「生産性」異聞。

 Peter Martin 記者による2021-4-29記事「Why Productivity Growth Has Stalled Since 2005」。
    労働者ひとりあたりの生産性の伸び率は、2004~2005年がピークだった。そこから今日まで、趨勢として徐々に悪化しつつある。2018年にはついに1994年の生産性伸び率をも下回った。オーストラリア人による恐ろしい事実の発見。

 レイ・カーツウェイルが〔AIが人智を超えて爆発的に進歩する〕「シンギュラリティは近い」とのたまわったのが、まさに2005年だった。それは時代の瞬間的な直感としては妥当に思えたのであったが、外れた。

 1930年代にケインズは考えた。いつかは、平均的な労働者の1週間の労働時間は、15時間まで減るにちがいない、と。
 1970年代にアルヴィン・トフラーが、将来、1日の労働時間は4時間くらいになるだろうと予言した。
 これらも、外れた。

 豪州だけではない。米国について調べても、生産性の伸び率が最高だったのは2005年で、それ以降は、どんどん生産性の伸び率がすくなくなっているのだ。

 ロバート・ゴードンは、電気通信環境等に注目する。
 1880において米国都市部の住宅には電力線はつながっていなかった。しかし1940年には、都市部住宅のほぼ全戸でコンセントから電力をとることができ、94%の住宅には上水が供給され、80%の住宅には水洗トイレがあり、56%の住宅には冷蔵庫があった。

 100年前の豪州の労働者のうち、第三次産業(サービス産業)に従事していたのは5割。しかし今は、8割だ。
 100年前、豪州の労働力の45%が、農業や工業に属していた。今はそれが10%を切っている。

 サービス業の生産性向上が、あるレベルからは頭打ちとなるのは、尤もなことだ。
 たとえば老人ケアを考えてみよ。1日2時間面倒を見ていた老人を、1日20分に減らせばどうなる?
 週にいちどだった訪問介護を、月にいちどにしてしまえば、労働生産性は向上する。が、サービスとしては悪化するだろう。

 つまり、もはやこのうえは、サービスの質を悪化させぬ限り、サービス労働者の生産性は向上しない、というところまで来ているのである。

 第三次産業が、「ハード・リミット」――岩盤層 にぶちあたっているのだ。

 とくに効率向上が無理なのが、「アウトプットの大半」=「インプット時間」であるようなサービス。老人介護などはその典型だ。
 アウトプットをインプットで割れば、イコール、生産性だ。が、この割り算がそもそもナンセンスとなる業態が多いわけだ。
 1時間の従業によって、2時間、3時間のケアをさせようと考えても、いかなる天才ケアマネにも、その答えはみつからない。

 ※老人ホームを大都市の中心部の巨大ビルに集中させることが合理的となる理由がこれだね。超巨大ビルの中に、複数の高齢者福祉サービス法人を雑居させてしまえばいい。大阪に昔あった風俗雑居ビルみたいなのの福祉版を、規模を1000倍にして実現するとよい。それにしても昔の大阪のエロビデオ通販業者は良心的だったな。祈るような気持ちでVHSデッキに挿入して再生すると、内容に偽りはなかったからね。

 豪州政府の統計局はいま、「健康&社会支援」系のサービス産業について適用する「生産性」の数値化基準を考えちゅうである。
 この場合「平均寿命の変化」とか、患者・利用者たちに対する「満足度アンケート」の評価を以て、「生産物」と看做す考え方を導入するのがよいのではないかと彼らは思っている。

 米国労働者の3割が従事している「言語的説得業」=広告、公報、宣伝、法律業務等。これらについても、生産性を正当に数値化するためには一工夫が必要である。

 公務員や著述業者は、生産した文書の文字数を勤務時間で割れば、それで「生産性」が計られたことになるか? とんでもないだろう。短く伝えることのできる内容をわざわざわかりにくい長文にして大量供給されては、それを読まされる人々の時間がおびただしく浪費されてしまい、組織には損害を与え、社会の生産性を悪くする。
 話を短く、わかりやすくまとめてくれるほど、組織は得をし、社会の生産性は上がるのだから、そういうライターの能力を評価する方法がなくてはなるまい。

 記者は訴える。2005年以降、くだらないものが社会につけくわえられた。アイホンとツイッターだ。このツイッターに書き込まれる140字(今は280字が上限になった)は、わたしたちが平日に持っている24時間から、もっと有益なことに使えるはずの時間を、毎日、おびただしく削り取ってしまっている。その人数と時間とを掛けてみれば、おそるべき無駄が、全地球的に生じているはず。サービス業の生産性向上停滞に、こいつらも加担しているのだ。

 次。
 ストラテジーペイジの2021-4-29記事。
   米国防省に勤務する文官たちは70万人もいるのだが、その「三分の一」以上が、2020-3から2021-4のあいだ、すなわちチャイナウイルスの蔓延期間中、自宅からのテレワークに移行した。

 テレワークが不可能な従業員もいる。たとえば機器のメンテナンス従事者。医務官。警備員。高度な機密事項を取り扱わなければならない職員。

 70万人というのは全米と海外にまで散在している非軍人の総人数で、首都のペンタゴンで働いている人々に限ればその人数は軍人も含めて2万4000人である。ほとんどは非軍人だ。

 そしてペンタゴンの業務に関しては、8割が、すでにリモートワークに移行した。



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