トランプ政権は「兵頭戦略」を採用中である

 かねがねわたしは、例年8月後半に米韓が実施している「ウルチフリーダム」演習は、北鮮農業には何の打撃も与えられないゆえに、米国人の税金の無駄遣いにしかなっていない――と説いてきた。
 もし、3月から開始する米韓合同演習にすぐ連接するように「ウルチフリーダム」を4月末から開始するように前倒しして、さらに陸海空のリレー演習で6月まで北鮮に対して示威を反復し続ければ、そのあいだじゅう、北鮮では農民が無駄に動員されて田畑から引き離されてしまう結果として、当年秋の北鮮農業はトウモロコシもコメも壊滅するしかない。
 以上の具体的な機序は『兵頭二十八の防衛白書2016』の第8章「朝鮮半島編」で詳述してある。再読して欲しい。
 げんざいトランプ政権は、まさにこの戦略を実行しているのだと思われる。
 国連大使ニッキ・ヘイリーはNBCテレビのインタビューで、もし北鮮が米軍基地を攻撃するか、ICBMテストを行えば、米軍は北鮮を攻撃する――と宣告した。これで北鮮は手も足も出せなくなった。
 (ちなみにトランプは若いときからNBC社屋をNYCから対岸のNJ州へ移転させないためにずいぶん努力したという特別な関係がある。つまり贔屓筋なのだ。)
 そうしておいて、巡航ミサイル150基を発射できる原潜『ミシガン』を4-25に釜山に到着させ、それから米韓訓練に参加させる――と米国から公表されている。潜りっぱなしで秘匿が可能なのに、わざわざ公表したのは、要するに「予防戦争」をやる気は無いのだ。
 国際法用語で、「プリエンプション」「プリエンプティヴ」は、間近に迫っている敵の攻撃(たとえばICBM発射)に対するリスポンスについて使われる。これは予防戦争を意味しない。
 しかし、ICBMが発射されそうになっているなどの切迫した危険のない段階で、米軍側から先制的に巡航ミサイルを発射すれば、それは「プリヴェンティヴ」戦争=予防戦争となってしまう。
 米国は伝統的に中南米に対しては無道なプリヴェンティヴ戦争を辞さないが、中南米以外の外地では、それは遠慮する主義だ。米大統領は「東條英機」にはなりたがらない。
 したがって北鮮が「核実験」しただけでは米軍は手出しはできまいと思う。
 ここにおいて兵頭戦略は便利なオプションになる。
 空母『カールヴィンソン』の到来もわざとひっぱりにひっぱっている。この調子で6月まで緊張を演出すれば北鮮農家はくだらない動員に駆り出され続けるので2017年秋のコメとトウモロコシの収穫は間違いなくゼロになるだろう。手植えによる植え付けのクリティカルピリオドが3月から6月までの間だからだ。
 そのかわり、8月の演習などもうする必要はない。
 米国は、6月には在韓米人のエバキュエーション訓練をするという。6月まで緊張を引っ張るつもりなのだ。それでいい。それでわたしの持論が正しいかどうかが分かる。
 北鮮の特殊部隊などを買い被りたい向きには、文庫版『地獄のX島で米軍と戦い、あくまで持久する方法』の第8章を再読してもらいたい。
 ニンジャがそんなに凄かったのなら徳川幕府ではなく「甲賀幕府」とか「伊賀幕府」ができていたはずであるという話をわたしは書いた。
 同じく、北鮮の特殊部隊がそんなに凄いのならば、有害無益な金一家などとっくに暗殺され尽くしていて、トルコ帝国のイェニチェリみたいな特殊部隊王朝が連綿と続いているだろう。
 次。
 Cindy Vestergaard 記者による2017-4-24記事「What Are North Korea’s Chemical-Weapon Capabilities?」
   韓国ソースだが、北鮮は1966にソ連から糜爛剤と神経剤を少量、貰った。そして1970年代後半に、東独から技術的ノウハウを仕入れたという。
 韓国は化学兵器禁止条約に1993に署名し、1997に批准し、1999にその保有ストックを廃棄しはじめた。
 2008年までに、韓国はすべての化学兵器を廃棄した。
 いったい韓国は過去にどのくらいの化学兵器を製造していたのか。これは公表されていない。が、3126トンだと見積もられている。
 マレーシア警察当局はVXのサンプルをOPCW〔事実上はアメリカ〕に渡さなかった。
 ※英文ネットにも愚劣きわまる軍事評論が多い中、この記事はキッチリしていて信拠できる。北鮮の毒ガス能力に関心ある人は原文で全文を見るべし。ところで軍事評論家が科学的な理性を有しているかどうかの判定は簡単だ。京城[ソウル]と北鮮軍砲兵陣地の距離をどのように説明しているか見ればいい。韓国人口の半分もが京城市圏には集っている。市街がやたら広いから、その中心点(距離計測の端点)をどこにするかの定義がまずなければならない。DMZから30kmなどと書いている評論家は、DMZのどこから計測しているのか。DMZの幅だって5kmもあるのだ。砲兵の世界では数キロメートルの差で破壊力ゼロになってしまう。ソウル駅前を一方の端点としてDMZの向こう側の砲兵陣地までの最短を計測すれば、39kmより短くなることはない。漢江南岸まで測ったら、50km以上になる。砲兵は横長に点々と布陣しなければならないが、最短点からちょっと横に外れたらもう京城市心には届かせようがなくなる。最短点からでも、砲弾を40km飛ばそうと思ったらRAP弾にするしかなく、RAP弾の充填炸薬量はガックリと減ってしまう。「1万門の大砲が……」とか話を盛っている文章を見たら、それは北鮮マンセーの工作員だと疑うのがまず合理的でしょう。ちなみに「テポドン2」は全長32mもあった。このサイズですら全長20m台のTELに横に寝かせて運搬することは不可能です。