「トランプの壁」は、コンセプトが未熟であった。なぜか? About an ideal design of the Mexican Wall.

 土地の境界壁には、目印用、防御用、防犯用などの用途があり、用途ごとに最適の形状も異なる。

 目印用なら、網フェンスや板塀でもかまわない。

 軍事防御用なら、土手や土嚢壁や壕や障壁帯や蛇腹鉄条網が必要だ。

 問題は防犯用。
 防犯用の壁のデザインは、外側からは内側が覗えぬこと、もし外側から越えようと図る者があらわれた場合には内側から即時に探知ができること、その探知した場所にすぐに警備の者を派遣し得るようになっていること、が必要なのである。

 米墨国境にトランプ政権が建設しようとした壁は、メキシコ側から徒歩で米国側へ不法越境しようとする犯罪者たちをためらわせ、犯行をあきらめさせようとする目的があるので、防犯用に分類できよう。

 しかるにトランプ政権がじっさいに建設させたメキシコ国境の壁は、外側から壁を越えようとする者があらわれたときに、内側から即時にその探知ができるようにはできていなかったし、その探知できた地点にすぐに警備の者を派遣し得るようにもなっていなかった。

 そうした基本の条件が満たされていなければ、壁そのものがいくら厚く頑丈で、高さがあろうとも、けっきょく犯罪者たちの浸透をゆるしてしまう。

 なぜなら、犯罪者は事前に何日もかけて道具類を準備し、夜のあいだに壁に近づき、夜明けまでの数時間をゆっくり使って乗り越え作業をすればいいのである。そう考えられる以上は、犯罪の抑止にもなりにくいのだ。

 それならば、いったいトランプ政権としては、メキシコ国境にはどんな壁を設けるのが合理的であったのか。

 スチール製の主壁の線は、国境線から1マイル以上、米領側にセットバックして、設立する。
 その主壁線と国境線との間の土地は、潅木を廓清して通視性を良くする。

 国境に沿っては、スペイン語で警告する標識の杭だけを植立する。それは夜間にはソーラーライトが点滅するので、そのエリアで発見された侵入者に「米領とは気づかずに迷い込んでしまった」という言い訳を不可能にする。

 そして国境警備要員の巡回は、主壁の内側ではなく、主壁の外側に沿って、車両とドローンを使ってひとばんに数度、スウィープする。
 これで、犯罪者には「時間」が与えられなくなる。

 米国側への密入国を試みる者は、まず主壁に近づくために「時間」が必要となり、被発見リスクを冒さねばならない。
 主壁にたどりついても、そこでゆっくり「作業」をしている時間はない。次の巡警がやってくる前に乗り越えねばならないからだ。

 密入国の実行を支援するメキシコ人のプロの組織犯罪者たちも、逮捕されるリスクがあるため、国境線を越えて壁際まで付き添ってやることはできなくなる。これだけで、密入国挑戦者のハードルは上がる。

 主壁には「半透視」構造の工夫も必要である。
 すなわち、内側から外側に対する十分な視野は得られるが、人がすりぬけるには無理のある巾の縦スリットを一定間隔で設け、ガラスで填実する。壁の内側を巡回する要員は、このスリットから随時・随意に、壁の外側の「無人地帯」を監視できる。しかし1マイル以上離れたメキシコ国境からは、このスリットを通して壁の内側の模様を窺い知ることはできないのである。



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