同型巡洋艦をウクライナも保有しているのだから、弱点は知悉しているよね。

 Sean Spoonts 記者による2022-4-15記事「Moskva Hit by Two Cruise Missiles: Here’s What We Know So far」。
   以下の時系列がわかっている。
 木曜日の0100時、ロシア国防省は『モスクワ』の爆発火災を認めた。

 0105時、『モスクワ』がモールス信号によりSOSを送信したと報じられる。
 0114時、左舷への傾斜が進行し、艦内爆発が続いていることを『モスクワ』は無線で送信。
 0147時。『モスクワ』は全電力喪失。

 0207時、SOS信号に応じた1隻のトルコ商船が報告。『モスクワ』は沈みつつあり、水兵54名が『モスクワ』から海に飛び込んだ。

 0248時、トルコ政府とルーマニア政府は報告。巡洋艦『モスクワ』は沈没した。

 ウクライナ軍はこのとき、3機の「TB2」を黒海上空に飛ばして、『モスクワ』の注意を惹き付けていたと。

 『モスクワ』は、念のため、このTB2からのミサイル攻撃を用心して、艦首をTB2の方位へ正対させたと思われる。対艦ミサイルから見た命中面積を最小化するために。

 空中脅威に艦首を正対させた方が『モスクワ』の対空レーダーと対空ミサイルは機能を発揮しやすくなる。もともと、前方180度の範囲に対して対空戦闘するように、システムができているのだ。

 『モスクワ』は、しかし、3機のドローンを、長射程の艦対空ミサイルによって撃墜しようとはしなかった。その理由はいろいろ考えられるが、単純に、ミサイル(大型で高額で稀少)を惜しんだとも考えられる。

 そのときオデッサの海岸の、車載ラーンチャーから、つるべ射ちに2本、「ネプチューン」が発射された。そのラーンチャーに対して『モスクワ』は左舷を見せていた。距離は40~60海里。

 ※60カイリ=111.12kmなので、ハープーンであっても届いたかもしれない。露側はハープーンはいちおう警戒して、ギリギリの距離をとっていたのか?

 時刻は深夜であり、天象は雲が垂れ込め、雨が降っていた。
 この降雨が、シースキミングしてくるネプチューンの、艦載レーダーによる探知距離を、一層、縮めたと考えられる。

 ネプチューンは、標的までの距離12カイリまでは高度50フィートで飛ぶが、12カイリ地点で3フィートまで降下し、同時に、アクティヴ・レーダーをONにする。

 もし『モスクワ』がこれに気付いたとすれば、急いで艦首をネプチューンの飛来方角に向け直すとともに、チャフを散布し、短射程SAMから機関砲までの、あらゆる火器で、迎撃を試みたはずである。

 ネプチューンの飛翔速度は、時速700マイル強なので、もし発射と同時に艦載レーダーで探知ができたとしたら、『モスクワ』が対応する時間は、4分(距離40海里だった場合)から7分(距離60カイリだった場合)、与えられたはず。

 しかしウクライナ側は、『モスクワ』艦内の夜間当直の交代時節(深夜零時ちょうど)を狙った可能性がある。

 下番者と上番者が、CICルーム内で申し送りをおこなうのだが、そのときレーダースクリーンからは目が離れるものだ。

 そして艦内でいちばんセンサー機材に熟練している古参兵曹や古株将校は、深夜の上番などしない蓋然性が高い(熟睡特権を行使)。

 『モスクワ』は2018年から2020年のあいだに、船体と主機の改修をしているが、センサーの近代化は、予算不足によって見送っている。つまり1979年のシステムが残っていた可能性すら排除できない。

 なすすべなく、どてっぱらに2発喰らった可能性がある。

 さて、一体なぜ『モスクワ』は、ウクライナ沿岸から60海里以内までも敢えて近寄っていたのか?

 「対空ピケット艦」の任務を与えられていたのだろう。
 ウクライナの固定翼機や回転翼機が、海岸線より南を飛行してマリウポリを支援するオプションを封じたかったのだろう。

 「轟沈」でなく、しばらく浮かんでいたのは、艦底には孔が開かなかったからだろう。
 未確認であるが、2発のうち1発は、命中直後に弾頭の大爆発を起こしていないのではないかという疑いもある。

 露軍はセバストポリまでの曳航を試みたようだが、海水温度が華氏50度台〔摂氏10度台〕と低いため、ダメコン・チームは特別なスーツを着用しないかぎり、低体温症になってしまって、働けなかっただろう。
 ※4-14は奇しくも1912年の『タイタニック』が沈んだDATE。あっちは北大西洋だが。

 乗員500人の運命は、暗いだろう。

 ウクライナ側は、これからは沿岸機動によってマリウポリ救出作戦を梃入れできるようになった。

 ※雑報によると、たちまちにしてロシア艦隊は一斉に黒海を南下し、ウクライナ沿岸から遠ざかってしまったそうだ。

 ※さらに雑報。ウクライナ軍の「T-64BV」戦車が、その戦車砲の仰角を最大にして、HE弾を10km先の目標に向けて発射している。間接火力支援だ。そうなのだ。いまやATGMの脅威下で、戦車にできる仕事といえば、「自走砲」の代わりになることぐらいなのかも……。