地政学懇話は月例化します。

 ローカル企画ですので、宣伝はいたしません。
 こんかいと同様にやります。
 来月は、10月21日(水曜日)を予定します。
 予定に変更なき限り、前日・当日まで、特に告知もしません。

 前後の宴会等はありません。8時キッカリ解散です。

 なお、飛び入り参加者は、ごじぶん用の軽食(サンドウィッチとコーヒーのようなもの)をご持参くださるとよいでしょう。そのゴミは、お持ち帰りいただきます。

 次。
 Will Douglas Heaven 記者による2020-9-23記事「We’re not ready for AI, says the winner of a new $1m AI prize」。
    レジナ・バージレイは、このたび「Squirrel AI Award」の最初の受賞者に撰ばれた。
 もともと自然言語の生成の研究をしていたが、2014年に乳癌手術を受けた後に、研究方向を変更。
 癌を発見したり新薬を開発するアルゴリズムをマシンラーニングさせる仕事に没入している。

 スクィレルAI社はシナ企業である。そこが100万ドルの賞金を設定した。数学界のチューリング賞とおなじぐらいの額にしないと、ノーベル賞なみの権威は生じないというので。

 電気が普及しはじめた初期、人々は、どうしても、蒸気エンジンのそのままの代替物として、あたらしい電力エネルギーを捉えようとした。これと似たパターンを、もっかの現代人は、AIについて、繰り返しているさなかだと言えます。

 AIは、回答をまちがえた場合の損害がおおごとになるような分野で、伸長しています。
 たとえば、ネットの自動翻訳レベルの世界だったらば、ひとつの誤回答が提示されても、ユーザーは、次の別の回答を探しに行くだけ。
 ですが、このユーザーがもし、患者のための診断や療法を調べている医師であったなら?

 こんなに多くの乳癌患者が米国には居るというのに、研究者がその巨大データ〔主にマモグラム写真の山〕にアクセスできるようには、全くなっていなかった。2014年時点では。

 健康診断で撮像された「乳房X線写真(マモグラム)」をドクターが肉眼で見ても、《あと2年後にこの人は乳癌になる》とは判断はできなかった。ところが、画像のビッグデータをAIにマシンラーニングさせれば、乳癌になる人にその2年前から、正確な警告ができるように、なるのである。《このままいくとあなたは乳癌になる》と。
 わずかな画像のパターン変化から、AIが危険な兆候を見破ってくれるのだ。

 医師は、マモグラム中に認められる白いスポットが、はたして癌なのかどうか、眺めているだけでは知ることができない。それは「生体組織検査」をしてみないと確認はできない。しかしもし、実際にはなんでもなかった患者に生検をすれば、それは患者に余計な傷をつけただけということになってしまう。リスクとメリットを考えなくてはならぬ。AIは、医師のこんな悩みを軽減してくれる手助けをしてくれるわけ。

 今の課題。AIは、鼻の良い犬のようなものだ。犬の鼻は、人間には感知できない匂いを、ことこまかに嗅ぎ分けている。だが、それを言葉によって人間に対して、わかりよく説明することが、できない。

 こんどの新コロ流行に際して、AIには何ができたのだろうか?
 限定的なものだが、こういうことはできたはずだ。
 ある都市の中には、毎年、乳癌予防検診でマモグラムの撮影をしている人が、多く居る。ところが、こんどの新コロで、定期健診のようなノンエッセンシャルな医療サービスは、どの病院でも縮小するしかなかった。それでも、《あなたはどうしても今年もマモグラム撮影をしとかないとだめだぜ。なぜなら気になる兆候が去年、見えていたんだから》というアドバイスを、AIならば、出せたでしょう。

 新コロ対策にAIが役立つかどうかは、データをどのくらい集められるかにかかっている。マモグラムのデータですら、まだ、まったく数が足りていない。全米的な協力は、得られていないのだ。
 技術のネックではなく、データのネックがある。これが、AI診断の普及の前に立ちはだかっている、現実の壁である。

