呼び水はいいが叫び水は困る

 Kris Osborn 記者の記事「Army Sends New Helicopter-Attacking Stryker to Europe – Counter Russia – 2020」。
  2018-5-7にDoD発表。第10海兵師団の第1砲兵大隊は、2017-6~10のシリアにて、3万5000発の155mm砲弾を射耗せり。これは、1個砲兵大隊が射ちまくった砲弾量としては、陸軍砲兵隊も含め、ベトナム戦争以降における、レコードである。
 1個砲兵大隊は18門だが、これが全門火を吹くようなことはなかった。最大でも6門だった。※おそらく3単位制で、18門で大隊、6門で中隊、2門で小隊か。
 海兵隊砲兵隊はシリアでは常に6門単位で、前線戦闘、整備、休養のローテーションをさせていた。海兵隊砲兵の牽引式の155mm榴弾砲は「M777」である。
 ラッカの五ヶ月、米海兵隊砲兵は、SDFクルド部隊を支援砲撃した。1門の十五榴が、平均して39発、1日に発射した。
 平均すればそうなるのだが、ある日には100発以上射っているし、ある日には数発なのである。そして陣地転換のための移動にほとんどの時間を使っている。クルド部隊が機動すれば、砲兵もそれについていかねばならない。
 かれらは2017年前半にシリアへ派遣された。
 GPS誘導のM1156砲弾を目一杯長い射程で発射することが多かったものだから、M777のふつうは2500発ある砲身命数が1000発前後で早々と尽きてしまい、2門の大砲は焼蝕磨耗した砲身の交換のために後送された。
 ※一定距離以内に対する砲撃ならば、無誘導砲弾でも精密打撃は可能なのだが、一定距離以上になると、弾着が散らばるようになり、無誘導砲弾では、いくら修正してもなかなか真ん中に当たってくれなくなる。そこでGPS誘導砲弾が頼られる。
 GPS砲弾は、砲兵隊の編制に見直しを迫りつつある。アフガニスタンでは、たった2門を分遣して砲兵大隊としての仕事をさせても、GPS砲弾が使える限りは、支援火力としてはもうそれで十分であった。
 ※GPS/INS誘導砲弾本位となるのなら、もはや野砲にも「ライフリング」の必要は無くなるかもしれない。さすれば初速と射程は増すし、砲身命数も劇的に延ばせるわけ。サボ弾だって使えるでしょ。余談ですが『戦火の勇気』の吹き替えで「SABOT」は「装弾筒」じゃなくて「徹甲弾」と親切に訳してくれなくては、視ている方が「ポカーン」だぜ。
 ラッカではGPS砲弾の要らない砲撃もあった。敵を一定時間、その場に釘付けにするためのエリア砲撃だ。
 軽量の十五榴はヘリコプターで遠くまでスリング吊下して機動させられる。そこで、遠隔のクルド部隊を機動的に支援してやるため、2門だけ分遣する、というオプションが簡単になる。
 ラッカでは航空支援が量的に十五榴の半分以下の精密攻撃しかしてくれなかった。だから海兵隊砲兵が支援の主役だった。
 2003のイラク侵攻では、海兵隊砲兵は総弾薬消費数3万4000発(1門あたり平均261発)だった。十五榴のみで。
 その前の湾岸戦争では、陸軍と海兵隊の十五榴は730門が投入され、それがトータルで5万発を発射している。1門あたり69発だ。
 湾岸戦争でも、2003年でも、1個砲兵大隊18門が、数千発以上発射してはいない。陸軍も。だから2017の海兵隊の砲兵大隊が、新記録を樹立した。
 シリアで得られた貴重な実戦データから、メーカーのBAE〔本社は英国だが米国内に支社を置く〕は、新砲身の砲腔内は全面クロームメッキすることになった。
 単価は高くなるが、砲身寿命が5割増しになる。2019年か、はやまれば今年中に、部隊に補給される。
 米陸軍と海兵隊がM777A1を受領開始したのは2007年だった。
 その大砲の単価は190万ドル。いまのところ1000門ぐらいある。うち、海兵隊が400門弱だ。
 リファービッシュ費用は1門あたり9万1000ドル。
 海兵隊は自走砲を持っていない。すべて牽引砲である。
 5トントラックで牽引する。新型で4.5トンの軽量牽引車LWPMでも牽引できる。
 M777はたったの4トンしかない。世界最軽量。※FH70は9.6トン。
 砲側員は5名。通常の砲弾は24km飛ぶ。RAPを使えば40kmまで飛ぶ。
 クルド部隊の中に米軍人の観測誘導チームがFOとして紛れ込んでおり、彼らが砲撃を要請する。彼らの双眼鏡にはレーザー測遠機とGPS座標表示機が組み込まれている。
 市街地のビルの中に1~2名の敵ゲリラがいるとする。40km後方からGPS誘導砲弾を2発、そのビルの座標に対して発射させると、誤差10mで2発の155ミリ榴弾が当たり、そのビルの問題は片付いてしまう。
 こうしてラッカ市は奪還された。