ミッドウェーの悪夢じゃ~! スピードが一番だいじという局面に立ち至るや、平時に選ばれた指導部が無能者集団になり果てる。

 『NYT』の2021-2-1記事「Moderna Could Boost Vaccine Supply by Adding Doses to Vials」。
  まず最新ニュース。南アフリカは最初のワクチンのバッチを受け取った。
   ※『パールハーバーの真実』で書いた日本人の悪い癖が、また繰り返されてるみたいだ。

 また最新の研究結果が示唆していること。すでに新コロに罹って治った人は、後からワクチンを1本だけ射てばよいと。2本射つ必要なしだと。

 またひとつの研究が示していること。英国変異型は、時間とともに、ワクチンへの耐性を強めつつあり。
 米政府機関によるワクチン接種と、米国内の変異型ウイルスの耐性強化とが、時間競争を展開している。

 旅客機と鉄道内では全乗客にマスク着装を義務付ける連邦法がまもなく施行される。
 かたや、CDCの調べによると、老人ホームの職員のすくなからぬ者がワクチン接種を嫌がっているようだ。
 モデルナ社は、1個のガラス瓶の中に封入するワクチン量を、1.5倍に増量したいと考えている。それによって配給スピードが上がるだろう。

 現行のモデルナ・ワクチンは、1瓶の中に10射分が詰められている。これを15射分の分量に増やしたい。

 米政府当局はそれをモデルナ社に許可するかどうか、3週間以内に決めるだろう。

 これは工場における増産のネックが、ボトリングとラベリングという、最終工程にあることとも関係している。液体の増産は比較的順調にできる。が、それを瓶詰めするラインのキャパが足らなくなってきた。

 製薬業界内においては、瓶詰めのフィニッシュ工程が、政策的な急造をするときの最大の足枷になるということはじつは前々から常識。しかし行政側にはその認識が欠けていた。

 モデルナ社がこの変更をFDAに認めさせるためには、1.5倍詰めても安全なんだという説得データをFDAに示さねばならない。ところが、そのデータが無い。

 従来のレギュレーションから考えて、1.2倍ならばすぐにも許可され得るが、1.5倍となればちょっとひっかかることがあり、FDAは許可しない可能性がある。

 業界の長年の慣行で、1瓶には10射分と決まっている。

 FDAは何を恐れるか? 瓶のゴム蓋を、注射針が貫通するわけである。それが10回なら汚染も起きず安全だということは、これまでのデータがある。しかし15回となったら汚染が起きないとは保証できぬ。そのデータが無い。したがって許可できぬ。
 この場合の汚染とは、瓶内のワクチンの中に外部からバクテリア(細菌)が送り込まれるリスクを意味する。

 さらにもうひとつの懸念。同じ容量の瓶の中に液体を詰めすぎると、ある限度を過ぎたときにその瓶は破損してしまう。
 じつはモデルナ社内で、その破損が起こらない限界を確かめる実験がされている。その結果、社の結論として、1.5倍なら大丈夫だろうと判断した。

 モデルナから増量についての提案が政府になされたという第一報は、CNBCが報じている。

 昨年の春よりも前、すでに連邦の防疫当局は、悩むことになるであろうさまざまな選択について検討を加えている。たとえば、複数の瓶の中に残った余りのワクチン液をひとつの瓶にまとめてもよいだろうか? これについては許可しないと結論されている。

 ファイザー・ワクチンの瓶については、定量が、6射分と厳密に定まっている。これより少しも増やすことはできない。瓶の容量にまったく余裕がないのだ。

 ところがモデルナ・ワクチンの瓶は、10射分よりもかなり多くの余裕の容積が、さいしょからある。

 最終工程はとうぜんながらロボット化(無人化)されている。マイクログラム単位で精密に計量されねばならないし、高度に汚染を防止する必要もあるからだ。げんざい、1分間に1000瓶が、詰められている。

 1瓶に15射分を入れることにも、兵站面でのリスクが伴う。たとえば、接種会場の病院で、それを射つべき人が、その日の最後に1人しかいなかったら、余った14人分のワクチンが、無駄になっちまう。「mRNA」利用のワクチンは常温ではすぐ失活するので、それはもう廃棄するしかないのである。

 とはいえ、補給を高速化しようとしたら、途中で無駄が生じたり、歩留まりが悪くなるのは当然のことで、それも見込んだ上で、今はスピードを重視すべき時だ。

 ※飛行機を早く収容したかったら甲板上の飛行機はぜんぶ海へ突き落とす。それと同じことよ。



パールハーバーの真実 技術戦争としての日米海戦 (PHP文庫)