「ダウン入り腹巻き」はなぜ売られないのか?

 ユニクロさん?
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 Linda Shiner記者による『Air & Space Magazine』誌の2019-4月号記事「F-35: What The Pilots Say」。
   航空ショーでF-22は下向きスパイラルをやってみせるが、テストパイロットのビリー・フリンは、スラスト・ヴェクタリングができないF-35でそれをやってみせた(於・パリ)。
 観衆からはヘリコプターの動きのように見えたことだろう。
 海兵隊中佐のデイヴィッド・バークは、テスパイではないが、職掌の関係で、空軍のF-22もF-35Aも操縦してきた。
 今の戦闘機にとって最も重要な性能は? 百人のパイロットに訊き給え。百人が答えるだろう。「シチュエーショナル・アウェアネス」〔自機の周辺で何が起きているか、味方と敵は何処なりや、その敵の正体は何ぞ、脅威はどこから迫っているか……が把握できること〕だ、と。
 「旋回半径です」などというパイロットはただの1人もいやしないと断言できるね。
 近傍の敵情をリアルタイムですばやく把握できるなら、キミは敵をあしらうための最善の決心が随意に、余裕綽綽でできるわけだ。
 この「近傍情況把握性能」にかんしてはF-35はF-22を凌ぐ。
 ステルス性は、F-35といえども、漫然と飛ぶだけだと実現できない。頭を使って飛ぶ必要があるのだ。その面倒な工夫は離陸の瞬間から始まる。
 だからF-35パイロットが考えなくてはならぬことは山ほどあり、F-18の比ではない。
 スーパーホーネットのパイロットは、離陸の瞬間から敵レーダーにまる見えだと思って問題ない。したがって、ことさら、ステルス飛行に心掛けても無意味なわけだ。
 F-35は、敵レーダーに対する飛び方を工夫すればするほど、ステルス性が向上する。だから、新米パイロットよりも、ベテランパイロットの方が、飛び方が巧妙になり、敵からはみつかりにくくなる。
 訓練飛行の度に、被探知の具合を確かめ、反省し、勉強し、工夫を積み重ねて行くことが求められるのだ。
 こんどはステンスラド海軍中尉の証言。
 ディスプレイがパイロットに呈示してくれる情報の多さがすばらしい。しかも、パイロットを混乱させないように、目下いちばん大事な情報は何かをAIが選んで、それを強調してくれている。
 わたしはフライトゲームも楽しむ者だが、既存のいかなるゲームソフト開発者も、このF-35のディスプレイの機能をほとんど想像し得てはいない。だからF-35を操縦して、まず一驚しないパイロットなど、この世にはいないだろうね。
 F-35の3バージョン全部を操縦した元テスパイであり、短距離発進→超音速までの加速→垂直着陸の流れを初めて試して成功させた、海兵隊のアーサー・トマセッティ大佐の証言。
 3バージョンともマッハ1.6まで出せるのだが、正規空母用のC型は翼面積が最大であるゆえ空気抵抗もあり、そこまで加速するのにはちょっと手間がかかる。
 しかし概してF-35はすんなりと音速に達するので、他の操作に集中していた場合には、パイロットは、超えた瞬間を気づかないかもしれない。そのくらい、なめらか。
 エドワーズ空軍基地を離陸して、干上がった広い湖の上で超音速を出せるか試す……。これって昔チャック・イエーガーが最初にやったことだから、開発中のF-35で初めてそれを再現する乗り手として若い私(当時少佐)が選ばれたことは光栄だと思っていますよ。
 感銘を受けるのはやはりフライバイワイヤ。パイロットの操縦意図を、最適の操縦信号に変換してくれるのですが、毎回、それが違うのです。つまりAI並に進歩している。
 かりにF-35の操縦用の舵のひとつが敵弾のため破壊されたとしましょう。従来の戦闘機ですと、飛行制御ソフトは、その破壊された舵が依然として正常そのものであるかのように、操舵信号を送り出すはずです。それしかできないんだ。ところがF-35のソフトは違う。舵がひとつ破壊されたことをすぐにコンピュータが知覚し、その破壊された舵の機能を他の舵等で補うにはどうしたらよいかを考えて、操縦信号をたちどころにアレンジしてくれるのです。
 初めてF-35Bに乗るパイロットたちをひとりずつ、私が教導していっしょに飛び、着陸します。
 飛行機をおりてきたパイロットは、バイザーを上げるや、例外なく、ニッコリとします。そこでわたしは尋ねる。「着陸を練習する必要があるかい?」 答えは必ず「その必要ないですね」。
 F-35Bは、新米パイロットでも楽々と垂直に着陸させられるという点で、じつに革命的な戦闘機です。
