(2016年7月24日に旧兵頭二十八ファンサイト『資料庫』で公開されたものです)
(兵頭二十八先生 より)
2016年7月13日に室蘭港の岸壁でDDH『いせ』の中を見せていただけるというので朝からやって参りました。
Dというのは駆逐艦デストロイヤーのことで、Hというのはヘリコプター運用艦を意味します。
Dを二つ並べるのは、一つだと聞き間違えがあるので、重ねたまでと思います。
たとえばBBは戦艦バトルシップ、SSは潜水艦サブマリンです。米海軍の流儀です。
軽車両を出し入れできるランプが見えています。
『おおすみ』だと岸壁の高さにアジャストできるのですが、本艦にはその芸当はできません。
アイランド(艦橋)が右寄りにある空母は、岸壁に必ず右舷を接舷すると決まっていますため、左右対称の軍艦よりも入港や碇泊では制約が多くなります。本艦の、左絃へ余計に張り出している飛行甲板を岸壁から撮影することも、したがいまして無理です。
前部の航空機用エレベーターです。
後部の昇降機ですとSH-60のローターを畳む必要がないのですが、こちらはサイズが小さいので、畳まないと載りません。
格納甲板です。
いちどにヘリ10機ぐらい収容できる広さです。見てのとおり「柱」がないために、中央寄りの天井の構造は、上からの荷重に弱い。SH-60の重さにまでは耐えてくれますけれども、チヌークや掃海ヘリは中央部分に降りてはいけません。
前部エレベーター上から艦首方向を見ています。昇降機エリアを囲繞する鉄柱とロープの柵は、機械駆動によって出てきたり引っ込んだりします。この動きがムダに格好良くて惚れ惚れします。
前部エレベーターから艦尾方向を見ています。アイランドが高い。飛び降りたら命に係るでしょう。ちなみに旧海軍の空母『飛龍』(17300トン)は全長227m×飛行甲板幅27m、軽空母『龍驤』(8000トン)は全長180m×飛行甲板幅23mでした。本艦『いせ』はその中間サイズ(13950トン、全長197m、飛行甲板幅不明、船体幅33m)です。『赤城』ですら飛行甲板幅33.5mだったのですから、昔の軍艦の窮屈さに、改めて感じ入りました。
前部エレベーターの深淵を覗きました。本艦には舷外エレベーターというものはありません。耐候性を重視したのか、まだ実験段階だからなのか……。航空機用昇降機の他に、弾薬用や貨物用のそれぞれ専用エレベータも複数、あるようでした。
艦橋から前方を眺めるとこんな感じです。
艦橋から右舷を眺めたら、廃用された「北斗星」の客車が並んでいました。
第二煙突後方の後部アイランドの航空機発着艦管制室内から艦尾を見たところです。ヘリの着艦目標である「逆さ《不》の字」が二つならんでいますが、外舷寄りがオスプレイ専用スポットです。飛行甲板から水面までですら25mぐらいもあるそうで、もはや高飛び込みなんてもんじゃないレベルになってます。正規空母だともう想像したくないですね。
同じく管制塔から艦尾を見ています。軍艦旗の横にVLS(16セル)が見えます。本艦にはRAMがないので、超音速対艦ミサイル迎撃は、このVLSからのスタンダードミサイルを頼りにするのでしょう。遠方の吊橋は「白鳥大橋」でしょう。ついでながら、室蘭の水族館はコンパクトながらいろいろなものがあって、まさにファミリー天国になっていて、感心しました。
見えにくいんですが、右手にボイスレコーダーが4つ、設置されています。この管制塔から同時に4機のヘリと交信しなければなりません。そのすべての交信は、この機械が記録して、万が一の事故等の調査に役立てられます。前方艦橋の発令所と違って、航空管制室内での会話が録音されることはありません。
後部アイランドは、艦首方向の視界も得るためにすこし張り出しています。思ったのですが、アラスカ等の原生林地帯で川岸の空き地を使ったりして自在に短距離離着陸している巨大タイヤの高翼単発レシプロ改造機があるでしょう? あれだったら碇泊中でもこの甲板から運用できますよね。この広さなんだから。
『いせ』食堂のホンの一隅でございます。軍艦の食堂は乗員の三分の一のキャパシティを標準にしているそうですが、そうしますと、将校を除いてざっと100人ぐらい? 鉄柱には、荒天航海中に頭をぶつけても痛くないように、組紐みたいなものが巻いてありました。潜水艦ではないですが、厨房では生火を用いず、スチームと電気のみです。本艦の艦内照明はLED化されていません。大爆発があっても消えにくくて、しかも省エネなのですけどね。予算がもらえなかったそうです。
艦首の近接ミサイル迎撃用の全自動ガトリング砲です。カタログではもう1門どこかにあるはずなんですけど、それがどこなのか、ちょっと見出せませんでした。これ、近寄ってみたら、なんか碇泊中なのに通電していてウィンウィン唸っていまして、『ロボコップ』の誤認射撃シーンを連想して怖かったです。しかし、こいつが旋回するときには、写真でも小さくみえる「21番砲塔旋回警報」というベルが鳴るそうですから、そのときに甲板に伏せたなら、被弾は免れるでしょう。
室蘭港を一望できる「測量山」展望台からの眺めです。レンズのキレの良いカメラなら、左の方に『いせ』が見えるのですが、わがコンパクトカメラでは無理でございます。室蘭は地形的には天然の良港ですけれども、朝に霧が出るのが、軍港としては難があったみたいで、けっきょく北方の軍港としては大湊が栄えました。
その測量山の頂上直下には、こんな旧陸軍要塞の観測所の跡が遺されていました。まだまだあるものなんですね。
(管理人 より)
横須賀に遊びに行った時、自動車の窓から海上自衛隊の艦が見えて『でけえなぁ』と感嘆したものだが、その時見たものよりもたぶん遥かに大きな『いせ』である。
『戦艦大和を引き上げて観光名所にしたら良い』とTVで誰かが言っていた。絵になる艦は観光名所になる。
(とはいえ、私は観光地は中心の『物』ではなく、周辺の飲食店等の配置が重要だと小田原城を見て思ったけれども)
海外旅行や地元福岡、そして関西、今住んでいる関東でも私は軍港に一度も行った事がない。せっかく関東に住んでるので今度自衛隊のイベントにも足を運んでみようかと思った。