習近平は東條英機の跡を辿っている。その末路に注目す。

さて今年一年をふりかえろう。
『歴代大統領戦記』の第一巻の原稿を書き上げることができたのが最大の成果だ。公刊は来年早々になるだろう。第一巻のあとは作業の調子が掴めるから、あとはベルトコンベイヤーのように量産する。司馬遼太郎が新聞に日露戦争史を連載していたときのような感じでね。内容も、歴史群像の色が濃い。
南北戦争よりも独立戦争の方がずっと面白いんだってことを、まず証明できるのが楽しみだ。これはおおかたの出版人もわかっていないことだ。大統領と議会の関係、大統領と軍隊の関係、すべては独立戦争中に決まっている。そしてもうひとつ。わが国の近代憲法について考えようという人間なら、この米国独立戦争に詳しくなくては、本当に、話にならないんだぜ? 京都女子大の講演でも語りましたけど、ヴァジニア憲法も独立宣言も、その半分以上は「宣戦布告」の説明責任に費やされている。英国憲法は、王と有力者間の契約だ。日本の憲法は、過去との訣別および西欧社会との新契約だ(旧約と新約とあり)。そして米国憲法のキャラクターは、「英王に対する宣戦」なのである。世界の憲法はたいていこのどれかの範疇だろう。
文庫の連打によって著者にこんな大河ドラマの執筆時間を与えてくれた草思社の特別な配慮には感謝の言葉もない。さもなきゃ事実調査の時間だけ積算しても、無資産執筆者にはとても企画そのものが無理だった。
それに次ぐ成果は、これも刊行が明年になるが、某大手出版社から、中共の終わり方を軍事的に予言する本を受注して書き上げたこと。このような新たなラインナップが加わることによって、草思社の年一回の私版防衛白書だけでは消化不良になるかもしれなかった軍事トピックスの無停滞の「商品化」がプログラミングできるだろうとの予感を抱けるようになった。
あとは京都講演の直前にタクシーで比叡山を見学できたのが望外の収穫であった。当日は大学の近くの国立博物館で時間調整しようと思っていたところ、ホテル玄関でたまたま乗り込んだタクシーの乗務員さん(♀)いわく、「入館するだけで三時間待ちですよ」。後で知ったが鳥獣戯画が公開されていたらしい。それで急遽予定を変更して、延暦寺根本中堂までの往復に決めた。市街から1万円台で即座に往復できるとは知らなかった。『日本のロープウェイと湖沼遊覧船』や『大日本国防史』を書いたときのイメージしかなく、ケーブルでしか登山できない、偉い遠いところにあると、ずっと錯覚していた。途中、四条大橋はここだと説明される。東海道五十三次の最終到達点! 弥二さん北さんが梯子を持ってウロウロしたのはここかと思うと、かたじけなさに涙こぼれる(嘘)。わたしは高校時代の京都修学旅行をバックレたので、中学時代の修学旅行のおぼろな記憶しかなく、車中から見せてもらったすべての印象は鮮烈であった。
それにしても明智光秀は大仕事をやってのけた。建物を焼いただけじゃない。この山の一方の斜面を下から全部、森林ごと焼いたのだ。ということは、雑兵にまず粗朶束を集めさせ、それに着火させるという大掛かりな準備が必要だったはずだ。さもなきゃいきなり大木に火は移りませんよ。
比叡山山頂の植物園に入場している暇が無かったことだけが悔やまれる。吹き曝しの寒い稜線上で越冬できる植物を、是非にも点検しておきたかった……。
ところでシナ文学者の武田泰淳は昭和24年4月に「勧善懲悪について」という一文を発表し、その中で東條英機を回想して、「彼はたしかに戦時中、あたかも自己が最強者であるとともに最善者であるが如くふるまい得た」「そして国民もまた彼がたんなる強者でなく、日本的善なるものの代表者であるがごとき魔術的印象をうけとっていました」「彼の命令は善であり、その逆は悪であるかのようでさえありました」等々と書いている(全集12巻130頁)のに吃驚した。
今日の我々は、東条と習近平の一致点を、数十個くらい挙げることができる。東条ファンの白痴右翼は、習が来年何をするかを、よく見ていることだ。