FSX騒動の真相がようやく呑み込めた新刊『主任設計者が明かすF-2戦闘機開発』に拍手。

 並木書房さんから出た快著。故人である三菱重工の神田國一氏の遺稿が陽の目を見た。
 T-2の主脚扉が飛行中になぜか吹き飛んだ事故。亜音速であってもエアインテイク回りから衝撃波が生まれることがあり、その反射のせいだと見当がついて、対策した。その20年後、FS-Xのためフォートワースで初めてF-16の実機を見せてもらったら、その脚扉には、明らかにはるか昔、同じ経験をして対策をしていたのだと思しい意図的なデザインが……(pp.46-7)。
 この下りに鳥肌が立つ。FS-Xは共同開発とはいいながら、GD社から日本側へは、「試験結果を含まない」資料だけが渡されていた。
 それはどういう意味なのかと想像すると、過去のいろいろな飛行機の開発と運用を通じて、米メーカーも米軍もいろいろな事故を経験している。それは「ネガティヴ・データ」集だが、それこそが米国のもつ知的財宝である。その安全対策として、長年、新しい試験項目がたくさん追加されてきたであろう。その試験項目が具体的に分かってしまえば、経験のない外国人技師たちにも、過去に何が原因でどんな事故が起きたのかという想像がついてしまう。それこそ、貴重知財の流出だ。だから「ネガティヴ・データ」独占のアドバンテージを守るために、試験結果(というより試験項目)を教えられないのであろう。
 しからば今の中共はサイバー・ハッキングによってこの「ネガティヴ・データ」を米国から盗取できているか?
 それはとてもできそうもないことも本書から分かるのだ。
 フォートワースでは、細部の技術的な資料は、「GD社の資料」としては整理はされていない。デジタルファイル化がされていないのだ。なんと、紙束、「ジャンク・ファイル」の状態で、属人的に、特定の技術者個人が、抱え込んでいるのだ(p.97)。
 どんなオンライン・ハッカーも、これを盗み取ることはできまい。
 それならば、シナ人スパイがGD/LM社員となって現場に潜り込んだら、技術は盗めるだろうか?
 それも無理であろうと察しがつく。
 GDの設計チームは、ひとりひとり、専任する仕事内容が異常に細分化されていて、隣の技師の担当業務には、誰も決して首を突っ込まない。仕事の境界を厳密に守る。「一人一芸」の集合体なのだ(p.87)。
 だから、もし支那人スパイが正体を隠してLMやボーイングの正社員となりおおせて米軍用機の開発チームに参加できたとしても、そこで何年勤続しようが、ついに「一芸」に関してしかノウハウは蓄積できぬわけだ。その知識をもって帰国しても、軍用機開発プロジェクト全体の指揮官は務まらぬわけである。
 マンハッタン計画が外に漏れなかったのも、隣の部門の所属技師と「交流」することが厳禁されていたからだった、という話を思い出した。
 FS-Xは日本にとって得だったのか損だったのか? 隔靴掻痒&的はずれなマスコミ論説ではモヤモヤ感が拭えなかった真相が、本書でハッキリする。
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 ストラテジーペイジの2018-12-14記事。
    11-25~12-7のNATO演習で米軍のLCUがアイスランド沖の悪天候のためえらい目に遭った。
 フィリピンにはしょっちゅう台風が襲来するので、新人パイロットを育成するのに必要な年に150時間のフライトがなかなか確保できない。
 ※空自がこの比軍パイロットのための訓練場を提供するべきである。実績のある海自の徳島基地でもいいだろう。なんでわが政府にはそういう発想ができないのか。有事には自衛隊機が比島に疎開できる。もちつもたれつだ。
 北鮮はSWIFTへのアクセス権を失っている。
 密輸を止めないのでその制裁として。つまり銀行間の国際決済ができない。
 孟晩舟が逮捕されたのも、SWIFTからはじきだされたイランの苦境を中共企業が助けようとした容疑である。これから北鮮はロシアの密輸業者に頼ることになるが、そのロシア人は国外において孟晩舟のように逮捕されるリスクに怯えねばならない。
 SWIFTが使えない以上、外国の港湾で北鮮の貨物船船長が現金を前払いすることによって64万1000トンの食糧を輸入しないと北鮮は来年、また餓死の巷に戻る。しかしたぶんそんな現金はない。
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 Robin Wright 記者による2018-12-13記事「The Loose “Shoot and Scoot” Missiles and the Threat to Aviation」。
        シリアでは反政府ゲリラがMANPADを使って露軍のスホイ25を1機撃墜している。イドリブ県で2月に。パイロットはイジェクトしたが地上で殺された。
 1978年にMANPADSでターボプロップの民航機が撃墜された事件があった。場所はローデシア。
