1階の怖さ。

 Alexandra Witze 記者による2020-7-6記事「How humans are altering the tides of the oceans」。
     ユトレヒト大学のポスドクであったタルケ氏は2000年代なかば、オランダのエムス川について調査していた。数十年前、この川底を深く掘る土工がなされて、新造船がドイツまで遡上できるようにされた。

 ところが浚渫をしたことで潮汐パターンが変わってしまった。干満差が、120年前と比べて、5倍になってしまった。

 げんざいカリフォルニア州立ポリテクニック大学の海洋学者であるタルケいわく。じつは潮汐は、いとも簡単に変化するものであったのです。

 そして変化の原因が、人類による土木工事であるという場合もあるのです。
 潮汐パターンの変化は、ごく小さなケースもある。しかし、沿岸に住んでいる人々は何百万人だから、どんな変化だろうと、人々への影響は、大きい。

 1899年、エムス川下流の浚渫をした技師たちは、仕切り堰よりも上流へ遡上する満潮波が強くなるであろうことを予測していた。しかしその予測以上に、満潮波はもっと大きくなった。

 月や太陽が地球におよぼす引力のパターンは短時間で変わるものではない。しかし河口地形が変われば、潮汐への影響はてきめんに現れる。特に、満潮時に河口から遡上する波に。

 ノースカロライナのケープフィア川も1880年代に浚渫されたのだが、その結果、中流のウィルミントン市で観測される干満差は1.55mになった。浚渫以前の2倍だ。
 同様の現象は、フロリダ州ジャクソンヴィル市が面するセントジョンズ川についても観られる。

 加州のサクラメントでは、1800年代後半に、満潮遡上波がなくなってしまった。ゴールドラッシュでズリ石が川に捨てられ続けたためだった。
 そののち、河筋を浚渫したところ、サクラメント川には満潮波が復活した。

 ロンドンを貫流するテムズ川も、何世紀にもわたり、狭く、深く、改修工事されてきた。結果、ローマが支配していた時代に2mだった干満水位差は、ヴィクトリア時代には8mになっていた。

 地形によっては毎日11mもの干満差が生ずるところもある。たとえばカナダのファンディ湾。

 2016にタルケは予測した。ケープフィア川を浚渫して深くすると、カテゴリー5級のハリケーンが来たときにウィルミントン市は1.8mの高潮にみまわれると。
 2018にカテゴリー1のハリケーンが実際にウィルミントン市を襲った。満潮線を1.1m上回る高潮となった。