Vikram Mittal 記者による2020-8-17記事「Why Military Exoskeletons Will Remain Science Fiction」。
SF作家ロバート・ハインラインの『宇宙船の海兵隊』がアイディアを描示して以来、着用した兵士たちの身体機能を倍化してくれる個人用ロボティック装甲スーツ(エクソスケルトン)を実現しようと、幾多のメジャー軍需企業がこれまで開発にチャレンジしてきた。
だが、累々たる失敗作の山だけが、築かれた。
去年も、TALOSというプロジェクトが、スピンオフの成果だけを残して、打ち切られた。
難関のひとつは、着用者の運動意思を、エクソスケルトンの側でどのように受信して、遅滞無く反応がなされるようにし得るのか。すなわち、ふさわしいセンサーの開発。
難関のふたつめは、アクチュエーター。膝部分は、旋回軸が1個で、単純だ。しかし、腰や足首となると、軸が1個では足らぬ。最新の技術でも、多軸のアクチュエーターを、きびきびと広範囲に制御することは、なおまだ両立させ得ない課題なのだ。
さいごの難関は、動力源。小型オートバイくらいのパワーが、エクソスケルトンには必要なのだ。だが内燃機関はやかましすぎるし、燃料電池は発熱する。既存の電池は重すぎる。しかも、どれも、自爆や発火の危険があって、生身の着用者を敵前でプロテクトしようという大目的に反してしまう。
補綴人工器官学の分野では、バイオメカニカル・センシングの研究が続いている。民需用の小型高性能モーターも進歩し続けている。電池分野でも同様だ。
これら技術が飛躍的に進歩し、難関が乗り越えられたとしても、軍用エクソスケルトンの未来は薔薇色ではない。
軍事史を見よ! フルアーマーの仏軍騎士たちが、アジャンクールで英軍の徒歩弓兵のために惨敗させられたではないか?
装甲が進歩するならば、敵が有するぺネトレーターの方だって同様に進歩するわけである。
※アジャンクールについては『武器が語る日本史』を参照して欲しい。話は単純ではないのである。
戦史は、軍事技術の評価は「補給」と「敵」次第だと教えてくれる。
エクソスケルトンは兵士各人にフィットさせねばならぬ。兵員数が何万にもなったら、調達と補給は、それだけでも難事業だろう。
ユーザーの身体にマッチしないアクチュエーターや人工関節は、そのエクソスケルトンを戦場で無価値化するというのみならず、逆に着用者を殺してしまいかねない。
複雑なエクソスケルトン技術は、その複雑さに比例して、敵に、さまざまな「攻め所」を進呈するはずだ。
おそらく、最大の弱点は、中味が生身だというところにある。
コミックスの『アイアンマン』では、どんなに激しく投げつけられぶつけられても、中味の人間は無事だ。しかし、内部に伝わる加速度ショックを魔術的に消去する方法でもない限り、大型生物である人間が、ある程度以上のGには耐えられないという特性は、変わりはしない。
つまり、外骨格スーツが爆圧衝撃に無傷で耐えたとして、揺さぶられ、遠くの地面に叩きつけられた中味の人間が生きているという保証は無い。
論理的な結論は、戦場では「エクソスケルトンの外側に人間を出しておいた方がいいな」ということになるだろう。だったら、外骨格装甲なんてものじたいが、無用なわけである。
※人間の「五感」を増強してくれる、センシングに特化した補助装具。重量物を持ち上げるときだけ役に立つ作業補助機械。対人地雷から下肢を保護してくれるブーツ。こうした、民間主導で既に商品化されているアイテムを、バラバラに末端部隊で利用するのが、いちばん合理的な道なのだろう。