灯台もとクラッシャー

 Loren Thompson 記者による2019-4-22記事「Army Secretary Reveals Hidden Defect In Modernization Plans」。
    陸軍長官のマーク・エスパーは、陸軍のチヌークのアップグレードをしないと述べた。他に予算を回さねばならぬからだという。そうなると、HMMWVの後継車である軽装甲車、JLTVをCH-47でスリング運搬する望みは当面、なくなるわけだ。
 アップグレードをすぐにしないのならば、ボーイング社のフィラデルフィア工場のチヌーク組立工2000人は解雇される。将来、アップグレードすることとなっても、すぐには組立工は揃わない。ラインを再立ち上げするコストは安くはならないだろう。
 エスパーには立派な論拠がある。JLTVは重すぎてヘリ輸送に適さない。重くなっている理由は、イラクやアフガニスタンでゲリラが多用するIEDから乗員を防護するため。だが米軍はもう中東からは足抜けする。そうなると米軍の次の脅威の性格を考える必要がある。相手は中共軍かロシア軍になるだろう。シナ軍もロシア軍もIEDを多用しないだろう。ゆえにJLTVをリフトできるヘリは、次の戦争でどうしても必要だとはいえない――となる。
 この情勢観測、マティス長官名で2018に作製された部内文書「国家防衛戦略」に色濃く投影されていた。次の相手はイスラムゲリラではなく、ロシア軍やシナ軍だと訴えていた。
 マティスは馘になったものの、当該部内指針が揺らぐことはなかった。
 チヌークの意義とは、ながらく、野砲と中型トラックを運搬できることであった。が、とつぜん、それはプライオリティではなくされてしまった。
 現状、陸軍の回転翼機は民間技術よりも遅れてしまっている。民間では普通になったフライバイワイヤが、陸軍ヘリでは未採用なのだ。基本、冷戦時代のアセットなのである。
 他方で陸軍は巨額の無駄遣いを重ねてきた。2002年、陸軍は「クルセダー」自走砲システムの開発をキャンセルした。それまでに30億ドルも投入した計画だった。
 その翌年、陸軍は、新世代の対戦車ロケット弾の開発をキャンセルした。それまでに20億ドルが使われていた。
 さらにその翌年、陸軍は新偵察ヘリ「コマンチ」の計画をキャンセルした。すでに60億ドルが投じられた後であった。
 そのかわりに優先開発することになったのは、ネットワーク化された「フューチャーコンバットシステム」なる新AFVファミリーの構想。210億ドルを突っ込んだ末、2009年にキャンセルされた。
 他にも、障礙物突破作業車グリズリー計画(3億ドル)、空中共用センサー(5億1500万ドル)、コマンチ代案の武装偵察ヘリ構想(5億7500万ドル)が、皆ドブに捨てられている。
 この既往を見れば、エスパーの将来戦に関する現今の信念も、2年後にはどうなっているかは誰にも分からないと想像されよう。たとえば、たった一度、大がかりなテロ事件でも起きれば、またぞろ陸軍は中東やアフリカの対ゲリラ戦に引き戻されるのではないか? 一夜にして。
 これに比して海兵隊の近代化のアプローチは陸軍とは違い、参考になる。彼等はあらゆる紛争を最初から想像し、そのすべてに自分たちは対処するのだと考えて、堅確に近代化計画を推進している。
 海兵隊の最新の重輸送ヘリ「キングスタリオン」は、JLTVを吊り下げて100マイル飛行することができるのだ。
 ※だったら陸軍もシコルスキー社のキングスタリオンを買えばいいじゃん――という結論にはしないのが、このローレン・トンプソン氏の大人の事情。所属するシンクタンクにはボーイング社のお金がたっぷりと振り込まれているのだ。
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 Maritime Security, News の2019-4-22記事「Russia decides to scrap its legendary nuclear-powered battlecruisers to save money」。
    イズベスチヤ紙によると、ロシア海軍のキーロフ級核動力巡洋艦『アドミラル・ウシャコフ』および『アドミラル・ラザレフ』(旧名『フルンゼ』)は2021年にスクラップ化される。
 資金が足りないため、国営ロスアトム社が、延命改修しないことに決めた。2014時点の計画では延命工事する予定だった。
 旧ソ連は米空母艦隊にキーロフ級で対抗しようとした。副次的には、北米から欧州に大兵力が海送されてくるのを途中の洋上で阻止――通商破壊作戦のようにして――させることも考えていた。
 キーロフ級3番艦の『アドミラル・ナヒモフ』と4番艦『ピョートル・ウェリキー』は2021年以降も残る。
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 Gil Barndollar and Tyler Marchetti 記者による2019-4記事「The Marine Corps Needs Warrant Officer Pilots」。
     陸軍の下士官パイロットは、二等兵~上等兵の兵隊時代を体験しているので、地上部隊の目線を持っている。これは特に偵察ヘリ「カイオワ」の操縦者と地上部隊の連携に資するところが大であった。
 下士官から航空兵への転科ができることは、陸軍で有能な下士官が長く軍隊内にとどまるひとつの誘引になっている。海兵隊にはそんな人事融通が無いので、有能な下士官がどんどん離職してしまう。
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 Liu Zhen 記者による2019-4-22記事「China’s navy expands marine corps into own unit ‘to defend maritime interests’」。
     昨年、米国内シンクタンクのジェイムソン・ファウンデーションは、中共軍の海兵隊が2個旅団から8個旅団(4万人)規模へ増勢されるであろうことを推定した。
 今月の中共海軍の公式SNSによれば、同海軍では、潜水艦を筆頭の位に置き、ついで水上艦、ついで航空機、ついで海兵隊、さいごが沿岸防備部隊、としている。