 次。
 Loren Thompson 記者による2020-9-22記事「Raytheon Presses Case For Replacing Lockheed Martin Radar In Missile Defense Of Japan」。
    いま、世界の中のレーダー・メーカーの中で、おそろしく遠い距離にある弾道弾などを存在探知して識別把握して追跡し予想する機能において、レイセオンRTXと、ロッキードマーティンLMTは、双璧である。
 他の、いかなる企業も、この2社がもっているような高水準なレーダーのハードおよびソフトウェアのノウハウは、有していない。

 だから、日本政府は、地ージスのレーダーを、この2社のうちのどっちかに、発注するしかない。
 どっちの性能が優れているかというと、これは微妙なので、バイヤーの選択は、コストで決まるだろう。
 しかし いろいろ人に話を聞くと、どうやらレイセオン社が優勢になっているようだ。

 レイセオン社は艦載のイージス用の新型レーダーの開発を米政府から2013に受注している。これは強みだ。
 「SPY-6」とよばれる最新モジュール。2平方フィートのレーダー素子集合板だが、これを、搭載する軍艦のスペースや目的にあせわて、たくさん集積させたり、少数だけ貼り付けたり、いくらでも融通を利かせることができる。

 たとえば、次の世代のアーレイバーク級駆逐艦(フライト3)には、このモジュールを37枚貼り付ける。それで全周警戒と追尾と誘導ができる。感度/分解能は今のイージスの80倍だという。
 また、既存の旧式イージス艦のアップデート改修には、この最新モジュール24枚を貼る。
 さらに、イージス艦ではないが、空母や強襲揚陸艦にも、この「SPY-6」モジュールを9枚、貼り付ける予定。新型フリゲート〔LCS後継〕にも9枚。

 メンテナンスのためのモジュールの交換は、1枚につき、工具2個あれば、数分でできてしまう。したがって維持費が、旧来のイージス・システムより安くなる――とメーカーは主張している。

 これに対してロックマートのは、完成してもいない。まだ開発中なのだ。「スパイ7」と呼ばれ、予定では、アラスカとハワイの、米本土防空用のGBIミサイル(それは艦対空のスタンダードミサイルとはまったく別種の地対空ABM)のために仕上がるはずのもの。なんとこれを日本政府は2017に、買う、と言ってしまったのだ。

 かつて日本ではこんな説明もされていた。イージス艦の起電力と冷却能力には限度がある。その制約がABM機能も制約してしまうのだと。

 「スパイ7」を艦載してはどうかという話も出てきた。だが「スパイ7」は、そもそも、シナ大陸から日本に発射されるIRBMの探知用ではない。ロシアから米本土に飛来するICBMの高速RVを探知するための専門レーダーなのだ。とうぜん、IRBMのRVよりもさらに低速の対航空機、対巡航ミサイルの探知用途などは考えてはいない。だから、もし「スパイ7」を艦載するとすれば、ソフトを一から書き直す必要がある。現実的なわけがない。

 ※「スパイ7」と「スタンダード」ミサイルのマッチングのソフトも存在しなかったわけで、地ージスがあのまま進められていたなら、そのソフトを一から書くコストを防衛省が負担させられていた。それだけでも防衛省は会計破綻したであろう。

 「スパイ6」のソフトのために米海軍が投入した国費をしらべれば、「スパイ7」に対航空機ミッションをあらたに付与するためのコストも、容易に想像はできるだろう。

 レイセオン社いわく。だからこそ、『タイコンデロガ』級イージス巡洋艦の古いレーダーを「スパイ7」に換装すればどうかという話だって、さいしょから可能性としては排除されているわけですよ。

 ※ロックマートの法務部門はおそらく世界最強だ。「スパイ7」を択んではいけなかったということも理解ができなかった防衛省の内局連中に、とうてい、民事法廷で対抗ができるとは思えないのだが……。



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