「読書余論」 2018年3月25日配信号 の 内容予告

▼トク・ベルツ編、菅沼竜太郎tr.『ベルツの日記』イワブンS26-9
 ※「第一部」上巻の途中まで。
 M9-11-3、パリ攻囲いらい聞かなかった規則正しい大砲の音。ビビる。天長節の礼砲を外国軍艦と湾内要塞が発射しているのだと分かる。なんと横浜から都内まで風に乗って上野まで聴こえてきたのだ。
 コルシェットは日本政府に、酒をコメからではなく大麦から造れと提案した。コメは輸出商品となるので、日本の貿易赤字を改善できるはずだから。
▼マレー・シャナハン著、ドミニク・チェン監訳『シンギュラリティ――人工知能から超知能へ』2016-2 原2015
 なぜ先進異星人が開発したAIがわたしたちの銀河をとっくに加工していないのか。
▼K・エリック・ドレクスラー著、相澤益男tr.『創造する機械――ナノテクノロジー』1992-2pub. 原1986
 「我々は、星から一人の外交使節も受け入れていない。たぶん、そこには誰も存在しないのだろう」。
 ※カーツワイルよりずいぶん早く、先師ドレクスラーが、地球人孤独説を唱えていた。
 ナノテクのアセンブラーと自動エンジニアリングが実現すると、「貿易」の必要はなくなる(p.233)。
 すると世界秩序はどうなるのか?
▼ジャレド・ダイアモンド著、レベッカ・ステフォフ編、秋山勝tr.『若い読者のための 第三のチンパンジー』2017草思社文庫
 ※2015の邦訳ハードカバーを文庫化したもの。
 全宇宙に高等文明は地球しかないなら、私たちにとってはむしろ幸運なのである。
 新大陸にも古代に馬はぎょうさんいた。ところがインディアンの祖先が侵入するや、あっというまに絶滅した。あらためてヨーロッパ人が持ち込むしかなかったのだ。
 大型のラクダ、ナマケモノ、ゾウも、インディアンが絶滅させたのだ。
 オーストラリアでも、アボリジニが侵入した直後に大型哺乳類はすべて絶滅した。
 ※著者はダーウィンの『ビーグル号航海記』から圧倒的なヒントを得ていると思う。しかしダイヤモンド先生としてはそれを素人読者に向けて再三強調する必要を感じていない。
▼小島直記『エンジン一代 ――山岡孫吉伝』S55-8pub.
 支那事変の水陸両用作戦で突如登場する「ヤンマー船」の正体が分かる本。あれはディーゼルエンジン搭載だった。
 蒸気機関は、サイズがでかいほどエネルギー転換効率が高い。大工場用蒸気機関は効率10%である。しかしそれを小型化すると効率が2%未満になってしまう。
 不況時には、大企業はこの点を利用して中小企業を壊滅させることができる。中小企業は石炭代を数倍も余計に負担しなければならないため大企業との競争は必敗なのだ。
 これがマルクスが『共産党宣言』で「万国のプロレタリアートは団結せよ!」と叫ばねばならなかった1847年頃のエネルギー構造。
 そこでルドルフ・ディーゼルは、小型でもエネルギー転換効率の高い機関を作ってやろうと志した。それによって社会的矛盾は緩和されるはずだった。
▼フランク・ウィルソン著、藤野・古賀tr.『手の五〇〇万年史――手と脳と言語はいかに結びついたか』2005、原1998
 ロビン・ダンパー(1947~)の説。人間は150人までの集団しか、きめこまかく束ねることはできない。
 これは歩兵中隊の規模と一致する。
 零細企業がもし120人以上に拡大すると、個人的面談より文書決裁やメモ伝達が多くなり、組織は非人間化し始める。
 馬と仲良くしたければ、口を利くよりも、手で触れるのがよい。もちろん笞はダメ。
 投球は右手でするのが自然。しかしバッティングはどっちでもいい。だからスイッチヒッターは珍しくない。スイッチピッチャーは珍しい。
 ※アマチュア軍は右投げ、左打ちで練習するのが有利ということか。
▼アンドリュー・パーカー著、渡辺・今西tr.『眼の誕生 カンブリア紀大進化の謎を解く』2006-3、原2003
 ガの体毛は、コウモリの超音波を吸収して反射を弱めるステルス素材。
 電気ウナギも突如出現したわけではない。微弱な電気パルスをソナーにして獲物を探していた、中間段階の魚類がいた。そこから、強い電気を防禦に用いるように進化した。
 葉の上で生活する甲虫は、半球形をしているものが多い。これは、どの方向から光が当たっても蔭ができにくく、それで生存率が高まる。しかし普通の甲虫のレイアウトを捨てて半球型となるためには非常な「再設計」のエネルギーとコストが必要だった。それを敢えて負担してでも進化する必要が彼らにはあった。それほど、光に満ちた環境はおそろしいものなのだ。
 オオグソクムシは、光が届かない深海に生息していたので、1億6000万年経っても、まったく進化しなかった。メキシコの海だろうがインドの海だろうが、同じ姿形なのだ。
 夜間、軽量級の貝虫が海水に漂っているとき、小魚が通過すると、航跡の撹乱に反応して発光する。その結果、小魚は、より大型の魚から目をつけられて捕食される。すなわち夜光虫である貝虫は反応発光することによって自衛ができるわけ。
 46億年前の太陽は現在よりも30%弱、暗かった。
             ◆  ◆  ◆
 「読書余論」は、主に軍事系の古本を、兵頭が注目した一斑の摘記や読書メモによって紹介し、他では読めないコメントも附しているものです。
 あまりに多すぎる過去の情報量の中から「兵頭はここは珍しいと思いました」というポイントだけ要約しました。
 大きな図書館に毎日通えない人も、最低費用で、過去の軍事知識のマニアックな勘所に触れることが可能です。
 また、ミリタリーしか読んで来なかった人には、他分野の情報が、何ほどか有益かもしれません。
 「読書余論」は、毎月25日に「武道通信」から最新号が配信されます。1号分の購読料は500円です。
 バックナンバーも1号分が500円で、1号分のみでも講読ができます。
 過去のコンテンツは、配信元の「武道通信」のウェブサイト
http://www.budotusin.net/yoron.html
 で、タイトルが確認できます。
 電子書籍ソフト対応の「一括集成版」もできました。詳細は「武道通信」で。
 「読書余論」は、2018年6月25日配信号以降は無料化されます(購読者登録だけが必要)。これから数ヶ月分の購読料をまとめて振り込まれる方は特にご注意ください。詳細は「武道通信」で。
 ウェブサイトでわからない詳細なお問い合わせは、(有)杉山穎男事務所
sugiyama@budotusin.net
 へどうぞ。