非常食が最も切実に需要されるのは春先である。ということは—-庭や空き地や山に植える樹種の選択にも、その深慮遠謀が必要だ。

 Jesse Vernon Trail 記者による記事「Edible Trees: Foraging for Food from Forests」。
   カエデの木の樹液からメイプル・シロップができることは皆、知っているだろう。
 ところが、カエデの木の若い葉、さらにはタネも、じつは食用に適しているのである。

 さらに、カバノキの仲間。その内側の樹皮や、若枝を、やはり人間の食用にすることが、できる。
 のみならず、カバノキからは甘い樹液も採れるのである。

 松の仲間の多くも、内側の樹皮やタネが食用になる。

 北米の東部で高さ30mになる「アメリカブナ」。実は、食べられる。
 それだけでなく、春にこの若い葉を、人間が食べることができる。
 また樹皮の内側部分を乾燥させ、粉にして、小麦粉に混ぜてパンに焼くとよい。この樹木が自生している地域では、これが最良のサバイバル食糧源になり得る。

 むかし、北米インディアンは、カバノキ属の樹皮の内側層だけで、保存食を作っていた。乾燥させて粉にするのである。
 その時間がないときは、樹皮の内側層を紐状にカットしてボイルするだけで、ヌードルのようにして摂取できる(味付けは別に工夫が必要)。いよいよ余裕がないときは、生でもOKだ。
 カバノキ属の幹に穴をあければ樹液を採取できる。そのまま飲用してもいいが、煮立てると、ほんのり甘いシロップになる。

 シナノキ属の春の若葉はナマで食べられる。軽く調理しても可。

 メイプルシロップを採るのはサトウカエデからだが、もっと巨木の他のカエデ属の樹木からも甘い樹液が得られることは知っておけ。

 北米インディアンや初期開拓者たちは、それら樹液を春先に生で飲用して、リフレッシュしていた。

 樹皮の内側層は、生食できる。
 またインディアンたちは、カエデの大き目の種を集め、その外皮をとってボイルして食べていた。

 桑の実が食用に適することは知られている。が、じつは、春に延びる小枝も生食できるのである。味は甘い。もちろん煮てもよい。

 ブラックウォルナット(北米種の胡桃)や、バターナット(白クルミの樹)も、その果実だけでなく、その樹液がシロップになることは、知っておけ。

 樫の木のどんぐりが食べられることは誰もが知っている。
 ただし種類によって苦いものと甘いものとがある。それは地域によって差があるので、あらかじめ調べおかざるべからず。

 ポプラやアスペンの樹皮の内側層は、生食できる。カロリナポプラの尾状花序も、食べられる。

 クスノキ科のサッサフラスの樹。その若芽と若葉はサラダによい。

 北米楡[ニレ]の樹皮の内側層はベタつくが、滋養に富んでおり、生食しても煮て食べてもよい。

 柳の樹皮の内側層は、生でも、紐状に割いて煮ても、乾燥させて粉にしても、食べられる。若葉は苦いのだが、非常食として食べることができる。

 マツ科の植物は、樹皮の内側層にビタミンCとAが豊富。だから昔は壊血病の薬とされていた。
 春先ならば、樹液を飲むこともできる。

 マツの針葉にはビタミンCと澱粉質が入っている。若葉であれば苦さも我慢できるレベルなので、これをチューインガムのように口の中で5分噛み、汁だけを嚥下せよ。

 マツの実はいっぱんに殻を剥いでローストすれば食べられるのだが、問題は、それを集める手間だ。
 そこで、マツの種類が問題となる。
 チョウセンゴヨウ、イタリアカサマツ、米国南部に自生するピニオンパインであれば、1粒がヒマワリの種並に巨大なタネを集めることができるぞ。

 マツの雄樹の、花粉を飛ばす球果も、その花粉ごと、食べられるのだが、強烈にマズいから調理が必要だ。

 春には松の花粉が金色のじゅうたんのように地表に降り積もり、スコップですくいとるほどになる。それらは、食べられるのである。

 クロベ属のヒノキにも、樹皮の内側層を食べられるものがある。

 樹液を採取しようと思ったら、直径18インチ以上の太い幹を選ぶべし。1つの傷からは1~2クォート(1.9リッター未満)のシロップが得られる。1本の樹からは、1年に1ガロンのシロップが得られるであろう。

 古来のインディアンの方法はこうだ。V字の刻みを入れる。その傷の下端に深さ2インチの穴をドリルで掘り、杭で栓をしておく。

 バケツをもってきて、栓のサイズの筒/樋に挿し替え、樹液を回収する。
 バケツをつるしておくための釘も打つとよい。

 この樹液を水で35倍に薄めて煮る。煮ながらゴミを取り除く。すると琥珀色のシロップが最後に残る。

 ※いままでわたしは漠然と、夏以降に実が成る植物を山野にはびこらせることで《働かなくても食べていける社会》の実現が近づくと考えていたが、たとえば北鮮のようなこの世の地獄でも、秋の収穫物のストックで冬を越すことはたいていなんとかなっている。問題はむしろ、冬のおわりから、春先のシーズンなのだ。となれば、春先に樹皮や新芽を食用にできる野生植物をこそ、平時から調査研究し、人々に周知させる啓蒙が必要なのだ。この英文記事に書いてあるような知識、特に松以外の樹皮が食べられるとか、桑の若枝が腹の足しになるといった智恵を、わたしは過去の救荒食案内の古資料で読んだ覚えが無い。これは、日本の過去の「飢餓」が、北米に比して微温的であったことを意味するのだろうか???

 ※この記者氏には『植物のすごいサバイバル戦略』という単著があるそうだ。たぶん未訳で、内容は、人間の救荒食とは関係なく、植物の身になった生存適応の話なのだろう。

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★《続・読書余論》『アメリカ戦時経済の基礎構造』S16、他。