F-22デビューの意図は何か?

 2014-9-23未明に、すくなくとも1機のF-22がシリア内のゲリラ(イスラム国)に対する空襲に参加した。F-22が投下した爆弾はGPS誘導のGBU-32=1000ポンド爆弾であることを米空軍は認めた。またDoDは、F-22の投弾によって破壊された「敵ゲリラ司令部建物」のビフォー&アフターの白黒写真をすばやく公表した。この司令部は、イスラム国が首都だと称している「Raqqah」にあるという。
 『エビエーションウィーク』のビル・スイートマン先生は、9-23のブログ(Ares)で、この2枚の画像は、いったいどうやって撮影されたのかという疑問を投げかけておられる。
 いわく。――こんな撮影はターゲティングポットでしかできない。しかしそれはF-22のステルス性を悪くする。では無人機か? ステルス性のない無人機で爆撃前に目標上空に至れるのならば、F-22を投入する必要も最初からないことになろう。無人機からレーザー誘導爆弾を投下すればよいだけだからだ――。
 これについての有益コメント。〔23コメントまで見た。〕
 ――俺はアフガンの空爆ビデオというものはこれまで全部みてきた。それで言えるのだが、内部に人がいた場合は、かならず何人か飛び出してくる。また、周囲でうろたえさまよう人物が発生する。こんどの画像にはそれが写っていない。そもそも、建物に「通勤」している司令部スタッフの乗用車が見えない。この建物はカラッポだったと断言できる。空爆はアラブのお友達から、電話で予告されていたのだろう。
 ――撮影はすくなくも24時間後だ。というのは、二枚目には黒焦げの跡はあるのに煙は写っておらず、なおかつ、影の角度が一枚目とほぼ同じである。光線が同じようになる時刻に意図的に撮影したものだ。
 写真を撮った機体が何なのかについては、このブログでは、衛星なのか無人機なのか有人機なのか、〔23コメント以内では〕結論は出ていない。
 爆撃にF-22を投じた理由については、同誌のエイミー・バトラー氏が、「Was that a Lackluster F-22 Debut?」というタイトルのブログ投稿を9-24にUpしている。
 その内容はパスする。そこにつけられた、やはり23のコメントのうち、有益なものは以下の如し。
 ――シリア政府が持っているロシア製レーダーの威力とやらを確認できるチャンスだったのさ。
 ――イスラエル機は以前にシリアの核工場も爆砕したし、ダマスカス郊外のヒズボラにだって爆弾2発を投下している。そんな防空レーダーの秘密を知るのにF-22など必要ない。
 ――2007にイスラエルがシリアの核施設を破壊したそのあとで、ロシアがシリアに新しいSAMを提供してるしな。
 ――グラナダのときと同じで、てもちぶさたの部隊と兵器が、ステージに上げて貰ったのだ。
 ――カタールあたりにF-22はローテーションで常駐しているので、使いやすかった。それだけ。
 ――イスラム国はカネモチだからなんらかの対空兵器をもっていたかもしれない。そのため用心してF-22を飛ばしたのか。
 ――これはさいきん挑発的なロシア軍に対して米軍の力をあらためてみせつける宣伝攻撃だよ。
 なんというお役立ちのコメントの数々であろうか。これを読んだ上で、以下、兵頭のげんざいの考え。
 こんかいのF-22の一挙は、2014-7-17に、マレーシア航空の MH17 便が、Buk-M1(米国防総省コードネームSA-11、NATOコードネームGadfly)に「おまかせモード」(このとんでもない仕組みについてもアレスのスウィートマン解説がわかりやすかった)で撃墜された事件と関係があるのだろう。
 あれ以来、ロシア製のSAMを買っている諸国が強気になってしまった。
 またたしかにロシア軍も調子にのってきた。
 ここで米軍が何のデモンストレーションもしないと、イランも調子づくし、イランと対決しなければならないカタール、UAE、サウジアラビアは、逆にそれを非常に不満・不快だと思うだろう。さなきだに、イラクの現政権をイランが無人機で支援することを米国は許認さえしているのだ。
 F-22に基地を提供しているカタール等の国は、こんどの一挙を見て、「やはり米軍はあの飛行機を対イラン戦(その他)で使ってくれる。そしてそれは有効なのだ」と確信できたであろう。
 シリア政府のもとにはロシア人のSAM支援チームが常駐していると思われる。彼らにも、F-22は、何か(報道されていない)を、見せ付けたのであろう。
 米空軍はこう言いたいはずだ。「おまえらの捜索監視レーダー(9S18M スノードリフト等)には何も映らなかっただろ? わかったら、今後は調子に乗るなよ」と。
 シリア軍の防空システムなどたいしたことがないとイスラエルが証明済みであるからこそ、安全に、ロシア人技師に対する「警告」を与えられたのだ。それは大きなメリットではないか?
 ただし、もし今、F-35が実用化されていたなら、米空軍はF-22をひきつづき「秘密兵器」として温存して、F-35に作戦させたかもしれない。F-22が実戦で基地を飛び出すさいの通信その他のプロトコルを解析されてしまうのは、やはりおもしろくないはずである。しかし軍司令官や高級文官たるもの、F-22部隊やその受け入れ国の士気というものも少しは考えねばならない。もうこのへんが「曝し」の潮時だと判断したのであろう。