 民航機がMANPADSで撃墜された初ケースであった。その5ヵ月後、またしてもローデシア航空の旅客機がMANPADS(man-portable air-defense systems)で撃墜された。
 肩射ち式対空ミサイルである。
 米国務省の特別班はこれまで39000基ものMANPADSを30ヵ国の闇市場から回収したという。
 それでもまだ世界で72以上のゲリラ・グループがMANPADSで武装している現実は変わっていない。
 1975年いらい、50機以上の民間航空機に向けてMANPADSは発射され、結果として世界で28機が撃墜されている。
 ただし南北アメリカ大陸に限っては、未だMANPADSが民航機に対して発射されたという事案は1件も報告されてはいない。
 1994年、タンザニアでの和平会議から戻る途中のルワンダとブルンディシの大統領が乗った航空機がMANPADSで撃墜され、それがルワンダにおいて50万人のジェノサイドを発生させた。
 2002年、アルカイダ系のゲリラが、ケニヤのモンバサ空港の近くで2基のSA-7(ストレラ2)を、イスラエルのチャーター旅客機(Bo757、乗客260人)に向けて発射し、ジープで逃走。ミサイルは2発とも外れたが、ケニヤ観光はしばらく回復できなかった。
 2011年のリビアの混乱で、カダフィ政権がストックしていた数千基のMANPADS(大宗は旧ソ連設計系)が闇市場に流出してしまった。
 2014年までに国連は、リビアにあったMANPADSが、チュニジア、マリ、チャド、レバノン、シリアに出現していると報告。
 2003年のイラク占領作戦の直後にも、サダム政権時代のMANPADSストック4000基が行方知れずになっている。
 この他、1機の露軍の輸送機、1機のトルコ軍のヘリコプターが、シリアでMANPADSにより撃墜されている。
 またシリア政府軍の航空機は2011年からこれまですくなくも12機、MANPADSで撃墜されたのではないかと米軍は見ている。
 2014年にシナイ半島では、ゲリラがMANPADSで1機のエジプト軍ヘリを撃墜した。
 1995のボスニアでは、仏軍のミラージュ戦闘機が1機、MANPADSで撃墜されている。
 MANPADSの最大射高は4900m以下。ヘリコプターと与圧のない固定翼機はこの高度より低く飛ぶので最も危ない。与圧のある固定翼機も離着陸時は狙われる。
 2014にISはMANPADSでセベラル機のイラク政府軍ヘリを撃墜した。
 MANPADSの射手は、水平距離にして3マイル離れたところから発射した例が多いそうである。
 拡散したMANPADを使えば全世界テロができてしまう。世界中で同時に民間空港の近くでMANPADを発射する活動を2週間続けるのだ。世界の経済は、麻痺するであろう。
 9-11の直後、パウエル国務長官がイスラマバードに飛んだ。パキスタン当局とアフガン戦争について話し合うために。
 記者(♀)はその飛行機に同乗していたが、下向きの見張り窓にはりついていた空軍の男が何か発見したらしくて、3分間で7000フィートの急降下をしたので驚いた。
 イスラマバードを離陸するときは、記者全員がシートに座る前から地上滑走が始まった。何しろ機体の青白塗装が目立つのだ。
 80年代、米国がアフガンゲリラに供与したスティンガーは、260機以上のソ連機を撃墜したそうである。
 1989からこんどはその余剰のスティンガーを現金で買い戻そうとした。予算は6500万ドルだった。
 けっきょく、スティンガーの元値の4倍額が、ゲリラに支払われねばならなかった。
 ラ米ではベネズエラがやばい。5000基以上のMANPADSがあり、政権はいつ崩壊するかも分からないからだ。ポンペオがCIA長官だった2017に上院公聴会でこれを力説した。
 ※AI時代には、闇夜に耳から聞こえる航空機の音だけを頼りに、ロクに狙わないで斜め上に向け発射しても、シーカーが無差別に空中目標を捜索して追尾するMNPADSが、実現されるだろう。
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 Michael Peck 記者による2018-12-14記事「The Navy Wants Swarm Weapons That Can Do Something Amazing」。
   スウォーム作戦に使うミニドローンはせいぜい30分しか内蔵バッテリーで飛べないだろう。その再充電をどうするのか?
 そこで、米海軍が、戦場で電力源を勝手に見つけて自己充電できるUAVを模索中。
 たとえば電線に止まり、誘導電流を取り込んで充電する。
  ※このアイディアはおそろしく古いぞ。1991年前後の英国製のSF系PCゲームソフトで、宇宙船のエネルギーを補給するためにときどき高圧電線に沿って飛行しなければならない、という枷のかかったものがあった。クソゲーだったので、すぐに中古屋へ売り払ったが。