継之助の手には渡っていなかったんじゃないか、っていう……。
▼有坂【金召】蔵『武器武装』雄山閣、S4?
▼太田才次郎『諸芸指南』M34-2
 背の立たない深い水中を、重い装備をかついだまま渡る方法……。誰か実験してくれんかな、コレ。
▼『国際交流』1998-7
 武士道についての充実した要約。佐藤一斎は「独立自信」といい、福沢は「独立自尊」といった。
▼古川哲史『日本倫理思想史研究 2 武士道の思想とその周辺』1957-2
▼成瀬関次『臨戦刀術』S19-3
 山浦真雄の文の中に「切味にぶうして堅物にかかりてはのるぞかし」とあり、ここから、『五輪書』の中の「のる」は、〈表面を滑る〉の意味ではないかとも考え得るんじゃ……?
▼成瀬関次『手裏剣』S18-4
 屍体実験までしちゃっている著作は、日中友好化した戦後はもうありえないです。
▼有賀弘・他ed.『政治思想史の基礎知識』S52
▼レイモン・アロン『戦争を考える』佐藤毅夫tr.S53、原1976
 キッシンジャーの『核兵器と外交政策』の次には、この論文を読まんことには、「戦略」は語れませんぜ。
▼レイモン・アロン『世紀末の国際関係』柏岡富英tr.1986、原1984
 1905生まれのアロンは1983秋死去。死ぬまでソ連の軍事力をかいかぶりすぎていた。アメリカの宣伝にしてやられていたのだ。
▼J・L・Payne著『The American Threat』岩島久夫tr.1971、原1970
▼D・J・ダーリン著、直井武夫tr.『ソ連と極東 上』S26、原1948
▼H・B・モース&H・F・マクネア『極東国際関係史 上巻』浅野晃tr.S16
▼宮崎繁樹『戦争と人権』S51
▼伊達源一郎『極東のロシア』大4
▼S・ズナメンスキー『ロシア人の日本発見』
▼J・G・マッキーン『バビロン』岩永博tr.1976
▼北海道立北方民族博物館ed.『人、イヌと歩く』1998-7
▼『別冊 日経サイエンス 119 核と戦争の20世紀』1997-6
 10年以上も前からちっとも前進してない技術があるので驚くでしょう。たとえば小銃弾の発射点を探知する方法など。今どうなってるんですかね?
▼齋藤進『バード少将南極探検』S5-11
▼東京市役所ed.『帝都文化施設一覧(第一輯)』S15-8
 海軍館などの正確な番地がわかります。
▼平山喜久松『盗難防止の研究』S11repr.
 『予言・日支宗教戦争』の第5章で参考にした文献の一つです。
▼三宅泰雄『日本の雨』S31
▼河南林男『科学の生んだ驚く可き独逸の富強』大7-6
 まず小学校教員から厳選しとかないとダメなんだ、という話。
▼松村松年『大日本害蟲図説』S7-4
 アリの巣を撃滅する方法、など。
▼谷本亀次郎『農山村天産物の利用』S10
 スイカの種は駆虫剤になる、といった、戦前のお役立ち情報。
▼市川節太郎『東西接待法要訣』M45-4
 明治の海軍少佐が若い将校のためのエチケットマナー集を書いたもの。明治末になっても、まだ欧化で苦労していたんだ。
▼F・A・ハイエク著『個人主義と経済秩序』嘉治tr.1990、原1949
 「読書余論」の試みじたいが、一つのハイエク主義である。しかしハイエクは、貴族階級を愛する趣味から「累進課税=所得再分配」に反対するという間違いを犯している。
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 「俗悪な紙屑同然の本の氾濫で今に価値ある貴重な出版物が溺死してしまうにちがいない。なにしろ、十冊の粗悪な本の中から一冊の良書を見つけるほうが、百万冊の中から千冊を選ぶよりはるかに容易なはずだ。」
 ――これは1968年にスタニスワム・レムが書いたSF『天の声』に出てくる文章(深見弾氏訳)です。
 百万冊の中から千冊を選ぶ作業を、あるいは1000ページのなかから10ページを指摘する作業を、消費者と文献そのものとの中間に立って情報整理する係が要請されています。すべてのジャンルで、誰かがそれをひきうけるべきでしょう。
 「読書余論」は、主に軍事系の古本を、兵頭が注目した一斑の摘記や読書メモによって紹介し、他では読めないコメントも附しているものです。(配信されるファイルはPDFスタイルです。)
 あまりに多すぎる過去の情報量の中から「兵頭はここは珍しいと思いました」というポイントだけ要約しました。
 大きな図書館に毎日通えない人も、最低費用で、過去の軍事知識のマニアックな勘所に触れることが可能です。
 また、ミリタリーしか読んで来なかった人には、他分野の情報が、何ほどか有益かもしれません。
 「読書余論」は、毎月25日に「武道通信」から最新号が配信されます。1号分の購読料は200円です。
 バックナンバーも1号分が200円で、1号分のみでも講読ができます。
 2008年6月25日号以前のバックナンバーのコンテンツは、配信元の「武道通信」のウェブサイト
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