船の水線上に吸着させる爆薬は、ただの「磁石爆弾」にすぎない。ありふれたテロ道具ではないか!

 自動車に乗ったイランの核技師を爆殺するために、イスラエルの工作機関員が、通勤途上で信号待ち中の乗用車に後ろからオートバイで近づいてさりげなく貼り付ける、短時限爆弾。そのタイプの大型版に過ぎぬとは、恐れ入った話だ。あれのどこが「リムペット」じゃ? 米軍の道路破壊用の成形炸薬に永久磁石をとりつけたというレベルだ。地場のテログループが、特攻自爆ボートで死ぬ若者をリクルートできなくなったのが背景なのか?
 しかし今回の事件は、テロ勢力に新ヒントを与えた。
 標的とする艦船に小型ボートで近づき、船体の中央部よりも前よりの、水線上に「改良型電磁石爆雷」を貼り付ける。10分以内に電磁石の電源電池が切れて爆雷は水中へ落下。水圧センサーにより、深度7~10mまで沈んだところで轟爆する。水圧の力も加勢してくれるので、水線上の密着爆発よりも、標的艦船に与えるダメージは大きくなる。成形炸薬でなくとも、大型タンカーの船底の外板には破孔が開き、多重区画のおかげで油漏れこそしないが、航海は続行し得なくなり、長期のドライドック入りを要する修理の費用と逸失利益は巨額に……。つまり海運会社と荷主と保険会社にとっては、とても痛い。
 「磁石爆弾」と違い、必ず水中に落下する仕組みだから、万一不発におわっても、物証が米軍に確保され難い。
 かつまた、IED対策用の「妨害電波」も、この仕組みならば、無効であろう。
 船員が、舷側にこいつが貼り付けられているのを発見しても、竿でつついて落としてやるわけにはいかない。なぜなら落水後の水圧が起爆の引き金になるからだ。爆発前でも、急いで船から総員退去する他にない。したがって、二、三度、ホンモノが使われた後では、《フェイク爆雷》も流行する。
 西側各国の「消防艇」には、これから新工夫が必要になる。未発の磁石爆弾(または電磁石爆雷)をケミカルタンカーの舷側からこそげ落としてやるための「ウォータージェット」だ。鉄板も切断できるやつだ。
 消防艇から長いホースでつないだ、小型の無人水上ロボット船を、対象船の舷側まで派出し、ロボット船に装備された噴射ノズルを本艇から遠隔操作して、細い強力な水流を下から接着面に当て、剥がし落とす。
 舷側下には「浮き」のついた網を張り、落下した爆発物をキャッチする準備をしておくことは、無論だ。
 次。
 ストラテジーペイジの2019-6-14記事。
    フーシがサウジのアブハ空港に向けて5機の爆発物搭載のUAVを放ったが、すべて撃墜された。
 イエメンでゲリラが放っているミサイルやUAVはイラン製であると、国連も認めている。
 イランは5月からタンカーの運航妨害を開始した。
 5月15日にペルシャ湾で4隻のタンカーが小被害を受けた。これは、訓練用の魚雷を使って、敢えて大破をさせないように狙った可能性が考えられている。
 6-13の2隻は、爆発が起きたのが、ペルシャ湾のすぐ外。オマーン湾。
 オマーン湾は急に海が深くなるので、海中に沈んだものは証拠として拾われ難い。
 これがペルシャ湾内だと、水深が浅いので、UUVで海底を捜索させれば、大抵の物証は見つけ得る。魚雷なのか機雷なのか等。
 イランの動機。
 イランの宗教独裁政権は国民から不人気なので、米国やアラブ湾岸諸国政府との間の国際緊張を起こすことで、自国内世論をひとまとめにしたいと念じている。
 世界があまり平和だと、民衆によってイラン政府は打倒されてしまう。それが困る。
 米国の経済制裁のおかげでイランは原油を輸出しにくい。ペルシャ湾でタンカーが攻撃されると、この海域に入るすべての商船の保険料が値上がりする。しかし貿易がとっくに縮小してしまったイランには、それによるダメージは少ないのだ。
 6月12日のフーシによるアブハ空港(サウジアラビア南西部)攻撃は、建物を直撃しているので、弾道ミサイルではなく、巡航ミサイルを使ったことが確実である。複数発が命中した。
 入院した人8人。その場で手当てを受けた人18人。
 穴の空いた天井は、すぐに塞がれたという。
 シーア派ゲリラが巡航ミサイルを用いたのはそれが初めてではない。2017-12に、UAE内の原発建設工事現場に、巡航ミサイルが着弾している。
 しかしUAEはその攻撃事態が無かったことにしたいようだ。厳しく報道規制されて、ニュースにはならなかった。
 2017-12-3に、複数発射された巡航ミサイルの1発が、途中の砂漠に落下している。その1発は、UAEまで届かなかったのだ。
 フーシが手にしている巡航ミサイルとは、旧ソ連のKH-55空中発射巡航ミサイルを、冷戦後にイランがコピーした製品である。
 イランは2001年以降、ウクライナからこれを調達できた。そして2005年までにリバースエンジリアリングして、地上発射型の巡航ミサイル「ソウマー」を国産した。
 2000km飛ぶと宣伝されたものである。
 2019年にイランは、「ソウマー」のアップグレード型として、さらに信頼性を高めた「ホヴェイゼー」巡航ミサイルを完成する。レンジは1300kmだという。
 オリジナルのKH-55は、全重1.6トン、長さ6m、径514ミリ。小型のジェットエンジン付き。要するに米国製トマホークをソ連が模倣したシロモノ。1981年から製造された。
 イランからイエメンに武器を届けるとき、3トン以上ある弾道ミサイルは船に隠し難いが、このサイズの巡航ミサイルなら、どこにでも隠せる。もちろん、バラバラにして輸送するのである。
 シリアの内戦でも、イラン製巡航ミサイルは使われている。
 アブハ空港での破片残骸を集めて解析すれば、その製造元は判明するだろう。
 6-9にもフーシは無人特攻自爆UAV×2機を、サウジのジザン空港へ向けて放ったが、いずれも探知され撃墜された。
 5-14、フーシは複数の爆装UAVを使い、紅海の石油積み出し施設に通ずるパイプラインのポンプ・ステーション2箇所に突っ込ませた。炸薬量が少なかったのでほぼ損害がなく、石油輸出は阻害されなかった。
 ※サウジと米国を挑発したくてイランは必死、というところか。