西昌衛星発射センターから「長征3B」を夕方に打ち上げると豪州の東海岸地方において、ありありとその頭上通過が視認できることが9月28日に確かめられた。

 H I Sutton 記者による記事「This is What a Chinese Stealth Warship Looks Like on Radar」。
    中共の「外見は相当なステルス」なミサイル艇(022型)は、しかし、民間衛星の合成開口レーダーの撮像によっても、その軍港埠頭に所在する姿が、まる見えである実態が、判明した。

 2004年に1番艦が就役した「022型」は、窓枠すらギザギザのシェイプにして、レーダー波を発信源へは返さぬよう苦心しているのにもかかわらず、コレである。

 ※だったらもっと大きな駆逐艦、巡洋艦、補給艦、空母は、宇宙からは姿を隠せないよねという理屈。碇泊中でなく、座標がわからない洋心行動中の敵艦隊は、レーダー衛星の「編隊」を無数に周回させることで、その動静を探知・追跡できる。艦載レーダー波をパッシヴで捉えるシギント衛星とSAR衛星とをコンビにして、なおかつそのコンビを複数、「一列横隊」の編隊に組ませて、なおかつその編隊を何十セットも常時、極軌道と傾斜軌道で周回させておくならば……。ふつうの国にはそんなコンステレーションの調達も軌道投入もメンテナンスコスト負担も無理だが、中共ならば、それは実現可能なレベルなのである。なのに、なぜそれをやらないのか、という話。

 今回、米海軍ニュースのウェブサイトで公開された写真は解像度50cmで、「Capella Space」という民間会社が画像処理したもの。カネを払えば誰でも買えるのである。SARは夜間でも、雲があっても、関係ない。

 「022」型の総数はカウントされていないが、建造数のトータルは40隻から80隻のあいだである。基地はすべて判明している。
 「022」型は、かならず8隻が1組で行動するという顕著な特徴がある。つまりスウォーム運用だ。

 搭載ミサイルは「YJ-83」(ハープーンと同格)である。100海里先から、これを米空母艦隊に向けて64発、つるべ射ちしてくるわけだ。

 022型は、カタマラン船体、すなわち双胴構成で、両舷をステルスにするためにタンブルホーム、すなわち前から見たときに富士山形になるように、傾斜させてある。

 次。
 『ワイヤード』の2021-9-29記事「West Point Chemists Re-Create Medieval Gunpowder Recipes」。
    14~15世紀から欧州で製造されるようになった黒色火薬は、3つの成分を混ぜたものである。
 すなわち硝石(硝酸カリアム)、木炭(チャコール)、硫黄だ。

 だが欧州人は、シェフがレシピを工夫するように、さらに添加物を工夫していた。
 このたびウエストポイント陸軍士官学校内の研究チームが、それを再現し、レプリカ大砲で試験してみた。

 きっかけは、同学校で歴史教官をつとめるクリフ・ロジャース教授が、中世ドイツの火薬製造と大砲発射に関する手書きマニュアルをあつめた史料を精査するうちに、じっさいに試してみたくなったから。
 それらの草稿のうち古いものは1336年。新しいものは1420年に書かれている。
 どうやって当時のドイツ人が、さいしょは輸入品であった火薬組成に関する実験知見を積み重ねて、欧州製を急速に改良したかを、辿ることができるのだ。

 ロジャースは同僚教官で化学を教えているドーン・リグナー教授(♀)に火薬レシピのファクト・チェックをしてもらっている。この成果は今月刊行された学術誌『ACS Omega』に載った。論文主筆者はリグナー。彼女は、IEDの爆発現場のケミカル痕跡から、元の爆発物の組成を特定する専門家である。

 リグナーの娘はスティーヴンス工科大学の工学部院生だが、新コロのせいで昨年は暇していた。それで手伝わせることにし、工科大学のラボを借りて火薬を再現。

 中世のレシピには、成分を混ぜ合わせるときに、液体を加えるように指示してあるものがある。それは水であることもあり、ワニスや酢であることもある。それらをひとつひとつ、忠実に再現して行った。

 リグナーは考える。
 今日のラボに置いてあるような材料には、不純物は混入していない。ピュアである。しかし14~15世紀の火薬職人たちが調達した材料は、硫黄にせよ硝酸カリウムにせよ、かなり不純であったと考えねばならない。
 特に硫黄の中の不純物は除去する必要があった。それでワインだとか酢だとか、不思議な液体添加物が指定されているのではないか。

 中世火薬の組成は、近代の黒色火薬とくらべて、硫黄の比率が高く、硝酸カリウムの比率が低かった。

 酸化剤である硝酸カリウムは当時も非常に高額であった。そのために、大量に得ることが容易ではなかった。だから、高威力を追求しようとしても、硫黄ばかりが増えてしまうことになりがち。硝酸カリウムは不足する。その不足しがちな酸化剤を何か他の物質で代用できないかも、考えたことだろう。

 ドイツ人たちは、乾燥した三成分を、水和してペースト状に捏ね、そののち再び乾燥させ、不純物を除くというプロセスを完成する。

 リグナーは考える。
 ブランデーの中のアルコールが、チャコールの有機成分を補強することになり、それで火薬の燃焼に好い効果が生じたのでは?

 ドイツの職人は高性能の木炭もつくった。古くは、地面の穴の中でオークを燃やして木炭を得ていたのだ。だが、密閉した窯の中で柳を加熱して得たチャコールが、火薬として燃焼させたときにガスの発生量がはるかに大きいことを、ついに彼らは発見した。このガスが石塊を大砲から放発させ、中世の石の城壁を破壊するのである。

 実射の結果、当時のクロスボウから発射したボルトの飛翔速度よりも、1400年に製造された砲身長2フィートの喇叭状臼砲から打ち出す4インチ石塊の飛翔速度の方が大きかったのだと分かった。

 アーマーは、1337から1453の「英仏百年戦争」中に進化していた。

 ロジャーズ教授いわく。クロスボウや矢では中世後半の騎士たちのフルアーマーは貫通できなかった。しかし1500ジュールで飛んでくる直径4インチの石塊が当たれば、誰もひとたまりもなかっただろう、と。

 ざんねんなことに、試射をしたウエストポイントの射爆場は、人が着弾点に立ち入ることができない。不発弾だらけなので。
 そのため各レシピの火薬性能の比較はビデオ判定とするしかなかったが、どうしても弾道の最後の方がはっきりしなかった。
 リグナー教授いわく、これについては場所を変えてまた実験したい、と。

 ※この記事を読めば、どうして日本の科学力が米国に追いつけず、したがって産業が効率化せず、日本人のひとりあたりの稼ぎはいつまでも米国人のひとりあたりの稼ぎに劣り続けているのか、見当がつくだろう。日本学術会議などのおかげで、科学精神・実験精神が、封殺されているのである。『武器が語る日本史』の中で、わたしは、鎌倉時代から戦国時代末期にかけての矢と鏃を正確に再現して貫通力実験をしないといけないと主張し、その実験方法も提示した。たったこれだけのことを追試してみようという大学研究チームがないのである。日本全国に数百もの大学がありながら、日本学術会議のような勢力が、そのポテンシャルの芽をすべて摘んでいるのだ。

 ※『武器が語る日本史』の実験でわかったことは、鉄砲玉と同じくらいに矢も飛んでくる可能性のある戦場では、金属小札の「ヨロイ」は矢の防御にすこぶる有効であって、苦労してもそれを着用する価値があったということ。しかし鉄砲が中心になり、矢が飛んでくる可能性がなくなると、金属小札の「ヨロイ」は、もはや邪魔なだけとなったのである。



武器が語る日本史