 これがハリアーでしたら、とてもこうはいかない。ホバリングするための、たいへんな練習時間が必要。特に横風のあるときには大苦労。
 F-35Bには、空中の任意の一点で静止させるコマンドがあって、そのモードになったときは、キャノピーの縁の線より高く、パイロットの両手を挙げて見せ、両手が操縦桿/スロットルから離れていることを地上員に対して示す。ハリアーとはもはや別次元の自動化です。
 空軍のF-35教官、ウェツバーガー少佐の証言。
 彼はストライクイーグルから機種転換した。
 まさにマニュアルシフト車からオートマ車に乗り換えたようなもんですよ。
 ちなみに父はF-4の操縦者でしたが、《ジェット機なんてみな同じだから、機種転換を恐れるでない》と常々申しておりましたっけな。
 F-15Eとの顕著な違いは、F-35Aは、大仰角(high-AOA)時にも機体制御が容易であることです。
 F-35には敵防空網の制圧が期待されています。そこで空軍の訓練は、SAMがやってくる方向に早く気づくこと、編隊僚機をいかに守ってやるか、離陸前に命じられていた地上の破壊目標〔たとえばレーダー車〕に対する兵装発射とECM、帰還途中での空戦に集中される。
 やることはストライクイーグルと違わないが、機材がとにかく別次元。
 訓練を重ねると、半年毎に知見のレベルが一段、上がり続ける。戦術もアップグレードし続ける。
 訓練生にはこう言い聞かせる。「ゆっくりやればスムースにできる。スムースこそが早道也。」
 最初はゆっくりでいいからいちばんプライオリティの高いことを確実にやり遂げろ。それを実行し終えてから、次のプライオリティへ行け。これが、編隊に貢献する道である。やっているうちに、どんどん早くできるようになるから。
 ロッキード社のチーフテストパイロットだったジョン・ビースリー。
 テスパイ出身でレーガン政権の国防次官になったジャック・クリングズから言われたものだ。「空戦とは常にステルス問題であった。WWIの戦闘機も太陽に隠れようとした。なぜなら、敵からは見られたくなかったからだ」。
 ※高緯度のドイツでは夏でも太陽高度が日本の冬よりも低い位置にある。したがって、太陽に隠れるために、敵編隊よりもやたらに高度を上げる必要はなかったわけだ。このことは日本で暮らしているとなかなか想像ができないのである。
 F-117は平面だけで構成する必要があった。なぜか? 1970年代の設計支援コンピュータのパワーが小さかったため、曲面構成にすると、反射の最小化・最適化の設計がとてもできなかった。計算を単純にする必要があったのだ。しかしF-22以降は、設計コンピュータのパワーが上がったので、曲面にしてステルス効果も追求できるようになった。
 航空ショーでロシアの戦闘機が曲芸もどきをやってくれる。あれは選ばれたパイロットだけができることだ。それに対してF-35は、新米パイロットが、大迎え角での曲技を楽々とこなせる。この大違い。
 英空軍のF-35B編隊長、アンディ・エジェルの証言。
 昨年エジェルは『クイーンエリザベス』の飛行甲板に、F-35で艦尾向きに着艦してみせた。
 機種転換する前はハリヤー乗りだった。アフガニスタンでの実戦経験もあり。
 なにしろ両手放しで着艦できるので、ハリアーとは比較になりませんや。
 乱暴な操縦も、機械の方で受け流してくれる。マッハ1.2での無理な蛇行飛行を試みても平気。
 急上昇に入りつつラダーも操作するというテストをしていたら、6G近くかかったために、ラダーの踏み変えができず、焦った。足がGで押し付けられてね。足が動かせなくなったら、そこで機動の意図を中断するしかない。
 F-35ぐらいコンピュータ化されていると、飛ばしていても面白くないのではないか、と人々は想像するだろう。逆だ。こんなに飛ばすのが面白い機体はないよ。
 とにかくエンジンパワーが段違い。高度5000フィートで角度70度のダイブからスティックを一杯に引き、50度の上昇姿勢に転じた。あっというまにそれができてしまう。われながらこんなに驚いたことはねえ。
 逆向き着艦は何のために試したかというと、空母の機関がやられて漂流しており、なおかつ、艦尾が風上であるという、悪い情況を想定したわけだ。
 ところがこれが、ガッカリするほど、簡単にできてしまった。
 米空軍の飛行中隊長、モリス中佐の証言。
 F-16からF-35にコンバートした。
 F-35は敵のSAMが飛んでくる方向をパイロットに教えてくれる。
 この飛行機ぜんたいが、巨大なアンテナと同じだ。
 レッドフラッグ演習では、味方が70機、敵が20機出てくる。F-35のディスプレイはそれを全部示してしまう。そこでパイロットの仕事は、とりあえず必要がない情報を表示させないようにする(デクラッター)こと。このスキルに習熟しなくてはならんのだ。